極上の豚肉※

異様な木々が立ち並ぶ樹海の奥地。
剣や弓、槍などで武装した数人の男達が、たき火を囲んでたむろしていた。一様に表情は暗い。

「やっぱりあの村長の話、ちゃんと聞いとくべきだったなぁ」
「今更言っても仕方ないだろう」

彼らは皆、ある程度の名の知れた冒険者だった。難攻不落と言われるこの樹海ダンジョンの噂を聞き、売名のため、或いは報酬のため、徒党を組んで分け入ったのは5日前のことだった。
モンスターの強さ自体はたいしたことなく、よほど不覚を取らない限り深手を負うことはないだろうが、問題は森そのものだった。攻略者不在のため地図はなく、コンパスもきかない。おまけに昼でも薄暗い上に起伏が激しく、見通しもきかないのだ。難攻不落と言われる所以である。事前に準備を整えてきた彼らであったが、結局例に漏れず道を失ってしまい、途方に暮れていた。

「まあ、食料に困らないのは唯一の救いだな」

リーダー格の男がため息交じりに言った。たき火の上には、鍋がかかっている。ぐつぐつという音と共に、食欲を刺激する匂いが漂い始めていた。色とりどりのキノコに囲まれて、大きな肉の塊がいくつか煮えている。

「山菜マイスターを連れてきて正解だった」
「いえ、見たところ毒キノコはほとんどないようでしたし。それよりも、この肉ですよ」
「ああ、モンスターとはいえ極上の豚だ。見た目は少し変わっていたが、食ってみてよかったよ」

男たちが鍋に群がり、手に持った骨で肉を突き刺して頬張っていく。

「おいロベルト、お前も食えよ」

少し離れた木の根元で1人銃の手入れをしていた青年に、骨付き肉が投げられた。彼、ロベルトは顔も向けずにそれを受け取ると、近くの岩の間に突き立ててまた銃を磨き始めた。

「銃が汚れる。後で食う」
「そうかよ。相変わらず愛想のねえ奴だぜ」

ロベルトはメンバー最年少ながら、腕利きのガンナーとして名を馳せていた。橙色の髪のかかった左目には、革製の眼帯を当てている。女のような秀麗な顔立ちだが、口はいつも真一文字に結ばれて近寄りがたい空気を放っていた。1人きりで樹海に入っていたのだが、数日前に出会った男達に銃の腕を買われ、しつこく懇願されてパーティーに加わった。1人でクリアする自信はあったのだが、ロベルトも道に迷い、食事の用意も煩わしくなっていた所だった。

(そうでなければ、こんな不甲斐ない連中と誰が組むか)

ロベルトは不快だった。確かに、料理や暖を取る労は連中に任せておけるから楽にはなった。とはいえ、自分は一刻も早くダンジョンをクリアしたいのだ。そもそも腕試しのつもりで樹海に入ったというのに、モンスターは雑魚ばかり。いい加減飽きが来ていた。それなのに連中ときたら、数時間進むとすぐに疲れた疲れたと休憩ばかり。それなりに腕は立つようだが、元来群れを為すことが嫌いなロベルトにとっては、雑用をさせるだけの足手まといとしか映らなかった。

銃を磨き終わったロベルトは近くの小川で手を洗い、岩に刺してあった肉を食べ始めた。確かにうまい。この近辺でたまに見かける豚型モンスターの肉だが、豚肉の味とは全く違う。独特の食感と溢れ出す肉汁がたまらない。なにより獣臭さがほとんどないのだ。さらに通常の豚よりかなり大きめで食えない部位もほとんどなく、一頭で数人分の食事を数日は賄える。格好の食糧だった。
一人黙々と肉にかじりついていると、男たちの下卑た笑い声が聞こえた。持ち込んだ酒で盛り上がっているようだ。

(馬鹿どもが。俺は遊びに来たんじゃないんだぞ)

わざと大きな音を立てて骨を投げ捨てると、ロベルトは銃を取って立ち上がった。

「おいロベルト、どこ行くんだよ」
「俺に構うな」
「そうはいくか、高い金まで払ったんだ。契約はどうなるんだ」

これ以上付き合えきれなかった。ロベルトは男達から貰った金袋を投げ渡し、無言で背を向けた。

「ちっ、クソガキが」
「まぁいいさ、一人でクリアする自信があるんだろう。ちょうど俺たちはそろそろクリアを諦めて出ようかって話をしていたんだ。魔の樹海とはいえ、いざとなりゃひたすら下っていけば脱出することは難しくないって話だからな。お前も危険だと思ったら」
「無用な心配だ。お前たちと一緒にするな」

