冒険者学園の石化トラップダンジョン(初級) - 2/6

小便小僧

「ちっ、あの堅物。無駄に引き止めやがって……」
ラピスは脇道の奥へ向かって走っていた。その表情にはいつもの余裕がない。

(も、漏れる……っ)

水を飲みすぎたせいか、先ほどからずっと尿意をこらえていたのだ。ラピスは4人の中で一番流行に敏感で見た目に気を使っていることもあり、軽薄そうに見えて結構恥ずかしがり屋だった。クラスメイトの前で立ちションなんてできるわけがない。
だんだん走り方が内股ぎみになり、股間を手で押さえて冷や汗を飛ばす。余裕に満ちた笑みを浮かべている普段の余裕はない。

しばらく走ると、少し開けた空間に出た。丸い広場のような空間の中央に、小さな溜池がある。

「ここまで来れば大丈夫だろ」

汗を拭い、溜池の前へ。きょろきょろと辺りを見回し、誰もいないことを確認する。
既に尿意は限界だった。小洒落た黒の短パンに慌ただしく手をかける。金属のベルトがやかましく鳴る。勢いよくチャックを開けると、大ぶりのペニスがボロンと飛び出した。

シャァーッ。

同時にその先端から、黄色い尿が発射された。

「ふぅーっ」

がばっと大きく股を開き、左手でペニスを支え、右手でもう一度額の汗を拭う。表情には安堵が滲んでいる。

ジョボジョボジョボ。

池に尿が落ちる派手な音に少し赤面する。だが、どうせ誰もいないからと割り切ってしまうと、途端に気が抜けてきた。

「ふわぁー、だりぃー」

右手を伸ばして大あくびをかます。その間も尿の勢いは落ちる気配がない。喉が渇きやすく大量に水を飲んでいたし、そもそも学園のトイレを使うのが恥ずかしいので、朝からずっと尿意を堪えていたのだ。溜まりに溜まった小便を放出する解放感にすっかり気が緩む。

気が緩みすぎたのか、あくびが終わると同時に、ラピスは右手の人差し指を鼻の穴に突っ込んだ。
無意識に鼻をほじり始めたのだ。右の鼻孔が大きく膨らみ、ぽかんと口が開く。人一倍見てくれに気を遣うラピスが、人前では絶対に見せない間抜け面。
そんな顔で、小便を撒き散らし続ける。アンモニアの臭いが充満し、池の水が黄色みを帯びる。放尿を始めてから1分ほどもたった、その時。

パキッ。

すぐ近くから、いやに硬質な音が響いた。

「なんだ?」

ペニスを丸出しにして、鼻をほじくり、小便を飛ばして、ラピスが呟く。と、同時に。

バキバキバキッ、ピシッ!

「ほえっ?」

間の抜けた短い悲鳴を最後に、ラピスは言葉を発せなくなった。
それだけではない。大股に開いた足も、鼻に突っ込んだ右手の指も、ペニスを握る左手も、そして尿を吐き続けるペニスも、微動だにできなくなったのだ。

(な、なにが、起きた……?)

ぼんやりと霞む視界の奥に、黄色がかった池が見えた。
滝のように落ちる小便で揺らぐ水面に映った自分の姿を見て、驚愕する。

ラピスは、石になっていた。

頭の先から爪先まで、着衣すらも、白っぽい石になり果てている。
石になったペニスから尿を出し続けるその姿は、まさに、小便小僧。いや、鼻をほじっている分、そんじょそこらの小便小僧よりひと際滑稽だ。

(う、うそだろっ!?)

信じられない反面、頭の回転の速いラピスはすぐに理解した。
これがトラップなのだと。

「ダンジョン内で1分以上放尿し続ける」――これがトラップの発動条件の1つだったのだ。

全身が石になってなお、小便は止まらない。静まり返った地下空間に、ジョボジョボという水音だけが空しく反響していく。

(そ、そんな! ヤバイ! た、助けて! メルド! ロッツ! セイシロウ!)

慌てふためく内心とは裏腹に、その表情は呑気なアホ面だ。
ぽかんと開けた大口。きょとんと見開かれた目。そして、指を突っ込み膨らませた鼻。
こんな気の抜けた顔を張り付けて、ラピスは硬質な白い塊と成り果てていた。

(い、いやだ!こんな所で死にたくない!小便、止まらないぃ!誰か、誰か助けてぇ!)

このトラップで石化すると、小便が止まらなくなる。石化が解除されるまで、小便小僧として尿を撒き続けることになるのだ。
補助系魔導士のメルドが傍にいれば、すぐにでも石化は解除され、大した騒ぎにもならなかっただろう。
だが、自ら進んで単独行動をとったがために、ラピスの顔をしたこの小便小僧の発見は大きく遅れ、大げさなものになってしまう。