璃月港郊外。狭い路地裏を、二人の少年が駆けていく。
邪気祓いの札を指に挟んだ方士の少年・重雲と彼の友人で大商会の御曹司・行秋。彼らの後ろを、正気を失った兵士たちが追いかけてくる。暗雲が街を覆ったかと思うと急に人々の様子がおかしくなり、無事だった重雲達は凶暴化した一般市民に襲われたのだ。
大通りを走る二人。流れていく視界の端々で、神の目を持った友人知人が痴態を繰り広げていた。彼らは一般人よりもさらに様子がおかしく、とても正気では晒せないような姿を見せている。ある者は恥部を剥き出しにして踊り狂い、ある者は柱に股間を擦りつけて絶頂し、またある者は自らの元素力で自分自身を痛めつけながら自慰に興じる。
「はぁっ、はあっ。胡桃や香菱も敵の手に堕ちていた。あんなに腕が立つぼくの叔母もだ。この国で正気を保っているのはぼく達だけかもしれないぞ」
「ああ。総務司や千岩軍も全滅だ。それどころか、七星の天権や玉衡など、群玉閣の上から笑顔で尿を撒き散らしていたよ。もはや璃月港は完全に敵の手に堕ちたようだね」
行秋が冷静に分析する。人を食うような発言が多い彼らしく、こんな時でも余裕を保っていた。対する重雲は友人を弄ばれたせいか珍しく激している。
「くそっ、妖魔め!許さないぞ!」
「妖魔かどうかはともかく、敵が人知を超えた存在なのは間違いない。僕たち2人では分が悪いな」
「だからって、皆を見捨てて逃げるわけにはいかないだろう」
「もちろんさ。そんなこと、義侠の心に反するからね」
「ならどうするんだ」
「ほら、あそこ。黒雲が集まって、異様な光を放っているだろう。あそこが怪異の中心地だ。そして恐らくそこに、彼も駆け付けているに違いない」
「彼?誰のことだ」
「いつもこの国の安寧を守ってくれている仙人。この窮地を覆すことができる実力の持ち主」
ああ、と重雲が手を打った。
「降魔大聖か!」