第1話 マヌカンピスの戦い - 3/3

「おっほおおおお゛ぉ~~~っ!!センズリ最高っ!お゛っ!おお゛っ!おほぉっ!ゼンズリィ~ッ!!」

早朝の湿原に、間抜けな奇声が響き渡る。
声の主はもちろん、あのルスランであった。

上半身には銀に煌めく鎧を纏い、下半身は丸出し。裸足で泥の上に立ち、股を大きく開いて右手で激しく己の逸物を扱き上げている。左手は頭を支え、腰を大きく前に突き出す。一心不乱に自慰を続ける姿に、半刻前の勇士は面影もなかった。

何事かと集まってきた両軍の将兵が遠巻きに取り囲む中、数千の視線を浴びるルスランは行為を止めることはなく、それどころかその場で回転し、全方位に痴態を振りまく。

「わっ、我が名はルスラン!グラギーノフ魔導帝国の常勝将軍である!俺のイキザマ、とくと見るがいい!んおっ!おっ!おお゛ぉ~~っ!」

戦場に轟く大声で名乗りを上げたと思うと、大きく開けた口から涎を飛ばし、白目を剥いて雄叫びのような喘ぎ声を上げる。

もともと戦場で性処理を行うような男ではない。溜まりに溜まった若い精子がぴゅっぴゅっと間欠泉のように吹き上がる。

星辰同盟の兵は武具を打ち鳴らし、手を叩いて歓声を上げる。帝国兵は英雄の突然の狂態に声も出ず、唖然として見守っていたが、ややあって一斉に罵声を浴びせた。

「血迷ったかルスラン!敵前で何をやっている」
「帝国の恥晒しが!今すぐ股間のものをしまえ!」

罵声が飛ぶ度、ルスランは泥の上を踊るように飛び跳ねて、声の方向へ精子を飛ばした。大股に開いた脚をぱこぱこと開閉し、尻を前後に振る。

「ん゛おっ!お゛お゛っ!お゛ほおおぉーっ!敗北射精の快感、戦勝の盃などよりはるかに勝る!さぁ、貴様らも、早く降参するんだ!」

顔を赤らめ、品のない笑顔まで浮かべて精を飛ばすが、内心では逆のことを考えていた。

(ち、違う!違うんだ!見るな、こんな姿を見ないでくれ!)

黒藍の術により体や言葉を操られているが、残酷なことに正気はまだ残されていた。何千という敵味方の前で股間をさらけ出し、品のない痴態を晒すことなど、潔癖で厳格なルスランには耐え難い屈辱である。
自分を慕ってくれていた部下にまで弓を向けられ、敵であるはずの同盟軍に笑われながら守られる。その間、射精を終えたルスランは汚れた右手を舐め回し、泥の上で奇声を放って滑稽な舞を踊っている。

(もう、耐えられない。殺してくれ。早く終わらせてくれ)

ルスランの青い瞳から悲哀の涙が溢れる。が、粘ついた鼻水や涎とともに惨めなアへ顔を伝うそれは、ただの汚い汁でしかない。

 

 

 

 

「やれやれ、だから忠告したというのに、醜い姿ですね」

混乱する帝国軍の中で、ラディアンだけが事態を悟っていた。星辰同盟に先手を打たれた、それだけのことだ。ルスランと違い、相手は時勢を読めている。それが敗因だった。舌打ちし、麾下の兵をまとめて撤退の準備をする。

「あれはもう将軍でも武人でもない、ただの汚物です。目の毒ですから、綺麗さっぱり忘れて帰還しますよ。このまま敵軍のショーに付き合っていては、相手の思うツボですから」

踊るルスランを放置して、ラディアン隊は迅速に戦場を離脱した。
だが、なおも大勢の帝国兵や同盟兵が集まり続けている。
広い湿原の中央、大勢の中でただ一人丸出しの陰茎を振りたくるルスランの頭は、羞恥と絶望に壊れ始めていた。

 

 

 

 