リーダーの言葉に振り向きもせず、ロベルトは樹海の奥へ歩き始めた。そんな彼の背に、餞別とばかり、再びリーダーが忠告の言葉をかけた。

「くれぐれも、神木には手を出すなよ」

 

 

 

(くだらない)

木の葉の絨毯を踏みしめながら、ロベルトは村で聞いた言い伝えを思い出していた。
樹海の奥地に聳え立つ巨大な神木。その根は凶暴に暴れまわり、近づいた者を取り込んで養分を吸い尽くしてしまうが、上の方は無害だという。赤い巨大な花を咲かせるが、それも食人花などではない。しかし、木や花に害を加えたものには恐ろしい神罰が下るという。

(要は根元に近寄らなければいいだけのことだ。神罰なんざ、恐くもない)

黙々と歩き続けていると、例の豚型モンスターと鉢合わせた。
外見はほとんど豚そのものだが、体が人間並みに大きいことと、個体によって表情が大きく異なることが特徴である。といっても、大きく突き出した巨大な鼻や、涎をまき散らすぽかりと開いた口、耳や尻尾などは本物の豚そのもので、個体ごとに違うのは目つきや毛の色くらいだろう。不思議なことに、髪の毛ともタテガミともとれる毛が頭から生えている。その色も様々だが、今目の前にいるモンスターは短く刈り込まれた黒髪だった。その髪もピンク色の全身同様、泥や汚物にまみれている。

ロベルトに気が付くと、ブタは怯えた目をして何かを訴えるようにブヒブヒわめいてくる。ロベルトはこのモンスターどもの、この怯えた目つきが大嫌いだった。

(ちょうどいい、これからの食糧だ)

銃を構えると、ブタは一際うるさく鳴き叫びながら、一目散に逃げ出した。動きは遅い。

「雑魚が」

脚を撃った。ブタが崩れ落ちる。ゆっくり歩み寄り、頭部に銃口を突き付けた。ブタは大量の鼻水と涎を溢れさせながら鳴いている。

「汚らわしい。消えろ」

冷たい隻眼で睨み付けると、射抜かれたようにブタの動きが止まる。銃声があたりに響いた。ブタはピクピク痙攣した後、動かなくなった。
頭部も美味ということだが、いろんな穴から液体を流す汚いモノを食う気にはならない。頭を切り落とし、体も解体して、持てるだけの肉を袋に入れると、ロベルトは再び歩き始めた。

半日も立たないうちに、巨大な木が見えてきた。ずっと高所へ上ってきたので、既にその木の頂上も近い。

「あれか」

噂では、神木は樹海の最奥地にあるという。クリアも近い、ということだ。念のため銃を構えながら慎重に進む。木のそばの崖を歩いていたようだ。崖の淵まで出ると、眼下に巨大な赤い花が見えた。観察してみたが、襲ってきそうな様子はない。およそ恐怖などという感情とは無縁なロベルトは、より神木に近づくため、花弁の上へと飛び移った。
少し揺れたが、やはり人一人乗ったくらいではびくともしない。花の中心まで進み、辺りを見回す。めしべからは蜜が沸いているようだ。それが固まったものなのか、周囲には黄金色に輝く宝石なようなものがいくつもこびりついている。見上げると、近くの枝にも珍しいフルーツなどがいくつも成っていた。他の冒険者なら目の色を変えて飛びついただろう。

「くだらない」

ロベルトには興味がなかった。食料は調達したばかりだし、財宝になど興味はない。ただ自分の腕を磨き、高めることだけが目的。当面の目標はダンジョンのクリアのみである。枝伝いに幹にも寄ってみたが、攻略への手がかりはなさそうだ。もう少し登ってみるしかない。

花弁の上へ戻ったところで、ロベルトは腹部に圧迫感を感じた。
催してきたのだ。
他の冒険者たちと合流してから、排泄は極力控えてきた。男同士とはいえ、あんな低能な連中の近くでそんな姿は晒せない。いいかげん排泄欲が込み上げてきてもおかしくはなかった。

(ちっ、こんな時に。面倒だ。ここで済ますか)

トイレなんてものは樹海には存在しない。どこでやろうが野糞には違いないのだ。こんな奥地に人がいるとも思えないが、一応周囲を見回して誰もいないことを確認すると、ロベルトは銃を置き、ベルトを外した。肩に巻いていた黒く長いローブも取り、銃の上へかぶせる。

