Dr.ゲドーと男根信仰(上)

じめじめと蒸し暑い季節になってきました。
年が明けてからというもの、大きな仕事もなく一日中診察室でゴロゴロするだけの生活を送っていたのですが、こう蒸し蒸ししているとゴロゴロするのも難儀でいけません。患者さんの忘れ物のファッション雑誌をパラパラめくって欠伸をかましていると、看護師さんがカルテを持って入って来てしまいました。
それも、「黒い方」のカルテです。
うーん、かったるいし明日にしてもらおうかなぁ。と考えてる間に、許可もしてないのにお客さんがずかずかと上り込んできました。

「ごめんやす。や、や、えろうすんまへんな、突然のことで」

手を合わせて一礼しながらそう言ったのは、ツルツル頭の、やたらと恰幅のいい老人でした。背は低いものの横幅はかなりのもので、見事なまでの福耳をぶら下げた丸い顔いっぱいに柔和な笑みをたたえています。そして薄紫のゆったりとした袈裟姿に、手にかけた数珠。カルテはろくに読んでませんが、一目で察しがつきました。

「ええと、お坊様でいらっしゃいますか」
「はぁ。京の『珍宝寺』ゆう寺で住職やっとります、珍念いうもんです。よろしゅうに」

ニコニコとまた頭を下げてから、よっこいせと言ってどかりと椅子に腰かけました。懐から出した扇子でパタパタ仰ぎながら額の汗をぬぐっていますが、見てるこっちまで暑苦しくなっちゃいます。うーん。やはり話を聞くのもかったるいなあ。と、溜息をつく私に気付いたのか、珍念和尚はニヤリと意味ありげに笑いながら

「センセ、今日は朝から体がだるいんやありまへんか?ほんで私の話なんか、聞くのもかったるい」
「え、いやいや、まさかそんな」
「隠してもあきまへんえ。仏様はみんなお見通しどす」

ドギマギしながら笑顔を振りまこうとしていると、和尚は手を打って笑い出しました。

「おほほほほ、すんまへんすんまへん。なに、梅雨の時期、湿気の高いこの部屋にこもっとったら誰かてダルいしイライラしますわ。仏様の正体なんて、こんなもんどす。おほほほほ」

扇子を口元に当ててカラカラと笑う和尚。なるほど、伊達に歳は食ってませんね。とても信心深いとは思えませんが、説法のプロであることは間違いなさそうです。これは一本取られましたね。すっかりこの坊様の話に興味をひかれてしまいました。

「ええと、では和尚さん。まず、ここのことはどちらで聞かれて?」
「なあに、この通り、無駄に大きな耳を授かっとるもんで。なんでも入ってきますねん」

和尚は大きな耳たぶをいじりながら、わざとらしくまた大笑しました。まったく、とぼけたオッサンですねえ。まあ、いいでしょう。警察や政府の回し者とはとても思えませんし、本題に移るとしますか。

「それではですねえ、希望する処置がその……汚物除去、雑菌、消毒……となってるんですが」
「悪性がん細胞の摘出、とかいろいろ考えたんやけど、あんなバイキン如きにそら大仰すぎますさかい。なんやえろうチンケな処置になってもうてすんまへんなぁ」

和尚は丸い頭を撫でながら相変わらずニコニコと笑みを浮かべていますが、さっきまでと違い明らかに目が笑っていません。どうやらその「バイキン」とやらに相当深い恨みでもあるようですね。出された緑茶をひと口飲んで、和尚はゆったりとした口調で語り始めました。

「うっとこの寺、珍宝寺言うんは、いわゆる男根崇拝の寺でしてな。ま、観光目的で数十年前に始めたことなんですが。寺域のあちこちにアレをかたどった石塔がにょきにょき立っとります。ご本尊も魔羅如来いうご立派な金泥塗りの立像拵えて、そらもう、一昔前は子宝に恵まれる言うて大繁盛でしてな。こらもうおチンポ様様やて、私もありがたがっとったんですわ。」

