薬研藤四郎鼻フック無様芸

西暦1582年。
後に本能寺の変と呼ばれる事件が起こる前夜、京の外れの廃屋で、男と少年が対峙していた。
男は中肉中背で黒いフード付きのレインコートを纏っている。明らかにこの時代の人間ではない。
少年の方は、黒髪に透き通るような白い肌、長袖に短パン、ハイソックス。美少年然とした外見だが、闘志と自信に満ち溢れ、眼光は鋭く、声は低い。人の容を取ってはいるが、その実、銘刀より生み出された付喪神「刀剣男士」の一振りであり、名を薬研藤四郎という。

彼は「時間遡行軍」と呼ばれる歴史修正主義者達からあるべき歴史を守るため、目下仲間たちとともにこの時代のこの場所に潜入中であったが、仲間と手分けして調査にあたっていたところ、この得体のしれない男と鉢合わせた。

「あんた、他の遡行軍のやつらとはだいぶ雰囲気が違うな。普通の人間にしか見えないぜ」

静けさの中にも威厳の籠った凛とした声。怯えなどは一切ない。が、相手もさるもので、顔色一つ変えず、淡々と応じる。

「それはお前もだろう。刀剣男士の薬研藤四郎」

予想外の返答に薬研の眉がぴくりと動く。微笑を浮かべて刀を構えた。

「へぇ。俺のことを知っているのか。あんたに恨みはないが、敵だっていうなら容赦はしないぜ?」
「お前ごとき短刀風情が、この俺に勝てると思っているのか」
「おいおい、舐めてもらっちゃ困るな。こう見えても戦場育ちでね。命が惜しかったらどきな」

弟が多いこともあって、薬研は生粋の兄貴肌だ。小さな体から気迫を放ちつつ、相手に逃げるチャンスを与える配慮も忘れない。だが、それが男の癇に障った。

「クソガキが。泣いて詫びても許さねえぞ」
「そうかよ。そんじゃあお互い、恨みっこなしだ。あんたも意外と腕が立ちそうだ。血が滾るなぁ」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと掛かってこい」
「おうよ。ぶっすりいかせてもらうぜ!」

男は未だに丸腰で微動だにしないが、言動から只者でないことは明白だ。薬研は軽い身のこなしで機敏に飛び掛かると、体を回転させながら短刀を一閃、一撃で仕留めるつもりで男の喉元へ刃を突き通す。
……はずだった。

 

「ぐべえぁ゛っ!!」

惨めな悲鳴をあげて倒れ伏したのは薬研の方であった。
斬りかかった薬研の一瞬の隙をついて、ただ一撃、恐ろしく早く重い拳を腹に打ち込まれた。それだけで薬研はもう立ち上がることもできず、脂汗をにじませて床を這いつくばる。そこへ男が蹴りを浴びせかけた。

「ぐぼおっ!? げへええ゛っ!」

とてもこの美少年から漏れたとは思えない汚い悲鳴が暗い室内に反響する。もはや勝負はあったというのに、男は五発十発と、薬研の頭や尻を容赦なく踏みつける。その衝撃たるや、板敷の床が鈍い音を立てて割れ、薬研の体が食い込むほどであった。

「ぐああ゛っ!ぎゃあああ゛~~っ!!」

起き上がる隙も力もない薬研はただ叫ぶしかない。男がようやく足をどけたとき、薬研は潰れた蛙のような恰好で床にくいこみ、間の抜けた人型を床に刻んでいた。
ぴくぴくと痙攣する哀れな少年に唾を吐きかけ、男がうんざりした調子で言う。

「雑魚が。たかが短刀が何調子に乗ってやがる。履いて捨てるほどドロップしてくる低レアがよ」

この男、かつてはいわゆる審神者(さにわ)――刀剣男士達の主として、いくつもの本丸を率いて遡行軍を散々に打ち破ってきた経歴がある。が、終わりのない戦いを続けるうちに心が荒み、刀剣男士達を使い捨ての消耗品としか見なくなった。果ては遡行軍の骨や鬼を殺戮するよりも、見目のよい刀剣男士たちを甚振り辱め破壊することにこそ生きがいを見出し、遡行軍の側について他の本丸の男士達を狩り歩いていたのだ。