ふと、ちょっとした遊び心が生じた。数メートル先に、花の中心、黄色いめしべが見える。チャックを下ろして性器を取り出すと、そこを狙って勢いよく放尿した。
最強クラスのガンナーと噂されるだけはあって、狙いは正確だった。小さな弧を長く描いて、黄色い液体がめしべに命中し、それを伝って下へと流れ込んでいく。少し風もあったが、尿の線が揺れる度に腰やペニスを動かし軌道を調整する。風の抵抗をものともせず、溜まりに溜まった多量の尿は途切れることなくめしべを揺らしていく。馬鹿馬鹿しいが、大自然の中でこそできる訓練だ、とロベルトは珍しく微笑を浮かべた。勢いが落ちてくるとさすがに尿も長くは飛ばせず、ピチャピチャと音を立てながら次第に水滴が足元へ近づいてくる。
真下で出し切ると、ロベルトはペニスをよく振って滴を飛ばし、それからめしべの方へ歩み寄った。少しは吸収されたようだが、なにせ量が多かったため、直径1メートルほどの花床―-めしべやおしべの下のくぼんだ部分―-は尿溜まりと化していた。ロベルトはその付近でズボンとパンツをずり下げ、尻を尿溜まりの上へ突き出した。あちこちに自分の糞尿がまき散らされている様は見たくない。どうせだから、ここを便器に見立ててしまおうというのである。

ブスゥッと、手ごたえのある屁が勢いよく噴き出した。水溜りに波紋ができる。

「ふんっ! んっ…んんっ」

顔を赤らめ、鼻息も荒くいきむ。何度か屁をこいた後、ようやくミリミリと黒い塊が出てきた。長く太い糞が尻から垂れ下がり、やがて千切れてボチャリと花床へ落ちた。尿が跳ねて太ももにかかる。構わずもう一度いきみこむと、再び糞が伸びていく。
その時だった。

「なっ!?」

目にもとまらぬ速さで2本のおしべが伸びてきて、両足首に絡み付いたのだ。慌てふためくロベルトを嘲笑うように、その時、高い少年の声が聞こえて来た。

「あっははは! 馬鹿なニンゲン! こんなところでウンコする、普通?」

すとんと、崖の上から少年が飛び降りてきた。短い金髪に長い耳を持った、エルフだった。

「誰だ貴様! 何をした!」

ロベルトは慌てて立ちあがり身構えようとしたが、足首はきつく固定されていて動かない。おまけに排泄は急には止められないのだ。立ちあがったロベルトの股の間からは、野太い糞がぶら下がっている。もちろんペニスも丸出しだ。

「あはははは! ちょ、ちょっと、何それ反則! プスッ、カッコ付かないとか、そういう次元じゃないんですけど!」
「黙れ! 質問に答えろ!」

ロベルトは隻眼に殺気を漲らせて叫ぶが、ちょうどそのタイミングで長い糞が出終わり、勢いよく落下した。ボチャンという大きな音とともに盛大に小便が跳ね、ロベルトの足もと、つまり足の間にずり下げていたズボンに降りかかる。エルフの少年は腹を抱えて笑い転げていた。

(ちくしょう、側に銃があれば!)

銃は離れた場所に置いてきた。ロベルトは顔を真っ赤にして恥辱に震える。やがてひとしきり笑った少年が涙をぬぐいながら話し始めた。

「あー、おもしろかった。アンタ最高だね。ここ数年で一番おもしろいよ。小便飛ばして遊んでた所から見てたけど、笑い堪えるの大変だったわ。ああ、最初に誤解を解いとかないとね。俺は何もしてないよ。これは、というか、これから始まるのはね、神罰なんだ」
「神罰……だと?」
「聞いてない? ご神木に害を加えたら神罰が下るってやつ」

完全に忘れていた。いや、気にも留めていなかったのだ。根元には近寄るな、ということだけ頭に留め、神罰のことなど聞き流しているも同然だった。

「そ、そんなもの、恐るるに足りん。じゃあお前はその神とやらの使いとでもいうのか」

下半身丸出し、しかも尻には糞便をこびりつけたままの状態で、ロベルトは努めて冷静に言った。少年は口元をニヤけさせてはいるが、もう大笑いしたりはしなかった。

「残念、外れ。別に神様なんてものがいるわけじゃないんだよ。なんというか、まぁ、簡単に言うとダンジョンのトラップなんだよね。それが周囲の村に誇張されて伝わったんだろうな。
で、俺は近くに住んでるただのエルフ。ほら、この木にはいかにも金になりそうな物がいっぱいあるでしょ?欲に目がくらんだ馬鹿なニンゲンが蜜を吸いだしたり、枝を折ったり、果実をもぎとったりして、呪いにかかるのが面白くってさ。たまに見物したりからかったりしに来てんの。いやー、でも、小便とウンコ引っかける間抜けは初めて見たわwww」