そこまで話すと急に和尚の顔が暗くなりました。

「そやけど、去年のことです。ある男が寺に乗り込んできて、ここにホテルを建てるから土地を明け渡せ、なんて抜かしましてな。かなりの額は積まれたんですが……。寺自体は南北朝の頃から続く由緒あるもんです。さすがにそんな大事な寺、私の代で潰すわけにはいきまへん。一喝して跳ね付けたんですが、それ以来急に悪い評判が立ち始めて」
「悪い評判、ですか」
「こない品のないチンポ寺、美しい京の街には相応しくないやとか。あれこそ肉欲と煩悩の権化やとか。あるいは、チンポ狂いのホモの巣窟やとか」

ある程度は当たってるような気もしますが……まあ、それが相手の策略なら、営業妨害には違いないですね。和尚は額に青筋を浮かべてわなわなと震えています。

「おまけに行政まで動かして、やれ風紀がどうの教育に悪影響云々と勧告までさせおる。もともと人気も落ち始めとりましたさかい、あっという間に閑散としてしまいましてな。金に困って借金したら、そのサラ金もあの男の傘下で。法外な利子で膨れ上がった借金を盾に、土地を渡せとガラの悪い連中まで送り込んできおる。ついには寺の宝やった魔羅如来像まで売り払わされて……。わたしゃもう、堪忍袋の緒が切れまして」

ううむ、どうやら思った以上に追い込まれているようですね。こりゃ軽いイジメなんかより相当悪質です。人のいい私としては、やはり見過ごすわけにはいきませんね。

「それで、相手の男というのは」
「これですわ」

和尚は懐から一枚の写真を取り出し、私の方へ差し出しました。薄い茶髪の似合う、絵に描いたように爽やかな美青年。二重の大きな目が印象的なあどけなさが残る顔は、男の私から見てもかわいいとすら思えます。一方で、はだけた胸元からは大人の色気も漂っており、なるほど、カッコかわいい青年というのはこういう奴のことを言うんでしょうかね。それにしても、この顔どこかで見たような……。

「瀬奈春哉(せな・しゅんや)。大手リゾート企業の学生社長どす」

ああ、そうだ。ついさっきまで読んでた雑誌で特集してたんでした。ソファーの横からそれを拾い上げ、プロフィールを確認します。

瀬奈春哉(20)。大手財閥の御曹司として生まれ、中学1年生の頃から数社の経営に関与。16歳で親から独立して新たなグループを立ち上げ、現在、観光開発や娯楽施設経営を中心に50社以上の子会社をもつ「シュン・ホールディングス」のCEOにしてT××大学3年生。スポーツにも堪能でテニスの高校大会で全国優勝の経験あり。元女優の母親ゆずりのルックスを活かし、モデルとしても活動中。写真集第3弾近日発売予定。

「こりゃあ、これ以上ないくらいの完璧人間ですねぇ。いやはや羨ましい」

雑誌を和尚の方に差し出すと、和尚はニコニコ笑いながらページをちぎり微塵になるまで破り捨ててしまいました。
「あらま、失礼。手が滑ってしもて」
……まあ、私のじゃないしいいか。

「確かに商才はあるんやろし、努力もしとるんかもしれまへん。せやけどな、あの小僧の成功は、私のように虐げられたもんの人柱の上に建っとるもんなんどす。まさに天魔の所業やおまへんか」
「確かに、話を聞く限り、他にもいろいろやってそうではありますねえ」
「そうですやろ。そんな奴にはきっと、バチが当たりますな」
和尚が私の目を見つめて意味ありげに微笑みました。私がわざととぼけて
「天罰ですか」
と聞いてみると、和尚は大きく頷いて
「天罰でも仏罰でも、神罰でも。なんなら、人罰でもよろしおすな」

この方も結構恐ろしいこと言ってるような気もしますが、まあ相手が相手ですしね。ふむ、最近暇でしたし、世にときめくカリスマ学生社長の悪事を暴くのも悪くはないでしょう。

