大便小僧
一方その頃。
「遅い!何をやっているんだあいつは!」
ダンジョンの最奥部で、ロッツが苛立たしげに足をにじる。思った通りダンジョンは単調で、ラピス以外の3人はすぐに目的地にたどり着いた。
だが、メンバーにシーフがいるため、やはり宝箱の開錠は彼にしかできない特別複雑なつくりになっていた。初級ダンジョンではチームワークを高めるため、班ごとにそういった配慮がされている。
「……力ずくで開けてみようか」
セイシロウが提案すると、ロッツが静かに首を振る。
「それがトラップのキーかもしれない。正攻法で開けるべきだ」
いかにも優等生らしい答えだが、結論から言うと別に力ずくでも構わなかった。
トイレでもない場所で1分以上小便を垂れ流しつづけるような、相当に恥知らずなことをしでかさない限りトラップは発動しない。
そんなことを知らない彼らは、ラピスを信じて待ち続ける。ロッツは歯噛みして足をにじり、メルドはパクパクと菓子を食べ続け、セイシロウは腕を組んで瞑目する。
しかし当のラピスは既に物言わぬ小便小僧に成り下がっていたので、いつまで経ってもやって来ない。やがてメルドがそわそわと体を動かし、落ち着かない様子を見せる。
「どうした、メルド」
意外と仲間を気にかけているセイシロウがすぐに気づいて声をかけた。メルドはびくりと体を震わせたものの、すぐに笑顔を見せる。
「あ、あはは、なんでもないよ。ただちょっと、ラピスくんが心配で」
「確かに、いくらなんでも遅すぎるな」
「ふん、こんな低俗なダンジョンに危険なんかないさ。あの馬鹿、俺たちのことを忘れて帰ったんじゃないだろうな」
「……僕、ちょっと見てくるよ」
「待て、俺も行く」
動き出したメルドをセイシロウが引き止める。メルドは笑顔で静止した。
「心配しないで。すぐ戻るから。入れ違いになったら困るしね。万が一ラピスくんがトラップに引っかかってたら、助けてくるよ」
ここで「プッ」と、場違いな音が小さく響いたが、セイシロウは気にしなかった。
「でも、一人で動き回るのは……」
「セイシロウ、行かせてやれ」
見かねたロッツが言うと、メルドは「ごめんね、すぐ戻るよ」と言い残し、そそくさと来た道を引き返していった。その顔は少し赤らんでいた。
(ロッツくん……聞こえてたのかな)
腹をさすって早足で歩く。先ほど響いた小さな音。それは、メルドの屁だった。小柄な体で大食いの上、気遣いのしすぎでストレスも溜まっており、そのせいで便も溜まっていた。
我慢の限界だったから、ラピスの捜索にかこつけて2人から離れたのだ。
(トイレなんかないよね。……仕方ない)
メルドは覚悟を決めた。野糞をするしかない。
高貴で清純なメルドにとっては勇気のいる決断だったが、2人の前で漏らすよりはマシだ。自分の便の臭いが強烈なことを自覚しているので、なるべく2人から離れるため、脇道を奥へ奥へと急ぐ。腹がぐるぐると鳴り、抑えた尻から屁が漏れる。
(も、もうだめ……)
糞の先端が肛門から顔を覗かせたころ、開けた広間にたどり着いた。静かな空間にジョボジョボという水音が響いている。中央に溜池があり、畔に立った小便小僧から水が出ているようだ。
(よ、よし!ここにしよう!)
水辺なら尻を洗えるし、小便小僧の音で排泄音が少しは紛らわせるかも知れない。邪魔なローブを脱ぎ捨て、ズボンと下着をずりおろす。帽子は被ったままだ。
ほかに物陰らしい物陰は見当たらなかったので、小便小僧の隣へしゃがみ込んだ。
(メ、メルド!来てくれたんだな!よ、よかった。これで助かる……!)
小便小僧ラピスは、歩み寄るメルドを見て安堵した。メルドなら状態異常解除の魔法を使える。こんな姿を見られるのは恥ずかしいが、それどころではないし、メルドなら皆に言い触らして笑いものにしたりもしないだろう。
だが、早足で傍にやってきたメルドはラピスと目も合わせず、隣でごそごそと音を立てて座り込んでしまった。
(メルドのやつ、何やってるんだ?)
顔を動かすこともできないラピスが訝しんでいると……。
ブウゥッ!ブリブリッ!ブブウッ!