少年は抑えきれなくなったように、また笑い出した。木綿でできた緑色の服を着て、弓を抱えている。

「ふ、ふざけるなクソガキ! さっさとこれを解け!」
「やだなー、怖い顔しないでよ。せっかくのイケメンが台無しだよ? それに俺、こうみえてもアンタなんかよりずーっと年上なんだけどね。っていうかさぁ、なんで俺がそんなことしなきゃなんないの? 人に物を頼むんならさ、もっと言い方ってもんがあるんじゃないの?」

このエルフの言葉を信じるなら、こいつの仕業ではないということになる。ロベルトは歯を食いしばって屈辱を堪え、呟くように言い捨てた。

「……足をほどくのを、手伝ってくれ。その弓で射れば、あるいは」

言いかけたところで、少年が口を挟む。
「手伝ってください、お願いします、でしょ」
「……ほどくのを手伝ってください。……お願いします」
「悪いけど無理だわ。それ結構固くて弓なんか効かないし」
「貴様ッ!」
「あはははは、オチンチン丸出しで凄んでも怖くないよ、オニーサン。それにもう、始まっちゃったみたいだしね」
「何?」

クラッと、強いめまいがロベルトを襲った。体中が熱い。

「なんだ、これは……! くそ、どうなっている」

右手で額を抑える。と、コツンと固い感触があった。はっとしてよく見ると、右手の指は二股に分かれた固い蹄へと変貌していた。

「ひいっ!」

情けない声を上げるロベルトを、少年は楽しそうに眺めていた。そうこうしている間に、ロベルトの左手も同じように変形し、足元ではブーツが弾けて獣の足が飛び出した。

「なんだ!? なんなんだ!? いったい何がどうなってるんだよ!」

ロベルトはすっかりパニックに陥り、隻眼は恐怖で大きく見開かれていた。そんな彼の視界の端に、見慣れない突起が映った。恐る恐る蹄で自分の顔をなぞり、気付いてしまう。それが、自分の鼻の頭だということに。

「なっっっ!?!?!?」

文字通り空いた口が塞がらないロベルトを見て、少年が再びゲラゲラと笑い出した。

「あははははは!すっごい顔!いやーやっぱりこの、変わり始めの顔が一番おもしろいね。あ、自分で見てみる?」

少年は腰に下げていたポーチから手鏡を取り出し、ロベルトの眼前にかざした。

「ひっ……!そ、そんな……」

橙髪と眼帯の映える、美青年と呼ぶに相応しい整った顔立ち。しかしその中心ですらりと通っていた鼻は、先端がひしゃげて完全に上を向いていた。触れてもいないのに、まるで指でも引っかけたようになっているのだ。そんなロベルトの元へ少年がスキップ混じりに寄って来て、その顔を下から覗き込む。

「わー無様! 鼻の穴丸見えだねぇ、オニーサン? ププ、やだ汚い、鼻毛ビッシリじゃん。うわ、鼻くそまで見えてら。きったねー」
「なんで……俺、どうなって……ブゴッ!?」

奇声を発したかと思うと、ロベルトの鼻がゆっくり広がりながら、前へ前へと突き出していく。

「あはははは!鼻が顔を侵食していく瞬間は何度見ても見ごたえあるねー! 今回は元が良かっただけに崩れっぷりも酷いなあw あ、そうそう、さっきオニーサンのことさりげなくイケメンとか言っちゃったけど、撤回させてもらうね。イケメンどころかブタメンだしwww」
「ぶ、ブタってなんだよ!?そんなの俺、聞いてな」
「知らないわけないでしょ?この森中にゴロゴロしてたはずだよ。欲に任せて豚に堕ちた馬鹿なニンゲンどものなれの果てが、さ。まあアンタの場合、最初からウンコまき散らす汚いブタだったけど」