「わかりました。では、具体的には、どうしてやりましょうかね」
「煮るなり焼くなり、好きにしてもろたら結構」

それは他人が言うセリフじゃないだろう。ではまあ、お言葉に甘えて好き放題するとしますか。

「ほんで、報酬の話なんですがね」
私が頷くのを見て、和尚は身を乗り出して囁いてきました。
「あの餓鬼畜生のせいで今の私は文無しなんですが、なに、心配はいりまへん。なんせ相手は大金持ちですさかいに。罪の報いとして搾り取っても、バチは当たらんでしょう。神様仏様は、私ら坊主の味方ですよって」

仏のような顔に満面の笑みを浮かべて、和尚は機嫌よく笑いました。

 

 

 

週末になって、私は京都の珍宝寺までやって来ました。なんでも瀬奈が交渉に来るとのことで、とりあえず一度顔を拝んでおこうというわけです。
珍宝寺は街の外れの小山の中にありましたが、聞いていた通り、山林のあちこちにやたらとリアルなペニスの石塔が生えています。ペニス型の手すりに挟まれた長い階段を抜けて境内に出ると、珍念和尚が小坊主たちを従えて出迎えてくれました。じめじめとした陽気とやかましい蝉の声が耐え切れず、すぐに庫裏へ入って茶を出してもらうことにしました。土曜日というのに参拝客は一人も見当たらず、庫裏の家電にはことごとく差押え済みの紙が貼られています。

「あの男のせいで、この有様ですわ。このままやと小坊主や寺男達も養えへん」

和尚が茶を点てながら溜息をもらしました。さすがに歴史があるだけあって、寺域は広大です。縁側越しに中庭を見ると、その奥に立派な本堂が見えます。

「あそこに、魔羅如来様がいらしたんですが」
私の目線を追って、和尚は寂しそうにつぶやきました。
「いまではあの建物には何にもありまへん。所詮偶像とはいえ、御本尊のない寺やなんて、情けない限りですわ」

そういえば、金塗りの如来像を売り払われたとか嘆いてましたね。ここまで追い込んだのなら、相手にすればいよいよ大詰めってところですか。

「ところで、庭の隅に見えるあの小さい小屋は」
「ああ、豚小屋ですわ。拝観料とお布施だけじゃ食ってけませんよって、農業も細々やっとるんどす。まあ豚については採算が合わんかったもんで、今じゃ去勢もせんままほったらかしどす。さすがにペット飼うとる余裕もないんで、そのうち殺処分してしまわんと。熱気と臭いが酷くて、小屋に入るのもままならんわ」

ふうん、豚小屋ね。と、そこへ小坊主が一人恭しく入って来て、和尚に何事か耳打ちしました。それを聞くと和尚は腰を上げ

「では、行きましょか。お客さんのご到着です」

境内に出ると、数人の男がハンカチで汗を拭いたり、タバコを吸ったりしながら気だるそうに立っていました。

「こんにちは和尚さん。ごめんね、また押しかけちゃって」

こちらに気付くなり、一人だけラフな服装をしていた若い男が慣れ慣れしく近寄ってきました。写真で見た、あの瀬奈春哉です。

「いやー、今日はまた一段と暑いね。京都は盆地だから熱がこもるって聞いたけど、そのせいかな。あれ? そっちの方は?」

きょとんとした目で私の方を伺ってきます。こうしてみると純真そうな好青年なんですが、下調べした限り、やはり相当に悪どい所業を重ねているようですね。返答に困って和尚に目をやると

「私の主治医のセンセです。もういい歳なもんで、あちこち痛うて」
「ありゃ、それは心配だ。大丈夫? …………なーんて」

突然、瀬奈の目つきが変わりました。

「そう簡単にくたばってくれるなら、こっちも楽なんだけどね。この狸親父」

瀬奈の顔からは先ほどまでの子供っぽさが嘘のように消え、狡猾な策士の顔になっていました。ですが和尚はこっちの顔にも慣れているようで、全く動じません。

「おほほ。天魔から聖域を守るのは住職の務めやさかい。まだまだ往生できまへんな」
「何が聖域だ。品がないったりゃありゃしない。あんな気持ちの悪いもの並べて、正気の沙汰じゃないね。肉棒に囲まれて暮らすなんて、考えただけでも寒気がするよ」
「お若いなぁ。命の源たる生殖器の神聖さがわからんとは」
「それを言うなら女性器だろ?大の男が男根なんか拝んで、バカじゃない?どうせ話題性づくりのためにウケをとろうとしたんでしょ」

