「メリークリスマース!」
電灯を消した部屋でクラッカーを鳴らし、ケーキの上の蝋燭の火を吹き消した。
卓の隅に置かれたキャンドルの心もとない灯りが、聖夜のムードを演出している。年に一度のクリスマス、俺はパーティーを開いて盛大に楽しんでいた。
……1人きりで。
「楽しめるかボケェ!」
いい加減空しくなって使用済みのクラッカーを投げ捨てる。ゴミ箱の端に当たって床にこぼれた。いそいそと拾い上げて捨て直し、ついでに電気をつける。外は雨が降っているが、4階の窓から見える街明かりはいつもよりずっと眩しく見える。
「おのれリア充どもめ……」
妻も子供も恋人も友人すらいない三十路のニートには、この日の居心地の悪さはには毎年苦しめられる。何も悪いことしてないのに針のむしろに座らされてる感じだ。いやこの歳で働いてないのは悪いけどさ。
去年までは極力意識しないでおこうとコンビニのおでんを食べながら時代劇を見たりしていたのだが、それはそれで気恥ずかしくなって、今年はあえて盛大にクリスマス気分を楽しもうとしてみたものの……。予想通り、余計に空しいだけだった。
あーあ。雨は夜更け過ぎに雪へと変わるんだろうなぁ畜生めが。男一匹哀愁に浸るクリスマスってのも乙ではあるけど、2年目くらいから飽きたわ。メリーならぬメランコリークリスマスだわ。
蝋燭を差していたコンビニのショートケーキ(2個入り398円)を悶々と食っていると、つい先ほどの出来事が生々しく蘇ってきた。
コンビニの袋を下げて部屋に帰ってきた時、間の悪いことに隣人が出てきて、ばったり鉢合わせてしまったのだ。ケーキだけを入れていたので、袋の中身もバレバレである。
「あっれー、今お帰りですかぁ?夜はこれからじゃないっスか。あ、そうかそうか、部屋でパーティーですね、羨ましいなあ」
隣人は、確か都成(となり)とか言ったか。大学生か専門学校生かなんかだったと思うが、ニートの俺を露骨に見下してくる嫌な奴だ。さっぱりとした黒髪に大きな瞳の、絵に描いたようなイケメンなのが余計に腹立たしい。
「おいちょっと、無視は酷いなー。俺、何か気に障るようなことでも言いましたっけ? あ、もしかして一人でパーティーとか? あははは、すんません、さすがにそりゃないっスよね」
ニヤニヤと嫌みな笑顔を浮かべながらいつも以上に突っかかってくる。
「君は楽しそうだね。彼女とデートかい?」
「うわ。野暮なこと聞くなー。デートっていうか、わかるでしょ? クリスマスイブなんだし」
「ああそう。頑張ってね」
「頑張ってって、下品な人だなー。ま、いいや。行ってきまーす。彼女さんかサンタさんでも来てくれるといいですねー」
都成は大げさに手を振ってスキップまじりに去って行った。
思い出しても腹の立つ。なぁにがサンタさんだクソガキが。人をなめくさりやがって。ああ、もういいや、ケーキも食い終わったし、まだ早いけど今日は寝よう。どうせ明日もニートだ。
ゴミを片付けてキャンドルの灯りを消し、パジャマに着替えてベッドに潜った。
……いま、何時なのだろう。
妙な物音が聞こえた気がして、目が覚めてしまった。カーテンを開けたまま寝てしまったけれど、部屋は真っ暗だ。なんだ、まだ夜じゃないか。別に夜寝て朝起きるような生活はしてないけど、今日は朝まで寝ると決めたんだ。寝直そうと目を閉じたとき、
コンコン、と。
今度ははっきりと音が聞こえた。これは……窓を叩く音? 馬鹿な。ここは4階だぞ。
雨音は聞こえないが、どうやら雪が降っているようだ。息を潜めていると、すぐにまた同じ音がした。目を擦って窓の方を見ると、なにか人影のようなものが張り付いている。
いい歳こいた男とは言え、怖いものは怖い。ドキドキする心臓を抑えてしばらく動けずにいたが、音は規則的に聞こえてくる。
意を決して立ち上がり、そっと窓の方に近づいた。間違いない、人だ。人がヤモリのように張り付き、窓を叩いている。とっさに壁に立てかけておいた護身用の木刀を構える、と。
「あわわわ! ま、待ってください! 暴力はダメです! 痛いことしないで!」
……子ども? 窓越しのくぐもった声だったが、どう考えても子供の声だ。よく見ると、窓に張り付いたシルエットも小さい。
その影を携帯のライトで照らしてみると……。
「わっ! 眩しい! やめて、他の人に見つかっちゃうよ」
そこにいたのは、真っ赤な衣装に身を固め、自分の身長ほどもある大きな白い袋を担いだ少年だった。
「さ、サンタ……くん?」
「そ、そうです。夢のない人は信じないかもだけど、正真正銘サンタさんです。決して怪しいものではないので、入れてくださーい」
いや、これは怪しいだろ。しかし、可愛らしい。ショタコン歴十数年の身としては心を許さざるを得ない。潤んだ目で見つめてくる少年としばらくガラス越しに対峙していたが……。
まあ、クリスマスならこういうこともあるだろう、と考えて、とうとう窓を開けてしまった。
「いやー、参っちゃいましたよ。最近の家は煙突もつけてやがらないんですね。こんなの研修じゃ習いませんでしたよ。窓に張り付いてる間にトナカイも逃げちゃうし、踏んだり蹴ったりです」
「ええと、君は……?」
「あっ、失礼いたしました。山上達夫さんで間違いありませんね?」
「はぁ、そうだけど」
「僕は世界サンタクロース協会アジア支部日本支店前橋出張所所属のサンタクロースです。なんというか、人間じゃなくてサンタクロースって種族なので名前もないのですが、とりあえず日本支店では黒須参太と名乗っています」
「ええと、結局呼び名はサンタでいいわけね」
「そうなりますね」
なんだ? サンタクロースって妖精か何かだったのか? いや、多分そこは気にしたら負けだ。目の前の自称サンタは見た感じ12、3歳の利口そうな少年だが、もしかすると俺よりずっと歳食ってるのかもしれない。窓際の机の上にちょこんと正座する姿は、あどけなくもあり、ふてぶてしくもあった。いや、それよりも、何でサンタがウチに?