「あはははは、最高だな、ルスラン。いや、最低というべきか」
「これが、これからの戦だよ。勉強になったね。ああでも、君にはもう関係ない話か」

尻を叩いて踊るルスランの傍に、双子の将軍が馬を寄せる。呉麗の合図で黒藍が音もなく現れ手を翳すと、ルスランの顔から不格好な笑みが消えた。

「たっ、たっ、助けてくれ。お願いだ」

相変わらず股間を振り回してはいるが、顔から上にだけ自由が戻されたのだ。
だが、現れたルスランの顔は半刻前の凛々しい表情ではなかった。恐怖によって眉は歪み、瞳は潤み、涙や鼻水を垂れ流して、震える口で嘆願する。

「俺が、俺が間違っていた。もう抵抗しない。だから、だからこの踊りをやめさせてくれ!」

下半身裸で哀願する英雄の姿がおかしくて、双子は声を揃えて笑った。泣いて懇願するルスランの股間を、突然、黒藍が蹴り上げた。

「お゛ごお゛お゛ぉーーーぅっ!!? うげええ゛っ!」

歴戦の勇者とはいえ、睾丸までは鍛えていない。ぐるりと白目を剥き、口を縦に全開して汚い悲鳴を上げる。それでも、赤く腫れた金玉をぶらぶら揺らして踊り続ける。

「お前は、呉麗様に汚い唾を吐きつけた。許されるわけがない。死ね。百回死ね」

少年は無表情のまま二度三度とルスランの玉を蹴り上げた。

「お゛ごおぉ゛っ!? うぎゃああ゛あ゛ぁーーーッ!!」

湿原にルスランの悲鳴が木霊する。
やがて黒藍が術を解くと、ルスランは年下の三人に向かって土下座をした。命じられてもいないのに、自分の意志で頭を泥に押し付け、生尻を天高く突き上げる。赤い金玉が情けなく揺れた。

「も゛っ、もうじわげっ、あ゛っ、ありまじぇ、せんでし、たあ゛っ!!ゆっ、ゆるひ、ゆるひてくらじゃい゛ぃっ!!おねがい、しましゅうぅっ!!」

わんわんと子供のように泣きじゃくり、無敗の将軍は敵に許しを乞うた。
あまりの恥辱と股間の痛みに、戦意を喪失してしまっている。
生涯で一度も敗北したことがなく、絶対的な自信と誇りを胸に戦ってきただけに、折れてしまえば脆かった。

「おいおい、ちんこ丸出しで敵に土下座してるぞ」
「なんだ、もう壊れちゃったのか」

馬上で楽しそうに笑う呉刻とは対象的に、呉麗は興ざめしたように溜め息を吐き、馬から降りた。呉麗に言われるままルスランが顔を上げる。泥まみれの顔から鼻水と涎が糸を引き、地面から繋がって伸びている。表情は恐怖で引きつり、震える歯ががちがちと音を立てる。呉麗が再びルスランの顔の前へかがみ込んだ。顎に手をかけ顔を寄せる。

「さっき僕は、最後の忠告をしてあげたよね。それに君はどう答えた?」
「うぁ……ああぁ……も、もうしわけありま……」

べちょり。と、ルスランの額に呉麗の唾が吐きかけられた。泥を流して鼻筋を通り、さらにルスラン自身の鼻水と混ざって垂れていく。

「舐めろ」

今までになく低い声で、呉麗が命じる。ルスランはびくりと体を震わせると、迷いもなく舌を出して己の顔をべろべろと舐めていく。

「うわぁ……まるで犬、いや、それ以下だな」

面白がっていた呉刻もすっかり冷めている。兄弟揃って、壊れたおもちゃに興味はないといった顔だ。双子は目を合わせて頷きあった。やるべきことをやって早々に終わらせることにしたのだ。

呉麗がルスランに優しく囁きかける。

「ルスラン将軍……いや、薄汚い負け犬。僕らの目的はわかっているよね。敵将の君を辱めて、帝国軍の戦意を削ぐ。できるだけ多くの兵に、降参するなり出奔するなりさせたいわけだ。だから、君にはできるだけ惨めに敗北宣言して欲しい。わかるよね」
「は、はいぃ!」