静かな広間に爆音が鳴り響く。途端に立ち込める悪臭。
ま、まさか。
よぎった不安は的中した。
「ふんっ!んんぅ~っ!」
ブリッ!ネチネチ、ブブウッ!
甲高いいきみ声に、品のない排泄音。もわっとした悪臭がラピスの石の体を撫でる。
(ウンコしてる!?はぁ!?ふざけんな!こんなとこで野糞してんじゃねえよ!きたねえ!)
小便を流し続ける自分のことは棚に上げ、激怒する。
頭の回転が速いラピスには、最悪の未来が予測できていた。
(い、今すぐウンコを止めろ!お前まで石になったら、誰がオレを助けるんだよ!)
小便小僧の言葉など、排便中のメルドに届くはずもなかった。
「ふん゛っ!! んん゛~っ!!」
鼻息も荒くうんこを踏ん張るメルド。既に足元には硬質の便が2本横たわっている。
自分の便の悪臭が気になるが、トイレではないので途中で流すこともできない。
臭いで誰かに気づかれなければいいけれど……。
(そういえば、ラピスくんはどこへ行ったんだろ。まずいな、この辺りにいたりして)
ふとラピスのことを思い出し、あわてて見回す。自分と小便小僧以外には誰もいない。安心して息を吐く。クラスメイトにうんこを見られるわけにはいかない。
冷静になるとおかしなことに気が付いた。自分の便臭に交じって、強烈なアンモニア臭が立ち込めているのだ。大便はもりもり出しているが、小便はまだ一滴も出していない。それなのに、きつい小便の臭いが鼻を刺している。
(うぅ、臭っ。オシッコくさい……。そういえば、この小便小僧の水、妙に黄色いな。まさか、本物の尿ってことは……)
横目に見上げて、観察してみる。丸出しのペニスから黄色い小便を撒き散らす小便小僧。一般的な小便小僧よりは背も高く、顔立ちも秀麗だ。その秀麗な顔立ちを、鼻をほじるというポーズで台無しにしている。
奇妙な意匠の小便小僧の顔は、消えた学友に瓜二つだった。
「あれ?この像、なんかラピスくんに似てるような……」
ブウウゥーッ!ブリッ、ブリブリブリッ!
「ほぅっ♡♡♡」
あと一瞬で真実にたどり着いただろうが、特大の屁に乗って勢いよく飛び出してきた大きなバナナ糞に思考を奪われる。小柄な美少年がひり出したとは思えない巨大な糞の塊が、ぼてっと音を立てて2本の糞の上に鎮座した。快便の快楽に、とろんと顔が蕩ける。
「ふひぃ~~、いっぱいでたぁ♡」
大きく開いた肛門をひくつかせ、緩み切った顔で余韻に浸っていた、その時。
バキバキバキッ!ピシッ!
「はへぇ?」
育ちの良い少年魔導士は、排便ポーズの下品な石像に成り下がった。
「ダンジョン内で300g以上の糞をひり出す」―――。あろうことか、こんな条件のトラップに引っかかってしまったのだ。
(そ、そんな!僕、石になっちゃったの!?こ、こんな姿で!?)
焦る胸中とは裏腹に、顔は品のない笑顔だ。糞の上でしゃがみ込み、顔の前で両手の拳を握ったポーズも相まって、糞を出しきった瞬間石化したことがバレバレだ。
なんとか魔法を使おうともがいた結果、植物魔法が暴発しただけだった。
メルド自身の石の体を苔が覆い、かえってみすぼらしい姿になる。
しかし、さらなる恥辱と苦悶が、快楽を連れてやってくる。
ブリッ、ブリブリッ。
(はうぁっ!?)
あれだけ出したというのに、開いた肛門から再びうんこが垂れ落ちてきた。
このトラップで石化したものは、糞を出し続ける大便小僧になってしまうのだ。
(ひいいぃーっ!これ以上出したらおかしくなっちゃうよ!……ぅお゛おっ♡でりゅ♡まだ出てりゅ♡誰か!ラピスくん!助け……はっ……!)
気づいてしまった。隣で響く放尿音。先ほど見上げた小便小僧の顔。
(ら、ラピスくん……!き、君もトラップに……!ぅ……くさくてゴメ……んほお゛っ♡)
ブブウッ!ブリブリッ……!
こうしてラピスとメルドは、仲良く並んで排泄物を垂れ流すことになった。