放尿ハロウィーン! 常識改変でゴーストタウンと化すニューミリオン - 7/8

天気の良い昼下がり。ニューミリオンは今日も平和で、穏やかな日常が流れている。

「おおう、グレイ。お前も犬の散歩か」
「あっ、キースさん。こんにちは」

グリーンイーストの海岸で、キースはイーストセクターのグレイと出くわした。愛犬家で物静かな、心優しい青年だ。グレイは礼儀正しくキースに挨拶すると、身をかがめてキースのペットの頭を撫でた。

「ふふっ、ディノくんも、元気そうだね」
「わうっ!わうっ!わおーん!」

媚びるように鳴いて尻に刺さった尻尾バイブを振り回すのは、ディノだった。相変わらずキースの犬として、毎日四足歩行で暮らしている。
ディノにペロペロと顔を舐められ、くすぐったそうに笑うグレイ。微笑ましい光景だ。……ディノが人の形さえしていなければ。

「お前の犬も元気そうだな……って、おいおい、ションベンしてるぞ」
「あっ!ダメじゃないか。海でオシッコしちゃいけないって、いつも言ってるよね」
「クウゥーン♡ きゃいん♡ きゃいぃ~ん♡」
「かわい子ぶっても駄目だよ、ビリーくん!」

大きく片足を上げ、ぶら下がったペニスから尿を飛ばしているのは、ビリー・ワイズ。グレイの同僚で、親友でもあるイーストセクターのルーキー……だったが、今はディノ同様、舌を垂らして四つ足で地を這う人の形をした犬だ。
トレードマークだったゴーグルはもう着けていないため、クリクリとした大きな目を輝かせる様子は、本物の子犬と大差なかった。

 

 

「まぁそう叱ってやるなよ。犬なんだからさ。所かまわず糞尿撒き散らして、いい気なもんだぜ。大きい方なんざ、始末が面倒でよ」

キースがスコップとビニール袋をちらつかせると、足元のディノが申し訳なさそうに一声鳴いた。

「あはは。でもそういうところも含めてかわいいんですよね。どんな姿も愛くるしいっていうか」

グレイが砂浜に膝をつき、放尿するビリーの上半身を抱えて頭を撫でる。ビリーは幸せそうにワンワン鳴いて、尿を飛ばすペニスをぶらぶらと動かしていた。

 

 

 

 

ニューミリオンの日常は、すっかり変わってしまっていた。
平穏で、笑顔に溢れ、しかし、狂っている。多くの者が便器や動物やその他もろもろ、人間を辞めておかしなものに成り下がり、残った者もそれを当たり前だと受け入れてしまっている。狂気は伝染し、やがて全ての市民が人としての生を失うことになるだろう。街全体に鐘の音が響き渡り、霧のような膜に覆われ外界から隔絶している。もはやゴーストタウンも同然だ。
そのことに気づいている人間は、ただ一人。

「ふふ、大変興味深い現象ですね。」

ノースセクターのヒーローで、優秀なサブスタンス研究者でもあるヴィクター。サブスタンスに耐性があり、非科学的なものを全く信じない彼には、今回の怪奇現象も影響を及ぼさなかった。

「優れたヒーローである彼らまでこの有様とは。ここまで強力なサブスタンスは初めてです。まぁ、何者かの攻撃というわけでもなく、ただの力の暴走のようですが」

目の前にある便器の頭を撫でて笑う。便器は白目を剥いて舌をだらんと垂らしていた。

「あ゛ー、あ゛ーっ」

ゾンビのような声をあげるソレは、マリオンだ。隣には、レンとガストも壁に埋まり、1フロア上のジュニア達と同じように便器と化している。ただしこのマリオン達はまだ便器と同化はせず、生身のまま人間の小便をエサとして生きている。

「原因がわかっている以上、解消することも可能なのですが。せっかくなので、しばらくは研究させてもらいましょうか。あなた達のこんな姿が見られるのも、今だけでしょうからね」

大キライなヴィクターに顔をいじくり回されても、マリオンは奇声を上げるだけだった。

結局この現象は、美術館にあったサブスタンスに、ニューミリオン中の邪な思念や怨念がまとわりついて力が暴走した結果だった。憑かれた人間は自らの秘められた変質性や支配願望、被虐趣味その他の欲求に支配され、それは驚異的なスピードで街中に広がっていた。
今やヒーローも市民も皆、ヴィクターのおもちゃ……もとい、研究対象だ。

「安心してください。データが取れたら、元に戻して差し上げます。それまで、お付き合いくださいね」

満面の笑顔を浮かべて、マリオンの舌に注射を打つ。大キライな注射を打たれたマリオンは、その強力な媚薬によりぐるりと白目を剥いたかと思うと、口元を吊り上げてだらしのない笑顔を浮かべた。ボタボタと涎を垂らして、媚びた声音で喚く。

「あへぇっ♡ もっとぉ♡ もっと可愛がってぇ♡ もっとおチンポ、ちょうだいぃ♡」

マリオンの嬌声に呼応するように、レンとガストもアヘ顔で奇声を上げた。
上の階ではジュニア達4基が今日も小便を求めて口を開けている。
砂浜ではビリーやディノが性器丸出しで駆け回っていた。

「ふふ、非常に興味深い研究ができそうですね」

狂ってしまったゴーストタウンで、探求欲に憑かれた狂気の科学者が一人、終わりのない人体実験にのめりこんでいった。

ハッピーハロウィン!