兄弟は、土下座するルスランにこれからやるべきことを優しく教えた。そしてそれを、黒藍によって脳裏に刻ませる。ルスランは助かりたい一心で積極的に暗示を受け入れた。
そしてゆっくり立ち上がると、再び戦場の真ん中で声を張り上げた。

 

「て、帝国兵よ、聞け!帝国の勇将、常勝将軍と呼ばれたこのルスランだが、星辰同盟の皆様にあっさりと敗れ、き、キンタマを蹴られて、泣いて土下座をした!今では見ての通り、泥まみれの立派な負け犬だ!わ、わおーん!」

うわずった鳴き声を上げ、犬の「ちんちん」のポーズを取り、ぶらぶらと陰茎を前後させる。
痴態に激怒した帝国軍から矢の雨が降り注ぐが、呉刻が張った透明な水滴の結界によってすべて弾かれる。

「な、何度でも言おう!この俺、ルスランは、星辰同盟の呉麗・呉刻両将軍に、惨敗した!これは敗北宣言だ!軟弱な帝国では常勝将軍と言われていたが、星辰同盟の皆様には遠く及ばない!年下にちんこを振らされる程度の雑魚だったのだ!」

攻撃を諦めた帝国軍はただ呆然とルスランの痴態を眺めている。寡黙だったルスランが、一人でべらべらと喋り続ける。

「俺は身の程を思い知った!もう痛い思いはしたくない!だから、お前たちも投降しろ!そ、そうでないと、また俺が、玉を、キンタマを蹴られてしまう!」

痛みが蘇ったのか、上下に揺れる陰茎の下で、睾丸がきゅっと引き締まった。

「醜いな、兄兄。弱い奴は、みんな醜いのか」
「そうだね。彼は、視野が狭く、心が弱かった。だから、醜いんだ」

兄弟が仲良く馬を並べて離れていく。黒藍は留まっているが、気配を消して朝靄に溶け込んでいる。広い湿原で、ルスランは一人、高らかに敗北を喧伝し続けた。

「もういいから。早く出せ」
「う、うぎぃっ!は、はいっ!」

姿の見えない黒藍に陰茎を強く握られ奇声をあげる。そしてやや背中を反らして股間を前へ突き出すと、両手で肉棒を持って脚を開いた。

「帝国兵よ、よく見ておけ!これが帝国の雑魚将軍の、惨めに敗北した姿だ!」

じょろじょろと、ルスランの陰茎の先端から、黄色い液体が勢いよく吹き出した。天に向かって放尿したのだ。湿った空気に悪臭が広がる。

「おおお゛っ!な、なんという開放感!は、ははは!俺、この俺が、小便を……、こんな大勢の前で、小便を垂れ流すはめになるとは!は、ははは!はははははぁっ!」

高く長く、放物線を描いて、ルスランの尿が戦場に迸る。気がふれたように笑い、溜まりに溜まった小便を長々と垂れ流す。
びちゃびちゃと垂れ落ちる尿が湿原を黄色く染めていく。尿はみるみるうちに周囲に広がり、平時は美しかった湿原が、臭い湯気を上げる黄色い泥地と化していく。
その中心に立ち放尿するルスランは、開放感のあまり顔を醜く歪めていた。いや、開放感だけではない。黒藍の暗示により、人前で放尿することで大きな性的快感を得るようになっている。

「お゛ぉっ!おひぃっ!アヘぇっ!き、きもちいい!オシッコ気持ちいい!」

堅物だったあのルスランの言葉とは思えない。絶望した帝国兵が武器を取り落し、呆然と立ち尽くす。だが、ショーはこれで終わりではなかった。
放尿音に混ざり、パキパキと不思議な音が聞こえ始める。