和尚はニコニコ不敵に笑ったまま答えません。あ、図星だなあれは。

「どうでもいいけど、そっちには莫大な借金があるんだ。いろいろあってこっちも時間がなくてね。今日は最後通牒のためにやって来たんだよ。一週間以内にこの土地を引き渡してもらおうか。さもないと、強制的に押収する」
「おいキミ、この国でそんな横暴が許されると思ってるのかい」

黙っているのもアレなんで、横から口出ししてみました。

「何者か知らないけど、黙っててくれないかな?俺は和尚さんと話してるんだ」

うおっ、まぶしい笑顔に思わずクラっと来てしまいましたよ。

「それに残念だけど、市も府警もこっちの味方なんだよね。景観や風紀を持ち出して市議会にまでぶち上げたし。大体こんな気色の悪い寺より、ホテルを中心に観光開発した方が、どう考えても人が集まるってもんじゃない」
「り、理屈じゃないのよ、感情だよ感情。和尚は嫌だって言ってんだから」
「馬鹿だね、オジサン。利益にならないものに意味はないんだよ。じゃあ改めて、最後の警告だ。今すぐここを立ち退かないと、命の保証はできないよ」

サラサラの茶髪をかき上げながら、瀬奈は口元を吊り上げました。ギラギラと輝く目を見る限り、ただの冗談でもなさそうです。こいつは相当ヤバい人種なのでは……。などと考えている間に、瀬奈はくるっと背を向けて、後ろでタバコを吸っていたサングラスの男に明るく語りかけました。

「じゃ、そういうことで。後は任せるよ、二崎(ふたざき)クン」
「……俺に指図するな」
「お願いしてるんじゃなぁい。じゃ、和尚さんも、御機嫌よう。また元気で会えるといいね」

あら。モタモタしてる間に、瀬奈はグラサン男以外の部下を連れて石段を降りて行ってしまいました。あわてて追いかけようとするのを和尚が引き止め、耳打ちしてきます。

「あきまへん。まずはあの男を何とかせんと」

言われて、改めてサングラスの男に目をやりました。全身黒のスーツで、なぜかネクタイまでまっ黒。ですが後ろにツンツン跳ねた髪だけは、染めているのか真っ白です。年は20代の半ばくらいでしょうか。サングラスで目元は分かりませんが、逞しい体格の割には整った顔つきをしているようです。黙ってタバコをふかし続ける男を尻眼に、小声で和尚に尋ねました。

「何者ですか、あれは」
「二崎とかいう、興信事務所の所長、平たく言えば私立探偵になりますやろか。言うても、ドラマや小説の探偵とちごて、やってることは借金取り立て代行や尾行、恐喝、風評拡大、なんて犯罪スレスレのことばっかですわ。部下を持たない一匹狼のプロいうてこの辺りの裏社会じゃ有名な「壊し屋」でして……ホレ、ポケットに入れてる左手、手袋してますやろ」

言われて男の手元に注目すると、確かに黒皮の長い手袋をはめています。

「小指がないそうですわ。元極道で、抜けるときに詰めたとかで。そんな奴やさかい、汚れ仕事は慣れたもんで、探偵言うより殺し屋なんやないかて、もっぱらの噂どす」

確かに、尋常でない威圧感がありますね。顔にはサングラスの左のレンズをまたぐように、大きな傷跡も走っています。殺しは言い過ぎにしても、放火や誘拐くらいはやってそうな気はします。