「サンタって、子どもの所へ行くものでしょ。俺はもうそろそろオッサンだよ」
「あはは、それは見ればわかりますよ」
「ぐぬぅ。分かってるなら何でウチに……」
「おめでとうございます! あなたは今年の『大きいお友達枠』に当選されました!」
「はっ?」
いかん、会話がイマイチかみ合っていない。
「我が日本支部では、近年の恋人ごっこブームによる日本人のサンタ離れを甚だ危惧しております。そこで、サンタクロースの有用性をアピールするため、社会貢献も兼ねて、毎年残念な大人数人に無償でプレゼントを提供するサービスを始めたのです」
「おいこら、残念ってどういう……」
「いい年こいて子どもと同レベルの生活しかできず恋人もいない、平たく言うとサイレントでロンリーな1人きりのクリスマスイブを過ごしてるような大人です」
「ぐぬぬ……」
こいつ、自分が失礼なこと言ってると気付いてないな。勉強はできるけど頭は悪い、俺と同じタイプとみた。サンタ協会はなんつう教育してやがる。
「あー。いいよいいよ。特に欲しいものもないし」
「またまた御冗談を。ああでも、ご本人が自覚してないケースかもしれませんね」
「ん? どういうこと?」
「我が協会はお客様の満足度向上のため、誠心誠意真心をこめて業務に当たっております」
……また唐突に話がそれるな。
「靴下に希望の品を書いた紙を入れるなどという古臭い手法では、プレゼントが間に合わせになってご希望に添えなくなる恐れがありました。そこで近年では、あらかじめお客様の趣味・嗜好・行動パターン等を徹底的に調べ上げ、最善最良のプレゼントをこちらで事前に用意することにしているのですよ」
「なんとありがた迷惑な」
「いやぁ、なにぶん山上様の担当は若輩の僕だったため、調査やプレゼントの調達にも少々手間取ってしまいましたが、なんとかギリギリで間に合わせることができました」
そう言って少年サンタは清々しい笑顔を浮かべた。
うん。嫌な予感しかしない。
「おっと、もたもたしてると夜が明けちゃいますね。では、早速プレゼントの贈呈に移りたいと思います」
サンタは机から飛び降り、懐からラジカセを取り出して「清しこの夜」の東洋アレンジのようなBGMを流した。続けて床に降ろした大きな袋から、これまた大きな赤い包みを取り出す。
「よっこいしょっと。コホン。敬虔なる仔羊、山上達夫さんに、神の祝福のあらんことを。メリークリスマス!」
いや俺クリスチャンじゃないし。とか突っ込みたいのもやまやまだが、ここまでくるとさすがにプレゼントの中身が気になる。サンタ少年が両手で抱えられるくらいの大きさはあるのだ。その割には随分軽そうだったけど……。
サンタはニコニコと満面の笑みを浮かべたまま、その包みを両手で押し出すように贈呈してきた。
「どうぞどうぞ、早速開けてみてください」
「今じゃなきゃダメか?」
「いろいろと使用法の説明が必要なので、実際に使って見せた方が早いかと」
ますます怪しい。一体何が入ってるっていうんだ。考えていてもサンタは動く気配もなく、嬉しそうに見つめてくるだけだ。軽く息を吐いて覚悟を決めてから、俺はゆっくりとリボンをほどいていった。
「な……なんじゃこりゃっ……!?」
包み紙の下から出てきたものを見て、俺は思わず後ずさっていた。空いた口が塞がらないとはまさにこのこと。
四角い透明のプラスチックケースの中に、人のようなものが無理矢理押し込まれていた。手足が適当に曲げられ狭い箱に詰められたそれは、等身大の人形のように見えたが、そうではないことはすぐにわかった。生気を失ったように項垂れたその顔は、よく知っているものだったからだ。
「こ、こいつは、隣の……」
そうだ、隣の都成だ。つい数時間前に会ったときと同じ格好のまま、いかにも雑に箱詰めされている。目や口は開いているが、表情らしいものは全く浮かべず、息をしている様子もない。
全身からさっと血の気が引いて、俺は後ろざま床に倒れ込んだ。
「な、な、な、何だよこれはっ!? おま、こ、殺しちまったのか、こいつをっ」
「あはははは、サプライズせいこー! やっぱりプレゼントは開けた時のインパクト、大事ですよね!」
サプライズどころの話じゃない。突っ込みもできずガタガタ震えると、さすがにサンタも慌てはじめた。
「あ、す、すみません。ちょっと驚かせすぎちゃいましたね。安心してください。死んではいませんから」
「ど、どう見たって、生きてもいないだろ!」
「うーん、それは、えと、どうなんだろ。今は、生きてはいないのかな」
相変わらず会話がスムーズに運ばない。警察を呼ぼうとよろよろと立ちあがったところで、
「わ、待って待って! 今、動かしますから!」
サンタが慌てて叫び、箱の側面に取りつけられていたリモコンのようなものを手に取った。そして何やらボタンを押したかと思うと……。
「……うっ。ううん? 俺は一体……」
都成の顔にパッと表情が戻り、うめき声が上がった。俺は脱力して、再び床にへたれこむ。だが、やはり都成の様子はおかしい。顔のパーツこそ動いているが、苦しそうな体勢はまったく変わっていないのだ。
「な、なんだ? 体が、動かねえっ!?」
茫然と見守っていると、うつむいた状態から瞳だけで見上げてきた都成と、ふと目があった。
「あ、あんたは隣のニート! お、おい何だよこれ!? 俺に何をした!」
「い、いや、こっちが聞きたいくらいで……」
会話ができたことで少し落ち着いてきて、そこでようやくこの状況を作った本人の存在を思い出す。少年は、意地の悪そうな笑顔で都成を見下ろしていた。
「……何したの? 君」
俺が聞くと、少年は胸を張ってはきはきと答えた。
「はい! これが僕からのプレゼント! ラジコン人間です!」
「ら、ラジコン人間……?」
よくわからないが、都成が何か改造を施されているということだけは、なんとなくわかった。
「この生意気そうなお兄さんにはちょっと眠ってもらって、その間に体や脳の中身を全てデータ化して吸い出し、このコントローラーに移し替えました。今、あの人の中身は空っぽで、手足の動作などは全てこのコントローラーによって遠隔操作で行います。ここについてる液晶パネルの上で、相手の体の動きを思い描きながら適当に指を動かします。すると、機械がマスターの意志を読み取って動作を伝達します。」
言いながら、サンタがリモコンを都成に向けて、軽く指先を動かす。すると、愕然と聞いていた都成が突然立ち上がり、薄いプラスチックの天井を突き破って直立した。
「ひっ!?ひいいっ! な、何なんだよ! 体が勝手にっ……」
サンタは青ざめる都成を見てカラカラと笑い、そのまま操作を続ける。都成が何やら喚きながら、その場で屈伸したり、上体をそらしたりと、ラジオ体操のように動き始めた。