ガタガタと震えながら、ロベルトはコートの下に何層にも巻いた弾丸、その間に挟み込んでいた肉入りの袋を見下ろした。途端、凄まじい恐怖がロベルトを襲った。

「嫌だああああーっ!! そんな、俺、ブタになんか! あんなブタになんかなりたくないぃぃ!!」

ブラブラぶら下がっていたペニスから小便が、尻からはドロドロの軟便が噴出し、ロベルト自身の下半身を汚していく。

「うわ、また漏らしたよコイツwww いやー、もう何十年もこれ見てきたけど、アンタが一番醜いかも」

少年の言葉などもうロベルトには聞こえない。どんどん突き出していく鼻に引っ張られるようにして、顔全体がゆっくりと膨れ上がっていく。肥大化した鼻の穴からはドロドロとした大量の鼻水が流れ出し、滝のように足元へ落ちる。手首、足首も次第に膨れ上がってきて、足首に巻きついていたおしべは任務を果たしたかのように元の位置へ戻った。だがそのころにはロベルトはもう自分の体重を支えることができなくなっており、糞尿の上にグチャリと尻もちをついた。

「た、たひゅけで……ブヒッ! たひゅけてくらひゃい! おねがいしまブゥ!」
「この汚い糞豚男を……うーん、思いつかないや」
「こ、この汚い汚い糞豚男のロベルトをっ……ンゴッ! ど、どうか! どうかお救いくだひゃいまへぇ! ブヒッ! な、なんでも、この豚にできることならなんでもしまブゥーッ!」
「ブタなら別に問題ないじゃん。よかったね。ブタらしくなれて」
「い、いやらぁ! いやなんでブゥ!」
「最初見たときは頭よさそうとか思ったけど、やっぱアンタそーとー頭悪かったみたいだね。さっきから俺にはどうすることもできないって言ってんじゃん。それよりあんまり涎とか鼻水飛ばさないでよ」
「そんな゛……ブゴッ! ブヒ、ブフィーッ!?」

ロベルトの目がぐるんと白目を剥き、突き出した舌からボタボタと大量の涎があふれ出した。同時に、耳が変形して豚のそれとなり、鼻は並みのブタの倍ほどに膨らみ、歯は短い牙に変わった。

「あははは! すっかりブタらしくなっちゃったねえ」

少年がロベルトの銃を拾ってきて、まっすぐロベルトの鼻に突き入れる。脹れあがった鼻孔は難なくそれを飲み込んだ。

「ブホオオッ!? ブギーーーッ!」
「このままぶっ放してみようか? なんてね、フフ」

少年がゆっくり銃を引き抜くと、大量の粘液がべっとりとまとわりついてきた。小石大の緑色の鼻糞もゴロゴロ零れてきて、少年は短く叫ぶと銃を地上へと放り投げた。

「うーん、ここまで不潔なブタは初めて見たよ」

そうこうしてる間にもロベルトの変化は止まらない。体も一気に膨らみ、服や巻き付けていた弾薬が弾け飛ぶ。手足は急速に縮み豚足となり、ペニスも獣のソレへと変貌しながらポークビッツ並みに収束していった。そして、体色がみるみるうちにピンク色へ変色していく。
仕上げとばかりに尻から短い尻尾がくるりと飛び出すと、ロベルト……いや、ブタは、ブヒブヒとやかましく泣き叫びながら自分の糞尿の溜まった花床の中に堕ち、気を失った。

 

 

 

「おーい。起きろって。あれー? もしかしてもう死んじゃったかな」

どこか遠くで声がする。体のあちこちがチクチク痛む。ヒュンと風音がしたと思うと、また尻に痛みが走った。

「ブヒュィーーーッ!? ブゴッ! ブヒブヒ、ブヒッ!」
「やっと起きたか。ブタの中でもとびきりトロイねアンタ」

呆れたように言うと、少年は再び手鏡を取り出した。
そこには、ブタがいた。
どこからどうみてもブタだが、左目に眼帯をつけ、橙色をした長めの前髪がそこへかかっている。体中には、矢が突き刺さっていた。

「ブヒイイ!! ブヒイイイイィィィ!!」

ブタが鳴いた。このブタは泣くこともできるようだった。目から涙が零れてくる。ついでに、鼻からは鼻水が、口からは涎が、止まることなく流れ出ている。

「おめでとう。これでアンタも晴れてブタの仲間入りさ。その髪型のせいで、ちょっとキザなブタになっちゃったけどねwww」

少年は弓を構えて笑っている。そして側に落ちていた袋から肉片を取り出し、松明で炙って食べ始めた。

「やっぱりこの森のブタ肉はおいしいねぇ。今更過ぎる気もするけど、アンタが食べると共食いになるから、他のモノ食べててね」

そう言われると、激痛にも近い程の空腹が走った。何か食わずには生きられない体になっている。
目の前には、糞が浮いていた。よく見ると自身の体は糞尿の海と化した花床にどっぷりと浸かっている。