そんなことつゆ知らない薬研は、底知れない恐怖に全身を震わせていた。無論、人の姿で顕現してから初めてのことだ。

(な、なんだこいつ? 強い。怖い。勝てねえよ……)

あまりの恐怖に身動きが取れず、いまだに手足を不格好に曲げて床に張り付いている。
そこへ男の声が降ってくる。

「おい。顔をあげろ」
「うぐっ」

痛みとともに顔が持ち上がる。男が薬研の髪を掴んで引っ張り上げたのだ。痛みに呻く薬研へ、「あれを見ろ」と男が命じる。嫌でも視界に飛び込んできたそれに、薬研は戦慄した。

真正面、空いた襖の奥の部屋に、二体の人型の鉄くずがあった。胸を刀で貫かれ、よろめいた瞬間をそのまま留め置いたような姿。いや、事実そうなのだろう。薬研はその二体の顔をよく知っていた。

「や、山姥……切……」

山姥切国広と山姥切長義。その二振りが、どういうわけか鉄の塊となって放置されている。
彼らは別の部隊だが、薬研たちを支援するため共にこの時代に潜入していた。二振りとも相当に腕が立ち機転も利く。そんな二振りをしてもこの男にはなすすべもなくいとも簡単に敗れ去ったことが、この哀れな姿に現れている。不愛想で無表情な国広も、高慢で自信家の長義も、今や苦悶に歪んだ顔のまま物言わぬ鉄屑と成り果てていた。
頼れる仲間の無残な最期を目の当たりにした薬研の目から、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。

「い、いやだ。し、死にたく……ない。こんな姿になりたくない。助けてくれ……」

短パンの間から黄色い尿が大量に流れ落ちてくる。すらりとした生足を小便まみれにして、鼻水まで垂らして命乞いをする。つい数分前までの凛々しさは微塵も残っていない。戦場育ちの勇者も、圧倒的な力の差と仲間たちの哀れな末路を見せつけられては形無しであった。

「命乞いとは情けない奴だ。そんなに死にたくないのか」
「し、死にたくない。自分でもこんなマネをしているのが信じられないが、本当に、怖いんだ。お願いだ。命だけは……」

とめどなく涙を流して懇願し、そして自発的に自分の小便で汚れた床に膝をつき、頭をつく。
見事な土下座であった。

「どうか、命だけは、助けてくれ!何でも、何でもするっ!」

男は呆れ顔だった。数多の刀剣男士を打ち砕いてきたこの男も、ここまで情けない命乞いを見せられるのは初めてだ。それはここ最近、このような低レベルの雑魚男士を相手にしてこなかったせいもあろう。それにしてもこの薬研藤四郎は情けない。徹底的に恥を晒させ、その身に相応しい惨めな最期を与えてやろう。男は冷たい声で命じた。

「豚の真似をしろ」
「へっ?」

予想外の命令に、薬研が素っ頓狂な声を上げる

「豚の真似だ。早くしろ」
「わ、わかった!」

男が強い口調で命じると、薬研は全身を震えさせて飛びあがった。そして、右手の人差し指を立てて、おずおずと自分の鼻の頭を押し上げる。

「ぶ、ぶひ。ぶひぶひ。ぶうぶうっ」

色白の美少年の鼻が豚のように広がる。だが、こんなものでは男は満足しない。

「なめてるのか。お前はもっと薄汚い豚だろうが」

「は、はいっ!」

困ったような顔をする薬研。意を決して、さらに力をこめて鼻の頭を潰す。限界まで鼻の穴を広げ、醜い豚面を作る。そして。

「ぶひっ!ぶごっ!ブゴゴオッ!!ンゴオッ!」

口をすぼめ、野太い鼻声で全力の豚真似を披露する。脚はガニ股に開き、腰を前後に振っている。失禁の跡がありありと残る短パンから尿の飛沫が飛び散った。

「ふん。醜い奴だ。だが面白いぞ。仮にも付喪神とあろう者が、そんな姿を晒してまで俺に許しを乞うというのは、悪くない」
「ぶひっ!ぶひっ!お、おう。何でもするよ。だ、だからもう……」

その時、外から足音が聞こえてきた。迷いも無駄もない足音が二人分。男にも薬研にも、それが薬研の仲間のへし切長谷部と巴形薙刀のものであるとすぐにわかった。
薬研の豚面に一瞬安堵が浮かび、すぐに消えた。助けが来たところで、三人がかりでもこの男に勝てるとはとても思えない。それを見透かして男がわざとらしく言う。