「感度良好。改造は大成功のようですね。ここまではお分かりいただけましたか?」
「え、ええと。どこから突っ込めばいいかわからないけど、いくつか質問が」
「はい、なんでしょう」
「お、おいコラ! てめえら、何をわけのわからないこと言ってやがる! 今すぐもとに戻せ!」
「もー。うるさいお兄さんですねー。ま、ついでなので次の基本機能をお見せしますね。パネルの上に黄色いボタンがありますね。これを押すと、相手の思考回路を一時的に切断できます。まぁスイッチのオンオフですね」
サンタがそれを押すと、都成が怒りの形相のまま喋らなくなり、片腕を大きく曲げた状態で固まってしまった。
「オフにしても体のバランスはそのまま保たれます。この状態でも操作は可能なので、単純に人形として遊ぶ分にはお勧めですね。オンにするとさっきのように自我を取り戻し、会話が可能になります。相手の体を弄びながら罵ってやりたい時などは、オン状態でどうぞ。さて、静かになったことですし、ご質問を承ります」
「罵るって……」
何から聞いたものか迷ったが、名誉のためにそこから質しておくことにした。
「ええと、まず、何で俺がこんなもの貰って喜ぶと思ったの?」
「山上様の過去のご注文履歴を調べますと、幼少時はもっぱらラジコンの車やヘリをご所望でした。それから育成ゲームのようなものに関心を持たれたようで、サンタ協会との取引が行われた最後の商品は、たまごっちでした」
……そういやそうだっけ。流行ってたからな、たまごっち。というか親父がデパートで買ってきたものと思ってたのに、本当にサンタから仕入れていたとは。
「それに最近では、いわゆるリア充という人種に相当な劣等感をお持ちのようでした。特にいつも見下してくるこの男を好きなように弄んでみたいと思っていらした。そうですね!」
……こいつ、さては夕方のやり取りを覗き見てそう思っただけだな。あながち間違いでもないが、……弄ぶってこういうことじゃねえよ。
「そこで、憎きリア充のこの人をラジコンに仕立てて調教なり復讐、もとい、育成を楽しんでいただこうと思いまして。この人の跡をつけて拉致し、手早く処理を施しました」
「……一応はわかった。じゃあ次、なんでお前にそんなことできるの?」
「あはは、やだなぁ。エロ同人にお約束の、謎の科学技術ってやつじゃないですか。サンタ協会としても既成商品に頼っていたのでは宅配便にかないませんから、独自の商品開発に力を入れてるんですよー」
「……じゃあ最後に。これ、いろいろマズくないか? 犯罪臭が半端ないんだけど」
「自業自得だと思いますけどねー。ちょっと調べたらこの都成とかいう人、とっかえひっかえ女を替えてはヤリまくってるようですし。中学時代はイジメの主犯格でもあったそうですよ」
「その情報の信ぴょう性が疑わしいけど、本当なら許せないね。とかそうじゃなくてさ」
「記憶も改ざんできますから、昼は何事もなかったように学校に行かせて、帰ったら山上様のお人形、なんて使用法もできます。いざとなったら、僕を呼んでくれればすぐに元に戻せますしね。そもそも改造されてラジコンにされたなんて、警察は信じませんよ。あはははは」
少年は無邪気に笑っている。いろいろ酷いこと言ってるが、まぁ最終的に元に戻せるのなら、せっかくだしちょっと遊んでみようかな。
「よし、わかった。こうなった以上は使ってみなきゃ損だ。リモコン貸せ」
「はい! きっと楽しんでいただけると思いますよ。他にもいくつか機能があるので、おいおい説明しますね」
リモコンを受けとり、とりあえず固まったままの都成を観察する。スイッチを切った時の表情で大きく腕を曲げたまま、剥製のように動かない。とりあえず腕を閉じて真っ直ぐ立たせようと、それをイメージしながらパネルの上で指を動かした。パタンと、思い通りの動きをして都成が直立する。
「おおー」
「ね、簡単でしょ?」
屈伸したりシャドウボクシングをさせたりと簡単な動作を繰り返していると、すぐにコツを掴んだ。腰に手を当ててフォークダンスを踊らせてみる。怒り顔でウキウキ踊る姿に、サンタと2人して噴き出した。
「こりゃおもしれーや。よーし、じゃ、スイッチ入れてみるか」
再び直立させて黄色いボタンを押すと、都成の表情が驚きに変わった。
「なっ。い、一体何が……。おいニート! こんなことして、ただで済むと思ってんのか! 監禁は立派な犯罪だぞ!」
「ふっふーん。お前こそ言葉には気をつけろよ。お前の体は、もう俺のものだからな」
「てめぇ! ふざけたこと言ってんじゃっ……!?」
怒鳴りながら都成は大きくガニマタを開き、高速でコマネチを始めた。
「な、なんだこれっ! おい、やめろ馬鹿! すぐに止めろ!」
都成は大声で喚きたてながら、股の辺りで逆三角形を作るように腕をカクカクと動かし続ける。あまりの滑稽さに、俺はまたしても吹き出してしまった。
「ぷぷっ、まぁこれも社会勉強だよ学生くん。将来会社に勤めるなら、宴会芸の一つや二つできないとやってけないからな多分。……しかし、やはり掛け声が欲しいところだな。コマネチ! なりハイグレ! なり」
「その言葉を待ってましたよ旦那! リモコンをご覧ください。音声認識、ってボタンがありますね。言わせたい言葉とだいたいの音量を念じながらポチッと押すだけで、あら不思議!」
「ポチッとな」
「コマネチ! コマネチ! ひっ、口が勝手にっ……コマネチ!」
腕の動きに合わせて大声で叫ぶイケメン。指を指して笑ってやると都成は顔を真っ赤にして睨み付けてきたが、それでもコマネチを続けている。
「うううっ、コマネチ! お、覚えてろよっ…コマネチ!」
「ちなみにサイレントってボタンを押せば余計な音声を消すこともできますよ」
「ふうん。覚えておこう。ようし、次は何をさせようかな」
シェーやら命やら、思いつく限りの一発ギャグをかまさせ、猿の真似をさせてウキウキ鳴かせたりしてから、
「そうだ、記念撮影しとかないと」
思いついて、都成の上着からケータイをひったくった。
「やっ、やめろ! もうやめてくれっ!」
「やーだよ。じゃあ、そうだな、ムンクの『叫び』的なものでも作るか」
俺がパネルを操作すると、都成はバチンと派手な音を立てて自分の顔を両側から掌で挟み込んだ。顔が潰れ、唇がタコのように突き出す。脚はとりあえずガニマタ固定だ。
「うぐううっ!」
「あはははは! 間抜けな顔ですねー」
「そうだな。あのイケメンとは思えない。パシャッとな」
「お゛まえ゛、ゆ、ゆ゛るだないがらな゛」
間抜け面にフラッシュを当てると都成が何か言ったが、そんな面で何言われても怖くない。