(だめだ……)

理性の声がした。しかし、本能は非情だった。目の前に漂う長くて太い一本糞に、食らいつく。

(いやだ……。自分の糞なんて……。食べたくない……)

ガツガツとむさぼるように食い尽くした。うまい。とにかくうまい。大口を開け、尿の海ごと糞を飲み込んでいく。口より大きい鼻の穴にも大量の便が流れ込む。

「ンゴッ! ブヒッ! ブゴブゴ……ブギィ……」

「あはははは! このブタ、鳴きながら自分のウンコ食ってるよ。いくらブタといっても、ここまで汚いと救いようがないね! このブタの肉だけは絶対に食べないようにしないと」

(ブタ……肉? そんな…… 俺は、おれ、は…… 死にたく…… ない……っ)

「ブヒーッ!! ブヒィィィーッ!!」

糞の海の中で、必死で暴れた。全体重をかけて、狂ったように暴れた。

「うわっ! きたなっ! ウンコかかった! おいこの糞豚! いい加減にしなよ!」

少年が顔色を変えて何か言ってるようだが、わからない。とにかく跳ねて、転げて、踊り狂った。眼帯のヒモが切れて千切れ飛ぶ。

「やめ、やめろってこのブタ!! こ、これ以上やったら……!」

憎たらしく笑っていた少年の顔が、恐怖に引きつっていた。全身糞まみれになって、ガタガタ震えている。それが励みになって、さらに暴れた。

「う、うわああああああああああああああーーーっ!!!???」

少年の絶叫とともに、大地が揺れた。巨大な花がトランポリンのように弾み、投げ出されたのだ。少年は木の根元の方へ飛んでいく。

そして、ブタもまた、反対側の地上へと落下していった。

 

 

 

 

「さーて。そろそろ引き払うか」

たき火の火を消しながら、リーダー格の男が言った。

「ロベルトの奴、本当にほっといてもいいのか?」
「構わんさ。悔しいが、あいつは俺たちよりずっと強い」
「どうも俺はあいつが好きになれなかったがな。俺のこと見下しやがって」
「あいつほどの腕になると、慎重は臆病と見えるんだろうさ」

一晩話し合った結果、やはりクリアは諦めて帰ろうという話でまとまった。確かにモンスターは弱いが、この森には何かある。そう思えてならないのだ。各々荷物をまとめて立ちあがったところで、一人の男が名残惜しそうに言った。

「しかしあの肉はうまかった。少し残しておけばよかったな」
「こんな所じゃまともな料理もできないからな。ぜひトンカツにして食いたかったものだ」

そんなことを話していると、突然背後からブタの鳴き声がした。慌てて身構えると、例の豚型モンスターが走り寄って来る。

「ブヒブヒ! ブヒーッ! ブヒブヒッ!」

体中に矢が突き立ち、酷いケガを負っているようだった。すがりつくような目で何かを訴えかけるように鳴いている。

「驚いた。噂をすればなんとやら、か」
「飛んで火にいるなんとやらでは?」
「いやいや棚から」

男たちがギラギラした目を向けると、ブタは急に怯えた目をして、一際うるさく鳴き叫びながら一目散に駈け出した。動きは遅い。

「逃げられると思うな、雑魚が」

弓使いに足を射られ、ブタが崩れ落ちる。リーダー格の男が歩み寄り、頭に槍を突き付けた。ブタは大量の鼻水と涎を溢れさせながら鳴いている。

「ブヒイイッ! ブヒヒ、ンゴッ! ブヒーッ!!」
「なんだか一段と汚いですね。全身糞まみれですし、涎鼻水の垂れ方もなんとも汚らしい」
「鳴き声もうるさいしな。命乞いしてるみてえだ」
「よく見るとコイツ、ロベルトにちょっと似てないか?」
「そういや髪の色とか形とか、よく似てるなぁ」
「ははは、本人がいなくて良かったな。聞かれたら殺されてたぞ」

「ブ、ブヒ、ブヒッ……ブギャアアアアアアアアアア゛~~ッ!!!!!!!」

数日後、冒険者一行は極上の豚肉を土産に無事、村へと帰還した。
だが何日経っても、ロベルトが戻ることはなかったという。

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