「よかったな。お仲間の御到着だ。反撃の好機ではないか?」

薬研の判断は早かった。

「じょ、冗談はよしてくれ。あんたに勝てるとは思えない。どうか、あいつら共々見逃してはくれねえか。ぶ、ぶひっ、ぶひいっ!」

即答して、豚鳴きで媚びを売る。切れ者ゆえの懸命な判断ではあるが、刀剣男士としては情けないことこの上ない。それを聞いた男が笑う。

「そんなに命が惜しけりゃ、お仲間の前で最低の生き恥を晒してもらおうか。そうだな……」

やるべきことを伝えられ、薬研の生白い顔からさらに血の気が引いた。

「そっ、そんな。あいつらの前でそんなこと……」
「できないのなら、お前もスクラップにするだけだ」

「や、やるっ!やります!やらせてください!」

全力で命乞いをして生還する。そう覚悟を決めた薬研に、やらないという選択肢はなかった。それがどんなに惨めで愚かで、自らの尊厳を損なうことだとしても。

 

「薬研、無事か」

しばしあって、予想通り長谷部と巴形が現れた。薬研の帰りが遅いため、彼が調査をしていたこの一帯を探しに来たのだ。そんな彼らを迎えた薬研は、思いもかけない姿をしていた。

「よ、よぉ。遅かったじゃないか。わ、悪いが、俺はこのとおり、もう降参しちまったよ。ぶひっ!ぶひいっ!」
「や、薬研……。お前……」

卑屈な笑みを浮かべる薬研。あろうことか短パンのチャックから肉棒が飛び出していた。顔には鼻フックが装着され、小ぶりだった鼻を限界まで引き延ばしている。フックから伸びた紐は薬研自身が両手で引っ張り、その手を頭の後ろで組んでいる。
そんな状態でがに股に足を開き、むき出しの性器を前後に振っている。まるで白旗を振るように、肉棒で降参の意を示していた。性器は汚水に濡れており、悪臭を放つ水滴を滴らせている。失禁したことが一目瞭然だ。
少年の姿をしているが、薬研は男気溢れる兄貴肌の勇者だった。そんな彼をよく知る二振りは、変わり果てた薬研の姿に絶句し、呆然と立ち尽くす。
薬研の後ろで椅子に座っている男が薬研をこんな姿にした張本人なのはわかるが、男の前に立ちふさがって痴態を晒す薬研が邪魔で、攻撃をしかけることもできない。

「わ、悪い、長谷部、巴形。俺らごときじゃ、この方には歯が立たねぇ。逆らったら、あいつらみたいにされちまうんだ」

言われて奥を見ると、山姥切二振りの変わり果てた姿があった。信じられないことに、鉄の塊となって立ち尽くしている。胸を貫く刀が痛々しい。
薬研は鼻フックで潰れた顔をさらに歪め、恐怖と羞恥に震えている。そこには小柄ながら頼もしい少年の姿はない。涙を流し鼻水をぶら下げた、情けない子豚がいるだけだ。男が命じる。

「前置きはもういい。早く始めろ」
「は、はいっ!や、薬研藤四郎!時間遡行軍に寝返った証として、芸を披露させてもらうぜ!」

唖然とする長谷部と巴形の前で、薬研はいびつな笑顔を浮かべてぶるんぶるんとイチモツを大きく振って宣言した。ここからが本番らしいが、これ以上、どんな恥を晒そうというのか。長谷部と巴形は侮蔑と憐憫を込めた目で薬研を冷たく見つめている。
さすがに恥ずかしいのか、薬研は耳も豚鼻も真っ赤に染めて震えている。それでも命乞いのため、誇りも絆もあっけなく捨てた。

「お、俺っちは、製薬が特技なんだ。み、見ててくれよっ」

出し抜けに明るい声を出して、部屋の隅に転がっていた物を座卓の上に置く。ごとりと鈍い音を立てて、鉄製の道具が鎮座した。
薬研。彼の名前の由来にもなった、生薬を磨り潰して粉末にする道具だ。
舟形の細長い臼の上に、鉄製の車輪がついている。車輪の中央には穴が開いていて、通常はそこに木の棒を通してハンドルにする。使用者は両手で棒を握って車輪を前後に動かし、臼に入れた薬を磨り潰す。だが今、車輪に棒は刺さっていない。穴がぽかんと開いている。