お次は変顔の定番、豚鼻だ。俺の意志により、都成は右手の人差し指を横から伸ばして、自らの鼻の頭を潰した。鼻の穴が縦に広がり、端正な顔が一瞬にして崩壊する。左手はでこに当て、前髪をかき上げさせた。
「殺す! この引きニート! お前だけは、ゆるさねぇ!」
自らブタ面を作りながら睨んでくる都成は、滑稽なんてものじゃない。何枚か写メを撮ると、今度は音声をいじってブーブー鳴かせ、動画に収める。
「ブーブー! 俺はリア充のオスブタなんでブー!」
「ははは、馬鹿だコイツ。でも顔が怒り顔ってのも飽きたな」
「表情も体と同じ要領で操れますよ」
「なんだ、それを早く言えよ」
「ブーブー! ブヒブヒィーッ!」
ブタのように鳴く都成が、白目を剥き、舌を突き出してベロベロ振り始める。そのまま尻を滅茶苦茶に振ったり、左手で自らの尻を叩かせたりしてみる。
仕上げは右手で豚鼻、左手でピースを作らせ、媚びるような厭らしい笑顔にさせる。大きく広がった鼻の穴からは鼻毛が丸見え。目は上目使いの寄り目で、口はにんまりと半円を描かせ、舌をペコちゃんよろしくお茶目にはみ出させる。その表情でブタ鳴きさせたまま、サイレントを解除だ。
「ブヒブヒ! い、いい加減にしろブヒーッ! ぶっ殺すブヒブヒーッ」
「あっ、あははははは! 何ですかこの間抜けな生命体! ブタに喧嘩売ってるレベルのアホ面ですよオニーサン」
サンタは腹を抱えて笑い転げている。これはいい動画が取れた。
「さて、そろそろ自分の立場が分かってもらえたかな?」
豚面を撮りまくったあと、小休止がてら都成に声をかけてみる。
「ふんっ。信じられないけど、俺の身に何が起きてるかはわかったよ。でも、俺は絶対にお前になんか屈さない……んっ……からなっ、んぐっ」
「おおっ、意外と粘りますね。……プッ」
確かにここまで辱めを受けてきてこんなセリフが吐けるのは大したものだ。
……鼻くそほじりながらだけど。
都成は左手の人差し指を思い切り左の鼻孔に突っ込み、グリグリこねくりまわしている。おかげで鼻がいびつに膨らみ、すました顔が台無しである。
「覚悟しとけよ。……んごっ。必ず訴えて、お前を破滅さてや……んごおっ」
都成が勝手に白目を剥く。
「馬鹿ですねこのお兄さん。こんなに激しく鼻をほじりながら喋ったら指が食い込むだけなのに」
ゆっくり指を抜かせると、粘着質な鼻くそが糸を引きながら伸びてきた。都成が恥ずかしそうに顔を赤らめるが、表情操作でアへ顔に変えてやる。
そのままスイッチを切って物言わぬ人形に変える。至近距離からその汚物とアホ面を撮影しながら、ふと疑問に思った。
「あいつの体、空っぽって聞いたけど、鼻くそは出てくるのか」
「諸々の便宜を考えて、体液や汚物は出てくるようにしときました。そういうのが好きな方もいらっしゃいますし。あ、大小便はこちらで指示しない限り勝手にこぼれたりはしないのでご安心ください。仕組みは企業機密です」
「空っぽって、本当に空洞なのか」
「そうですよ。コントローラーの端に、赤と青のボタンがありますよね。赤い方を押してみてください」
言われるままにボタンを押すと、都成の尻からブウッと、オナラのような音が飛び出した。そのまま尻から空気が出続けてるようで、シューシュー音を立てながら、みるみるうちに都成の体が萎んでいく。
数十秒もしないうちに、床にはペラペラの紙一枚に成り果てた都成の姿があった。アへ顔のまま、全身がペッタンコに潰れている。目玉も平面に変わり、ちゃんと顔に張り付いていた。
「こ、これは……」
指でつまんで前後に振ってみるが、やはり紙の重さと感触しかない。
「この人の中身は、空気なんです。風船人形のようなものですね。空気を抜いて圧縮することによってこの薄さにまで畳めるので、収納や持ち運びも簡単。人間状態の時は硬度や重さは自在に調整できますよ」
サンタが得意げに解説する。
「それでお前のような子供が軽々と背負っていたのか」
「畳んどいた方が運びやすかったのですが、さすがに最初からこの状態で渡すと、お客様が卒倒されてしまう恐れがあったので」
「そりゃそうだ。まぁ、人形遊びに飽きたら絨毯や足ふきマットに使うのもありかもな」
「うわぁ、鬼畜ですねぇお客様。……へっくし! ズピー、失礼。寒空でずっと待たされていたもので体が冷えちゃったようで。鼻紙にそれ使ってもいいですか?」
……お前の方がえげつないわ。許可を出すと、サンタは都成を顔が上に来るよう小さく折り畳んでいき、容赦なく鼻に押し当て、チーンと派手にかんだ。サンタの鼻から鼻水が吹き出し、都成の顔との間で糸を引いているのが見えた。……おええ、新手のグロだな。かみ終るとサンタは都成をくしゃくしゃに丸め、ゴミ箱に捨てた。
「おい、俺の玩具だぞ」
「あ、すみません。いつもの癖でつい。でも膨らませれば皺ひとつ残りませんよ」
てへっと舌を出して笑って見せるサンタ。絶対わざとだ。顔は天使のようにかわいいのに、性格は悪魔だな。
「じゃあ、こっちの青いボタンはなんだ?」
「押してみますか?」
サンタが都成を広げて床に敷いたあと、ボタンを押してみる。すると、都成の体内からプシューと空気の出る音が聞こえ、数十秒後に元の大きさに戻った。そこで停止せずに放っておくと、こんどは都成の体がプクプクと膨らみ始め、全身が大きな球体になってふわりと浮いた。真ん丸の体の中心に、サンタの鼻水にまみれた汚いアへ顔がくっついている。
「もういい、部屋が狭くなる」
止めた時には既に大玉転がしの玉くらいに膨らんでいた。服はパンパンに広がって弾ける寸前といったところか。
「平面時は無理ですが、この状態ならスイッチを入れることもできますよ」
サンタに言われて、膨れ上がった都成に意識を戻す。
「ん……? ひっ、ひいいいっ!? 何だよ、どうなってんだよコレ!?」
先ほどようやく落ち着きを取り戻していたが、さすがに膨れ上がって宙に浮かんでいるこの状態には動揺を隠せないようだ。
「いいザマだなイケメン君。自慢のモデル体型が、今やデブどころか魔人○ウだぞ。いや、どっちかというと破裂寸前のセ○か」
「破裂って……、おいまさか、ウソだろ?」
体に比べて極端に小さな都成の顔が、みるみる青ざめていく。
「さぁて、どうしよっかなー」
言いながら、大きなボールと化したその体を軽く蹴り飛ばしてやる。都成は悲鳴をあげながら跳ね上がり、天井や壁に跳ね返って戻ってきた。それをサンタが嬉しそうに蹴り返す。
「や、やめ、やめてくれ! もう、頭がどうにかなりそうだ」
頭どころか体中がどうにかなってるんだけどな。これ以上膨張させたまま遊んでると部屋が滅茶苦茶になりそうだったので、赤いボタンを押して空気を抜き、人間サイズに戻してやった。
「なんで、こんなことに……。もう、返してくれよ。ユキの所に行かせてくれ」