「話は済んだか」

突然低い声を投げつけられて、和尚と二人して縮み上がってしまいました。

「俺を知ってるなら、さっさと出ていけ」

無口な男なのか、必要なことだけ簡潔に言い捨ててきます。サングラスの奥に、鋭く吊り上った細長い目が光るのが見えました。

「や、やだなあ、せっかくですから、お茶でも飲んでゆっくり語り合いましょうよ」
「せ、せやせや。この糞暑いのにそんな格好やとつらいやろうし」
「黙れ」

静かな、それでいてドスの利いた声で言うと、二崎は近くにあったペニス型の石塔を蹴り飛ばしました。どうやら靴底に金属がはめこれているようで、古い石塔はあっという間に砕けて四方へ飛び散ってしまいました。

「ああっ! おチンポ様59号が!」
砕けた石塔の前に駆け寄り、和尚が悲鳴じみた声をあげます。本尊を失ってから、石塔一本一本を信仰の対象にしていたのかも知れません。そう思うと健気な和尚が不憫に思えて、表情ひとつ変えない二崎に怒りが沸き起こって来ました。

「キミ、神聖な男根信仰の場でチンポを踏みにじるとは、バチが当たりますよ!」
「フン、馬鹿馬鹿しい。お前、怖いのはチンコの神と俺、どっちだ?」

男は眉ひとつ動かさず、抑揚のない声でそう言うと、私に歩み寄りながら側の石塔を次々に破壊していきます。

「ああっ! 60号! 61号! 62号!」
地面を這いながら、和尚が残骸を拾い集めていきます。プチッと、久々に切れてしまいましたよ。

「ふん、そりゃあもちろん、おチンポ様ですよ」
「ほう、いい度胸だ」
「あなたこそいい度胸ですねぇ!私はおチンポ様の使徒にしてその力を授かる者!無法極まる暴挙、許し難し!貴様に神罰……じゃなかった、仏罰を下さんっ!!」
「……狂ったか」

二崎はなんの躊躇もなく、私目がけて蹴りを繰り出そうと脚を上げます……が。

「あ、ホラ! チンコに激痛が! 蹴られたみたいにズキズキするでしょ! ああ痛そ!大丈夫ですか!?」

「……なんだこいつ。……!?!?!?」

突然、二崎は咥えていたタバコを取り落とし、股間に右手を当てました。

「ほらァ、ズッキンズッキン、痛いでしょう! そりゃ痛いでしょう! 金属埋め込んだ靴で蹴り飛ばされたんですからねえ!」

「うがアアアアアッ!? なっ、なんだコレは……!ぐうううっ」

さすがの二崎も地面にひっくり返り、股間を抑えてジタバタとあがきます。よーし、「逆治療」成功。ちょろいもんだね。まあ自分でイメージ沸きやすくしてんだから世話ないか。

「……今の一発はおチンポ様59号の恨みだ」
ぜえぜえともがく二崎を見下ろし、私は淡々と続けました。
「60号の恨み!」
「ぐあああああっ!!」
「こいつは61号の恨み!」
「があッ!?」
「そしてこれは、62号の恨みだ!!」
「ぎゃあああっ!!」

二崎は口を大きく開き、涎を垂らして苦痛にうめいていますが、それでも必死に無表情を保とうとしているようです。両手で股間を抑えて伸びていましたが、すぐに片膝をついて睨み付けてきました。大した精神力ですね。

「……き、貴様、何者だ。何をした。」
「だーから、おチンポ様の使いですよ」

しばらく呆然と見ていた和尚が、私のそばに駆け寄って来ました

「はぁ~、いや、こりゃびっくらこきましたわ。大したもんどすなぁ」
「なぁに、ここからじゃないですか。まだほんの、前座の前座ですよ」

二崎はズレたサングラスをかけ直すと、よろりと立ち上がって正面から我々を睨み付けてきます。

本命をおびき出すにはエサもいりますし、勘を取り戻す練習がてら、ちょっと遊んでみますかね。
ここに至ってはもう、孤高の壊し屋も怖くもなんともない、それどころか哀れで惨めな生き物に思えてくるのでした。