「さ、さぁさ、皆さん、お立合い!時間遡行軍に降参した哀れな刀剣男士、薬研藤四郎による、肉棒薬研回しだっ!」

左手は鼻フックを引っ張り上げたまま、右手を掲げて宣誓するや否や、その手で自分の性器を掴み、がに股で薬研へ歩み寄る。そして。

「はあっ!!」

威勢よく掛け声を上げて、薬研の小さな穴に小さな肉棒を通した。

「つっ……、柄まで通ったぞっ!!」

大きな声で宣言する。
生存本能がそうさせるのか、薬研のペニスは限界まで勃起していた。文字通り車輪が柄……金玉に密着するまでペニスを差し込み、車輪を動かすための棒……まさに肉棒ができあがる。

 

 

薬研藤四郎という刀の銘は、持ち主だった武将が切腹のため使ったがうまく切れず、怒って投げ捨てたところ傍にあった薬研を貫いた、という故事に由来する。主人の腹は切れないが鉄の薬研をも貫く力を秘めているという、薬研藤四郎の義理堅さと力強さを象徴する名だ。
そんな薬研藤四郎が今、命惜しさに薬研に肉棒を通して敵に媚びている。「薬研を貫く」というエピソードに、自ら泥を塗っていく。
長谷部と巴形は愕然とした表情で、薬研の痴態をただただ見つめていた。

「おい、お仲間は意味がわからないって顔してるぞ。さっさと続きをやれ」
「お、おうよっ!そ、そんじゃ、薬を挽いてくぜっ! ふんぬっ!!」

薬研は頭の上で両手を組み、鼻フックで広がった鼻孔から鼻水と鼻息を吹き出して、力いっぱい腰を左右に動かした。肉棒の力で車輪を動かそうというのだ。

「う、うぎぎ……っ!んごおぉーっ!!」

硬く勃起したチンコに全身の力を集める薬研。足を大きくがに股に開き、先ほど以上に真っ赤な豚面を一層醜く歪める。力んでいるせいで鼻フックを引っ張り上げる力も増し、自らの鼻を千切れんばかりに引き延ばすことになる。歯を食いしばり、ぽっかり空いた鼻の穴からフゴフゴと荒い息を吐く。澄ました美少年が一転、野性の豚より野性的で知能の低い豚と化している。

「ん、ん゛おおお゛ぉーーっ!! んごおお゛ぉーーっ!!!」

やがてゴロゴロと鈍い音を立てて、車輪がゆっくりと動き出した。臼の中の生薬が磨り潰されていく。

「薬研……。それ以上醜態を晒すな。いくらお前でも、刀剣男士としての誇りを汚すようなら、斬って捨てる」
「ひ、ひいぃっ!ま、待て!待ってくれ!違うんだ!こいつ……こ、この方の強さは、洒落にならねぇんだっ!あれが見えねぇのかよ!お、俺は、あんな風になりたくは……」

錆びて固まった哀れな山姥切たちに目線をやり、薬研は涙と鼻水を流す。

「うるせぇ!チンポに集中しろ!」
「は、はひぃっ!!ふんっ!ふんぬ゛ぬぬ~っ!!」

男が一喝するや、再び肉棒だけに意識を集中させて腰を振る。車輪はさっきよりも円滑に動き出した。

「お゛っ。お゛ごお゛ぉ~~っ゛!!」

顔を真っ赤にして男性器で石の車輪を転がす愚かな少年。あの薬研が命惜しさにここまでの痴態を晒すなど、誰も予想だにしていなかった。だが、事実今この時、長谷部と巴形の目の前で、豚のような顔をした薬研藤四郎が死に物狂いで生き恥を晒している。

「くっ、見ておれんっ」

あまりの姿に長谷部たちが目を背ける。

「この通り、薬研は堕ちた。お前たちもこうなりたくなければ大人しく引き下がるんだな。こいつをこんな風にした俺に勝てる自身があるなら別だが」

男がそう言うと、長谷部たちは大人しく引き返していった。彼らは薬研の力を認めていた。それだけに、その薬研をこんな惨めな姿に変えた相手に勝ち目などないと悟ったのだ。そして同時に、刀剣男士としての誇りを投げ捨て畜生に堕ちた薬研を見限ったということでもある。