都成の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「ユキ? そういやデートに行くとか言ってたな。ああ、よく見たら、お前のケータイに山ほど履歴残ってるわ。もう怒って帰っちゃっただろうな」
「そんな……。て、てめぇ、こんなことして何が楽しいんだよ! 自分がモテないからって、人のデートの邪魔して、いたぶって、それで満足かよ? 最低なニートだな!」
涙目になりながらも恐ろしい形相で睨み付けてくる都成の言葉が、俺の琴線に触れた。
何なんだその物言いは。全てあのショタサンタが勝手に仕組んだことであって、もともと俺は何の関係もない。それを最低なニートとは、言いがかりも甚だしい。許されない冤罪だ。
「そろそろ飽きたし解放しようかと思ってたけど、これは本当にいたぶってやらなきゃ気が済まなくなってきたぞ」
「あのー、お客様」
怒りに燃えていると、サンタが俺の袖を引っ張ってきた。
「そろそろ、ホラ。脱がせちゃったらどうですか?」
「脱がす? って、服をか?」
「ええ、そりゃもちろん、服もズボンもパンツも。靴下はお好みですけど」
「なんで、俺が野郎の裸なんて見なくちゃいけないんだよ」
「へ?」
俺が呆れたように言うと、サンタは目を丸くしてうろたえていた。
「変だなぁ。僕が協会に指名された時、『あの方は少年の体が好みのようだから、くれぐれもよろしく頼む』と仰せつかったもので。てっきりホモの方だと思って、肉人形も兼ねてこのプレゼントを考えたのですが」
……こいつのどこが少年なんだよ。こういうのは青年もしくはイケメンって人種だろう。
俺はショタコンであってホモじゃない。どうせIPアドレスでも調べて解析したんだろうが、サンタ協会め、肝心なところがわかってない。いや、少年と聞いてこいつを捕まえてきたこのアホショタが悪いのか。
でも、そうか。リア充イケメンをギャフンと言わせるには、いい手ではある。
「ふむ、俺がホモだというのはとんでもない誤解だが、この際ひん剥いてやるのが一番だな」
「き、キメェこと言ってんじゃねぇよ糞が! もしやとは思ってたけど、やっぱりお前ホモかよ!」
「おいおい、この期に及んで俺にそんな口利いていいのか? まぁ今更謝っても許さないけど。いきなり全裸ってのも芸がないから、先にご自慢の逸物でも拝んでやるかな」
「ひ、やめろっ」
俺がリモコンを向けると、やめろと言いながら、都成は自分でズボンのチャックを下ろした。ガニマタに足を開き、腰を大きく前へ突き出す。開いた社会の窓に手をつっこませ、ついでに音声機能も使ってやる。
「い、いやだ、見る……おチンポ様のおなーりー!」
ハイテンションな掛け声とともに、都成は自らのペニスを引っ張り出した。でろんと飛び出したのは、真っ黒で野太い、けれど短めの不格好なモノだった。
「うわ、なんだこれ。体はスリムなのにチンコはデブってやつ? よくこんなんで女をとっかえひっかえできたもんだな」
「次々に逃げられただけだったのかもしれませんねー」
「か、勝手なこと言ってんじゃねぇよ! エロ漫画じゃあるまいに、チンコの長さで男を選ぶ女なんてそうそういねーよ! 顔が全てなんだよ!」
ガニマタのまま都成がムキになって反論してくる。あれだけの変顔を晒した後でよくもまぁそんなことが言えるもんだ。そんなことより……。
「なぁ都成、彼女さんが心配してるぞ。メールくらい送ってやりたいだろ」
没収したケータイをぶらぶら振って見せつけてやると、都成の顔色がさらに悪くなった。
「ま、まて。何考えてんだお前っ……や、やめろっ! 勝手に動かすな!」
俺の意志によって、都成は短いペニスを右手で握り込み、シコシコと激しく扱きだした。
「ひゃあああっ! や、やめろぉっ!」
「ははは、人前でオナニーなんかしちゃって、恥ずかしい奴だ。ふーん、どうやらちゃんと感じてるみたいだな」
「その辺にぬかりはありませんよ。ちゃんと興奮もしますし勃起もします。射精だってちゃんとできますので」
サンタの言葉通り、都成のペニスがむくむくと勃ちあがってきた。都成は何事か喚き続けているが、息遣いも荒くなってきている。クチクチと先走りの音が聞こえてきたところで、都成の手を止めた。
「んあっ!? はあっ、はあっ、な、なんのつもりだ」
「なんだ、あれだけ罵っといて俺の前で射精したいのかよ」
「んなわけねえだろ! く、くそっ、何考えてんだ! あっ……」
都成はイチモツの根元に当てていた右手を外し、皮の先をつまんだ。そのまま皮を上へ上へと引っ張り上げる。
「あたっ、いたたっ! や、やめろ、お前、馬鹿じゃないか!?」
どうみても馬鹿はお前です。都成は限界まで皮を引っ張ってペニスを垂直に立たせ、空いた左手でピースを作る。ペニスからは先走りが漏れ出していた。
そんな都成の全身がよく映るように、携帯のカメラを構える。
「なっ……ダメだっ! こんな姿っ」
「はいはい、少し黙っててね」
スイッチを切って都成を人形に戻す。慌てたような表情を、しまりのないアへ顔に変えてやる。毎度同じじゃつまらないので、試みに舌を真上に出して鼻先を舐めるような格好にしようと思ったが、ギリギリ届かない。まぁこれはこれでいいか。
「はい、チーズ」
ガニマタにアへ顔ピース、そしてズボンのチャックから飛び出し、皮で引っ張られた真っ黒いチンポ。うん、最低の写真ができた。覗き込んだサンタが見下すようにくつくつと笑う。
「うわぁ。こんな情けないアホ面見られたら、僕ならもう生きていけませんよ」
「ふふふ、そうだろうとも」
スイッチを入れて都成を起こす。同時にその眼前に、世にも醜い都成自身の姿を突き出してやる。
「ああ、そんな、俺が、俺がこんな……っ」
「最低だよな、人として。さーて、今の彼女は確か、ユキちゃんだったっけ?」
「はっ、や、やめろっ! お願いだから、それだけはやめてくれっ!」
「なにその上から目線?」
「ううっ、ど、どうか、画像を送るのだけは、勘弁してください」
ついに都成の両目から涙が零れてきた。ふん、いい気味だ。
「誠意が足りないな。ちゃんと土下座して、今までの非礼を詫びろよ」
「土下座って、う、動けないんだよ! わかってるだろ!」
「ならお願いすればいいじゃん」
「く……くそっ。ど、どうか、土下座させてください! お願いします!」
懇願されては仕方がない。チンポ丸出しのまま、額を床にすりつけるように土下座させてやる。
「……い、今まで生意気な口利いてすみませんでした。どうか、画像を送るのだけはやめてください……」
「あー、ダメダメ、そんなんじゃ。これくらい言ってもらわないと」
都成の声を借りてお手本を言わせると、都成は顔を真っ赤にして震えていたが、意を決したように自らの意志でそれを繰り返した。