「ほへっ?」

放尿を続けるルスランが間抜けな声を上げて音の方を見やると、着地した尿が凍りついている。そして、そこから逆へたどるように、放物線を描く尿が急速に凍っていく。

「はひっ?な、なんりゃ、これ」
「ほんとに馬鹿だな。気づいてもいないのか。お前がやっているんだろ」

間の抜けた独り言に、黒藍がどこかから答えた。

「お前が自分の能力で、自分の尿を凍らせているんだ」

もっとも、黒藍が暗示をかけたせいではあるが。
ルスランは一瞬ひいっと悲鳴を上げたが、すでに恐怖も恥辱も興奮に変換されるように刷り込まれている。
アーチ状の尿の氷柱が完成し、ついにルスランの陰茎の先が凍りついた。

「んほおお゛ぉっ!なにこれ!いひっ、いひひ、すごい、凍って、ちんぽが凍ってる!き、きもちい、きもちいぞおっ!おおっ、おおお゛っ!」

肉棒が氷の棒に変わると、そこから両腕、さらに腹、脚、胸へと、氷が侵食していく。ルスランは生命の危機にあって、にへらぁと、今まで以上にだらしのない笑顔を見せる。

「あ、あはは!見ろ!俺、小便しながら凍っているぞ!こ、これが、無様な敗者の末路だ!あはは、はは、はははは!」

下半身丸出し、放尿中の格好のまま、英雄は氷の像へと変わっていく。ついには首から下すべてが青白く光り輝き、顔にまで侵食が及ぶ。涎や鼻水もツララとなって固まっていく。

「い、いひひ、おしっこ、きもちいぃー」

それがルスランの最期の言葉となった。

周囲が静寂に包まれる。
黒藍は音もなく立ち去り、物言わぬ氷の像だけが残された。
英雄の像としてはあまりにも醜い姿である。

半ば白目を剥き、舌を突き出し、鼻水をぶら下げて品のない笑みを貼り付けている。
上半身は鎧を着込んでいるが、下半身は丸出し。脚はがに股に開き、両手で氷の陰茎を握っている。そしてそこから尿のアーチが高く伸び、少し先の地面へと繋がっている。
他に類のない、尿ごと凍った放尿中の英雄の像である。
曇り空から差し込む弱い陽光に照らされ、頭の先から陰茎の先、尿の先まで、きらきらと鈍い輝きを放つ。足元には黄色い水溜りが広がり、湯気を上げて悪臭を撒き散らしている。

「敵将、討ち取った!」

呉麗と呉刻が勝鬨を上げた。
戦意を喪失して呆然とする帝国兵を、同盟軍が次々に捕縛していく。自ら進んで寝返る者や、帝国を見限って戦線を離脱する者も続出した。勢いに乗った同盟軍は逆に帝国領へ進軍し、周囲の街の占領にも成功する。

戦は星辰同盟の歴史的な大勝で幕を閉じた。
兵力や軍の精強さで遥かに劣りながら、呉麗と呉刻は先鋒の将軍一人を壊すだけで、戦を勝利へ導いたのだ。
結果的に、ルスランが否定していた「これからの戦い方」の正しさを、皮肉にもルスラン自身がその身をもって証明することとなった。

戦が終わると、湿原に平穏が戻った。が、小便の沼と間抜けな氷像は、見せしめとしてそこに放置された。普段から日当たりが悪く気温も高くないため、しばらくは溶けることもない。隣には「放尿将軍ルスラン」と大書された看板が掲げられた。

(あひ、あひ、きもち、おしっこきもちいいぃ)

誰も知る由はないが、これでもルスランはまだ生きていた。
生きて、放尿の快感を味わい続けている。それ以外に何を感じることも考えることもないのだから、死んでいるのと大差はない。
夏になって氷が溶け、湿原の泥と消えるまで、ルスランは滑稽な小便小僧として余生を送ることとなる。

マヌカンピス湿原におけるこの歴史的な一戦は、「マヌカン・ピス(小便小僧)の戦い」と呼ばれるようになり、放尿将軍ルスランの汚名とともに語り継がれることになる。