「セックス中毒で黒ずんだ短小チンポな変態リア充の分際で、崇高なボッチのニート様を見下して申し訳ございませんでした! どうか俺の、ち、チンポの皮引っ張って顔面崩壊レベルのアへ顔晒す醜い本性を、ユキに見せないでください!」
「おお。よくそんなみっともないセリフが言えたもんだ。すごいね。でも却下」
「てめええぇっ!」
わかりやすいことに、カタカナで≪ユキ≫と登録されたアドレスを発見。
「えーと。『すっぽかしてゴメン。ネットに投稿する写真撮ってたら夜中になっちゃったw テヘペロ』と」
先ほどの写真を添えて躊躇なく送信してやる。
「そ、そんな、嘘だ……こんな、こんなあっ」
都成は床に這いつくばったまま、子どものように大声で泣き出した。メールの中身が嘘にならないように、ちゃんとネットのホモ画像板にも晒してやる。さっき撮った変顔もまとめて貼っといてやろう。
と、数分もせず都成のケータイが鳴った。画面の表示は……≪ユキ≫。
「ま、まさかっ」
震える都成にケータイを持たせ、立ちあがらせる。
「彼女の声が聴けるぞ。良かったな」
「そんな、待ってくれっ……んあっ」
左手で通話ボタンを押してケータイを構えさせると同時に、右手でオナニーを再開させる。ケータイから、ユキとやらの甲高い声が漏れてきた。
『ちょっとリョー君? いったいなんなの!? あたし、雨の中2時間も待ってたのよ? それなのに、あの写真は一体どういうこと? わかるように説明して!』
「お、落ち着いてくれユキ。これは、罠なん……あひっ!?」
余計なことを言いそうになったので、ペニスを握っていた右手に思い切り力をこめさせてやる。
『なに? なんなのよもう! 今どこ? 何してるの?』
「そ、それは……オナニーだよ! や、ち、違っ、お前っ!」
音声機能で正直に告白させてやると、都成は面白い程うろたえた。涙どころか鼻水まで垂れてきて、普段の爽やかさはどこにもない。
『はぁ? オナニー? オナニーって言ったの? 信じらんないんだけど』
「ちがっ! これはっ……んんっ、はぁっ、はぁっ」
『なに喘いでるのよ変態! なんかグチュグチュ聞こえてるし、ホント、わけわかんないんだけど。もう切るからね、サヨナラ』
「まてっ! 待ってくれ! !? んあっ! んひいいっ!? ら、らめええっ、んおっ、んおおおおっ~~!?」
突然都成が白目を剥いて気持ちの悪い喘ぎ声を出したので、何事かとリモコンに目を落とすと、側面についたツマミをサンタが回していた。
「感度調節用のツマミです。ボリュームを最大まで上げると、感度が通常の5倍以上に膨らみます」
……また悪趣味なものを。
「おへええええ~~っ! んおっ、おっ、イクッ、イクイクイクイ゛グゥゥ~~!! んほっ、ほおおおおっ~~~!?!?」
ビュルッ、ビュルルッと、都成は大量の精液を間欠泉のように噴き上げた。……あの馬鹿、人の部屋にこんなにイカ汁まき散らしやがって。あとで平面化して自分の体で拭き取らせてやる。
『……キモッ。ホントに電話しながら射精しちゃったのね。大体わかったわ、要するに、リョー君は真正のド変態だったってことね。彼女よりも、ホモの餌になって変態オナニーすることの方が大事なのね』
「はへぇ…… ほおおぉ……」
都成は鼻水や涎の糸を垂らしながら、立ったまま放心している。
『わかったわ。そっちがその気なら、私にも考えがあるから。むしろ調度いいわ。今度のコミケまでモデルになってもらうわよ。どうやってカミングアウトしようか悩んでたけど、変態ホモ野郎なら遠慮なくケツ穴を開発して、弟に掘らせて、アへ顔まで克明に漫画にしてあげるから! 明日会うのが楽しみね!』
早口でまくしたてると、ユキさんは一方的に電話を切った。……心なしか声が弾んでいたような。
「別れずに済んでラッキーだったな。この色男」
慰めてやったが、都成には彼女の捨て台詞も聞こえてなかったようだ。
「お……オワタwww 俺の人生オワタwww あひゃ、あひゃひゃひゃひゃwww」
「駄目だこりゃ」
「あ~らえっささー 俺の生まれは安来のふんふんふーん♪」
数分後。
狭い座卓の上には陽気にドジョウすくいを踊る都成の姿があった。素っ裸にサンタの用意していた赤い靴下だけを履き、ざるの代わりにクリスマスリースを持っている。ひょっとこのように口を尖らせ、鼻の穴には当然、ゴミ箱にあった使用済みの割り箸を折って突っ込んである
操作しているのは俺だが、正確な振付なんて知らないので、とにかく無様になるよう適当に躍らせていた。音声もいじってみたが、歌詞も知らないので9割鼻歌だ。
そんな都成の正面には、サンタの袋に入っていたビデオカメラが固定されている。パソコンにつなぎ、動画サイトで生中継しているのだ。
「ふんふんふーん♪ あはは、俺、すっげーアホなことしてる。 裸で馬鹿みたいに踊ってるの、撮られてるっ。あはっ、あはははっ! ふんふんふーん♪」
都成はだらしない笑みを浮かべて涎や鼻水をまき散らしているが、表情は操っていない。どうやら彼女にキモイと言われたショックで吹っ切れ、同時にマゾとして覚醒してしまったらしい。踊りに合わせて揺れるペニスは、再びムクムクと膨らみだしていた。
もはや初めの威勢はどこにもなく、操られた鼻歌の間に漏れる本音も、媚びるような響きを帯びていた。
「ひゃあー。人間堕ちれば堕ちるもんですね。お客様も鬼畜なんだから」
「全部お前のせいだ。まぁ本当に壊れちまっても修理はできるんだろ」
「何度でも調教できますよ。お得なオモチャでしょ。あーあ、あんなに鼻水垂らして、子どもじゃないんだから」
鼻水の勢いで、片方の鼻孔から割り箸が滑り落ちてしまった。そのため片側の鼻だけ間抜けに膨らんだ状態で、都成は踊り続ける。
やがてペニスが完全に勃起し、左右に揺れてカウパーをまき散らしていく。
「んはあああぁぁ! らめ、チンチン触りたいの! お願いれしゅ、シコシコオナニーさせてくらしゃいぃっ」
恥も外聞もなく嘆願する都成を、サンタは汚いものを見る目で見上げていた。
動画の視聴者は今の言葉が自分たちに向けられていると思ったようで、コメントが一気に加速する
≪やれやれ変態ヤロー≫
≪なんでクリスマスにドジョウ掬い見なきゃなんねぇんだよ。とっととシコって終わらせろ≫
≪イケメンの考えることはわからんわ。イブに振られて頭イカれたか≫
コメントにお応えして、都成にリースを捨てさせ、両手で思い切りペニスを扱かせた。足は踊りを続けたままだ。
「ほおおっ!! イイ゛! きもひぃいい! 見られながらチンポしごくの最高でひゅうううッ! みんな見てぇ! 俺の変態オナニーみてえっ! いひっ、ひっ、んひいいいいいいいっっっっ~~!!!」
踊りながら、都成はついにザーメンを噴き上げた。二度目だというのに、勢いは全く衰えていない。狂ったようなアへ顔の中心から残った割り箸が飛び出し、カメラに直撃してレンズを割った。
「あああッ! 大切な備品を! このゴミクズ!」
「ぎひぃっ! もっと! もっと殴ってくらしゃいいいいっ!」
サンタが激しくパンチを繰り返すたび、都成の腹はペコペコとへこんで元に戻る。サンドバックとして使うのも良さそうだ。
子供に殴られて歓喜の表情を浮かべる都成に、数時間前までの面影はない。顔から涎鼻水を、ペニスから精液を滝のように垂れ流している姿は、イケメンなどという言葉とはおよそかけ離れたものだった。
ふん、ざまぁみろ。ニートを馬鹿にした罰だ。
こいつは俺の玩具になったのだと改めて実感し、胸がすっと晴れてきた。
しばらく殴り続けて気が済んだのか、サンタが俺の側に戻ってきた。その頭をポンポンと軽くたたいてやる。
「最初はたまげたが、いいプレゼントだった。礼を言うよ」
「あはは! お客様に喜んでいただけたなら、サンタとしてこれ以上嬉しいことはありません。それに正直、僕も楽しかったですしね」
ニコニコと笑うサンタの笑顔に、ドキッとした。真っ黒だった空が、少し青みを帯び始めてきていた。こいつとも、そろそろお別れか。
「ドーナツでも食ってけよ。このオモチャのことで相談もあるしな」
ちらりと都成に目をやると、えへえへと下品な笑い声を漏らしながら、だらしのない笑顔を晒していた。
「おお、これはいい紅茶ですね。ニートのくせに、いいモノ飲んでるじゃないですか」
「うっせー。お袋に貰ったんだよ」
俺とサンタは、向かい合ってあぐらをかき、紅茶とドーナツを味わっていた。
間には、全裸でブリッジした都成があった。スイッチを切り、卓として使っている。股から突き出たペニスが不格好だが、それを除けば奇抜なインテリアとしても使えなくはない。
こいつには明日からも何事もなかったように学校に通わせるつもりだが、あれだけ派手なことをしたんだ。動画もしばらくは出回るだろうし、彼女の件もある。今まで通りの生活はとてもできないだろう。
いっそ変態露出狂だという記憶を植え付けてしまうのもアリだな。昼は俺の知らないどこかで変態どもや彼女に回されて、夜は俺の家で家具なり置物なりちり紙として使用される。悪くない。
しかしそうなると、ひとつ問題がある。
「なぁサンタ、思いもかけず、俺はこのオモチャが気に入ってしまった。できれば毎晩人間ラジコンにしておきたいが、同時に毎朝人間に戻して普通に生活させたいとも思ってるんだ。毎日、ここに来てくれるわけにはいかないか?」
「ええ、別に構いませんよ」
サンタはニコリと笑ってあっけなく答えた。
「いいのか? 仕事の邪魔とかになるんじゃないの?」
「基本的にサンタが忙しいのは今日までですから、あと一年は結構ヒマなんですよ。研修やら営業ノルマもあるんですが、なぜか僕はこれから10年分は免除になりましたからね」
「免除って、なんじゃそら」
「山上様に無事プレゼントを渡せたら、それで10年分の単位と営業点数が貰えるっていうんですよ。でもそれはそれで暇なんで、毎日でも遊びに来ますよ」
……ふぅん? よく分からんが、俺としては助かるか。
「でもお客様がホモじゃないと分かった時は冷や冷やしましたよ。返品されて追い返されたりしたら、たまったもんじゃありませんし」
俺としてもそこは残念だ。こうなれば都成に何しようが俺の自由だが、あいにく野郎の尻を掘る趣味は俺にはない。オモチャとしては大満足だが、どうせ何か貰えるなら、やはりかわいいショタ奴隷が欲しかったなぁ。あーあ、このアホショタサンタももう少し気を利かせてくれればいいものを。
……ん? アホショタ?
「どうかしましたか?」
都成の腹にカップを置きながら、サンタがクリクリとした目で尋ねてきた。
よく見たら、こいつ、モロ俺のタイプだ。顔立ちもそうだが、小生意気で底意地の悪いところも好みのショタの条件ピッタリで……。
これは、まさか……。
「おいサンタ、お前、今日はいつ帰るんだ?」
「それが変なんですよね。逃げたトナカイをさっきから呼び出してるんですけど、全然応答がないんですよ。まったく、だから中古は嫌なんですよね。戻ったら上司に言いつけて、焼き肉にして食ってやろうかな」
「ふぅん。本部との連絡もつかないのか?」
「そうなんですよ。無線が壊れちゃったのかな。まぁ朝になれば迎えも来るでしょう」
思わず口元が緩んだ。
「なぁ、プレゼントを選んで渡すのはお前の仕事だったが、俺の担当にお前を選んだのは協会なんだよな。しかも、協会は俺が少年好きだと知っていた」
「ええ、そうですよ? それが何か……」
言いかけて、サンタの笑顔が引きつった。
「や、やだなぁ、何考えてるんですか? 馬鹿じゃないですか?」
「おい、ちょっと後ろ向いてみろ」
「な、何ですか! トナカイが道具を持って来れば、あなたもこのオニーサンみたいに」
「道具がないと、それもできないわけか」
「え、えと。それは、ですね」
「いいから後ろを向け!」
「やっ、ちょ、何するんですかこのヘンタイ!」
卓を蹴り飛ばし、サンタの肩を掴んでくるりと回転させる。
赤いサンタ衣装の襟の下あたりに、白い刺繍が施されていた。
メリークリスマス! サンタ協会より
「メリークリスマース!」
「ぎゃあっ! な、なにするんですか! は、放しなさいこのニート!」
薄暗い部屋の隅で、全裸に電飾を施した都成が滑稽な光を放っていた。
靴下だけ履いた間抜けな姿で、尻の穴に左の人差し指を入れ、顔の上から伸ばした右手の人差し指と中指で鼻を引っ張り上げている。
そそりたったペニスにも電飾を巻きつけ、都成はクリスマスツリーと化していた。
そんな都成の周りで明滅する灯りに照らされて、俺はベッドの上にいた。
いや、ベッドと俺の間に、もう一人。
「あひいいいぃぃぃぃ!! らめぇ! ショタマンコにチンポじゅぶじゅぶ突っ込んじゃらめえぇぇ!! ほえぇえっ!?」
「うっせぇこの淫乱雌豚ショタが! てめぇもチンポおっ勃ててるじゃねぇか!」
「し、シコシコらめぇ! ケツマンコ犯しながらおチンポ扱かれたら、僕……んほおおおっ!!」
都成の倍はある立派なチンポを堅く握ると、サンタは白目を剥いて舌を突き出した。
「ほひぃぃ! 出ないぃ! チンポミルク止まっちゃうぅ!」
「おーおー、だらしねぇ顔だなおい。ベッドに鼻水垂らしてんじゃねぇよ汚ねぇな」
「おっほおおお゛ぉぉ~~!? ひぃぃ、だしゃしぇてっ、チンポミルクビューしたいのおおおっほぉぉぉぉぉっ~~!!」
「なら正直に認めやがれ! 男に掘られて喜ぶ変態ショタだってなぁ!」
「はひィィ~ッ! 認めましゅっ! 僕はケツマン掘られてアへアへ善がる、惨めで醜い雌豚でしゅぅ♪ ブタ以下都成さん以上の世界で2番目に無様な糞野郎でしゅうううっ~~ッ♪」
「はん、自分の立場がよくわかってんじゃねぇか! オラ! ブタならブタらしく鳴いてみろや!」
サンタの鼻に指をかけ、思い切り引っ張る。
「ブヒィィ! んごおぉぉ! ボクゥ、ブタ面でケツ掘られてるぅうっ~♪ んへっ、んほっ、いいにょぉおおっ~~! ブタでもいいからもっと犯してくだしゃいぃぃ! ブーブーブー! ブッ、ブヒッ、ブフウウウウウゥゥ~~ッ♪」
口を目いっぱいすぼませ、さっきの都成顔負けの凄まじいアへ顔を晒してブタ鳴きするサンタ。都成がやると汚いだけだが、好みのショタの晒す惨めなアへ顔は最高にそそる。
俺はペニスを突っ込んだまま両手でサンタの尻を持ち上げ、赤ん坊に小便をさせるように立ちあがった。
解放されたサンタのペニスが、ブルブルと最高速のメトロノームのように震え、先走りをまき散らしている。
「んっへえェェ~~ッ♪ チンポさいっこおおぉぉう! もうイッちゃいましゅ! はしたない糞チンポからイカ臭いミルク部屋中にまき散らしちゃいますぅぅぅ~~♪」
「ふん、このド変態サンタが。オラ、イケや! 両手でピース作ってまき散らせ!」
「んホォォッ~! ぴーしゅぴーしゅ♪ い、イグイグ、イッちゃいますぅ! み、見てくらひゃいい! 世界で2番目に醜く変態なブタ野郎がチンポミルクまき散らすの見てぇ!! お、おほっ、おほおっ、メリーホワイトクリスマァーーッス!!」
両手でピースを作り両足をはしたなくおっぴろげ、変態ショタサンタは汚いアへ顔のままザーメンをまき散らした。同時に俺もサンタの体内に精を放つ。
「ギョベェェェ~~ッ!? ケツの中にご主人しゃまの新鮮ミルクビュービューきちゃってるにょぉ~! サンタなのにプレゼントもらっちゃいましたぁぁっ~~♪ ンッホオオオオオッ~~!!」
しばらく痙攣すると、サンタは蕩けきった顔で力なく両手をだらんと垂らした。完全に放心状態だ。
「お、おほ、おほお……ぉ。 ら、らめ、でりゅ……。オシッコれちゃいましゅう……」
「なに、小便だ? どこまではしたないんだよお前は」
「ご、ごめんなひゃいい」
まぁそんなところも可愛いんだが。こんなこともあろうかと用意していたリモコンを取り、都成を呼び寄せる。そしてサンタのチンポの真下で大きく口を開けさせた。
「ホラ、もう出してもいいぞ。便器から外すなよ」
「ひゃ、ひゃいいぃ♪」
サンタのペニスから真っ黄色な液体がジョロジョロと湯気を上げて流れ出し、都成の口内へ吸い込まれていく。涎を垂らして気持ちよさそうに放尿するサンタの顔と、アへ顔に固定されたまま尿を飲み干していく人形状態の都成を見比べながら、「この人形、ゴミ箱としても使えそうだな」と、俺は何となく呟いた。
放尿を終えたサンタを下ろし、頭を撫でてやる。少しずつ冷静さを取り戻したサンタは、顔を赤らめて悪態をついてきた。
「こ、こんなイタイケな男の子をあんな乱暴に、し、信じられない変態です!」
「なにが男の子だ。お前、俺より年上なんじゃねえか?」
「さ、サンタが人間よりちょっと長生きなだけです。人間年齢に直すと、ちゃんと子供なんですから」
「はいはい、じゃあ歩いてでも帰るか?」
「ぷ、プレゼントは、だ、大事にして、ください」
「はは、そうか。で、トナカイがいなくても都成の件は大丈夫なのか?」
「一度改造が済んだモノについては、僕一人で充分です。あ、そうだ。僕がいないと、このオモチャで好き放題遊べなくなりますからね!」
「わかってるって。都成は捨ててもお前は捨てないから」
かがみ込んで抱いてやると、サンタの方から無理矢理キスしてきた。
……涙や鼻水で、ちょっと塩辛かった。
「ん、んほおおっ!! ご主人しゃまのおチンポ最高ぉ~ッ!!」
「や、やめっ、そんな動くなっ! 振動がこっちにもっオヒイイィィッ!?」
数日後。
俺はかわいいショタペットと万能なオモチャを手に入れ、充実したニートライフを満喫していた。
どうやらサンタにはホモっ気があったようで、後ろから俺に突かれながら、四つん這いにして放置した都成の尻を犯している。
「あ、あはっ! お兄さんのケツマン、また締まりましたね。こんな子供にチンコ突っ込まれて、頭おかしいんじゃないで……ンホオオッ~~!? らめっ、ご主人しゃま、はげしっ、アヘエエエッッ~♪」
「オヒイイィィッ!? このクソガキ! そんなに突かれたらっ……き、気持ち良すぎてトんじゃうだろうがっ! あっ、やめっ、ンホェエェエ~~ッ♪」
都成は早くも彼女によって開発されたようで、すっかり尻に目覚めてしまったらしい。記憶など改ざんしなくても勝手にアへってくれる。
いろいろ便利なので俺の部屋に呼ぶときは人形に改造しているが、むしろ動けないのを言い訳に、都成自身喜んでいるようにさえ見える。
「あはははは、何キモイ声出してんですかこのオスブタ」
調子に乗ったサンタが都成の尻を激しく叩く。
「ブヒイイイ~~ッ! んひっ♪ 昼間も掘られたばっかなのに、またショタチンポに犯されてるぅ! おほおぉぉっ!?」
「あはは! とんだブタ野郎ですね」
「お前もな」
パシーーッン
「ブヒイイッ~!? おほおぉっ! 調子こいてしゅみましぇんれしたぁ! 僕もド変態ブタ野郎でしたあぁぁ!! んヘエエ~~ッ♪」
激しく突きながら尻をぶっ叩いてやると、サンタは都成に負けないアへ顔を晒して下品に鳴いた。突き出した舌から伸びた涎が、都成の背中にダラダラ零れていく。
「だ、出すぞサンタっ。うっ」
「んほおおおぉぉぉ~~!!? ザー汁きてるぅ! チンポミルク出されながらチンポミルク出しちゃうのぉぉっほおっ~ッ!! チンポチンポォ~~ッ!!」
「あへえええっ~~ッ!!? ショタザーメンきたぁっ!! お、俺もイグゥ! ガキに孕まされて惨めに射精する変態なのぉ! んほおおおぉぉ~~~ッ!!!」
折り重なって倒れた2人は、揃いもそろって酷い顔をしていた。焦点の合わない目つきに、伸ばしきった鼻の下、裂けんばかりに開いた口、そこから飛び出した赤い舌。サンタの鼻には大きな鼻提灯までできている。
汁まみれで痙攣している2人を賢者タイムに見るとさすがにちょっと引くが、やはりこいつらは最高のプレゼントだったと言わざるを得ない。
圧縮して折り畳んだ都成で飛び散った体液を拭きながら、俺はサンタに言った。
「来年のクリスマスが楽しみだな」
「もう。浮気しようとする人には何もあげませんよ」
ふてくされるサンタの後ろに、カレンダーが見えた。今年ももう終わりか。
正月が来る前に、サンタにまともな服を買ってやらないとな。
終わり