「い、いかないでくれ長谷部っ!巴形っ!た、助けてくれよぉっ!」
「おい、命乞いする相手が違うだろうが」
「は、はいいっ!失礼しましたっ!ご、ご主人様!どうかこの、チンポで薬研車を回すしか能のない豚野郎めに、お慈悲をぉっ!ぶひっ!ぶひいぃーっ!!」

 

 

狂ったようにぶひぶひと鳴き、肉棒を振りたくる薬研。情けない命乞いの挙句、仲間の前で生き恥を晒し、仲間に見放された哀れな刀剣男士。それでもなお、一縷の望みにしがみついて豚の真似と下品な芸を披露している。男はそんな薬研の姿を見て冷たく笑うと、無慈悲に言った。

「もういい。そのまま鉄になれ」

一瞬ぽかんとした顔をした後、薬研が悲鳴を上げる。

「ひいぃーっ!!そんなっ!約束が違うだろっ!こうすれば、俺の命だけは助けてくれるって」
「おまえ馬鹿か。命惜しさに仲間を裏切ったばかりか、こんな情けない真似して自分の名を汚すような最低の豚野郎、生かしておいて何の価値があろうか」

男が薬研に手を翳す。その手が光ったかと思うと、薬研の全身が鈍く光りはじめ、そして。

「なっ、なんだよこれ!? か、体が!俺の体がっ!?」

薬研の体が急速に錆ついていく。手足、胸、腹と、徐々に全身が鈍色へ変わっていく。

「い、いやだ!いやだぁ~っ!死にたくないっ!助けてえっ!だずげ……っ」

薬研は泣き叫び、体をよじってもがく。しかし摩羅が薬研に深く刺さっているため逃れることができない。身を揺らす度肉棒が穴の中で擦れ、こんな状態で感度を高めていく。必死の抵抗は、結果的には奇特な自慰行為でしかなかった。

「あひゃっ……!だめだっ!イクッ!逝っちまうよぉっ!ぎゃあああ゛ぁーーっ!!」

 

 

薬研の肉棒から濃厚な精液が迸る。と、その精液が、肉棒から繋がったまま鉄へと変じ、床に落ちることなく硬化した。同時に、惨めな断末魔が途切れた。
薬研が薬研で射精した瞬間、喉と口が固まったのだ。腰も肉棒も鉄となり、ごとごと音を立てていた薬研がぴたりと止まる。自ら鼻フックで広げた鼻の穴も、恐怖と快楽であらぬ方を向いた目玉も、不格好な形を留めて静止して、哀れ薬研藤四郎は、髪の毛の先から靴の先まで錆びついた鉄くれと成り果てて、完全に動かなくなった。
手は頭の後ろで組み、足は大股で開き、肉棒で薬研を貫いた下品で間抜けなポーズ。顔は死の恐怖と射精の快楽、そして鼻フックで醜く歪み、鼻水や涎、涙まで鉄錆となって顔に張り付いている。肉体だけでなく、衣服や体液まで、全部ひっくるめて刀の具現だったようだ。そのため、肉棒から迸った精液も、本体と一体化し、薬研藤四郎の最期の姿として残されてしまった。古今東西これほど惨めな像は類をみないだろう。

 

 

「馬鹿な奴だ。だが、それなりに楽しめた。刀剣男士というものも、堕とせばここまで堕ちるのだな。ただ破壊するのにも飽きてきたところだ。他の刀も、このレベルを目標に堕としていくことにしよう」

男は薬研藤四郎だったモノを一瞥すると、あっさりとその時代を後にした。別の時代で、別の本丸の刀剣男士達を狩るために。

 

 

 

夜明けになって、長谷部達が他の男士たちを引き連れて戻ってきた。既に男の姿はなく、そこにあったのは物言わぬ山姥切二振りと、豚とも人ともつかない滑稽な鉄の塊だけだった。

「そ、そんなっ!薬研っ!」
「鯰尾!見てはダメだ!」

兄弟の変わり果てた姿を前に狼狽する鯰尾と一期一振。涙を誘うこの場面も、豚面で肉棒から精液を発射している薬研の間抜けな姿で台無しになる。仲間たちは憐れむように薬研から目を反らしつつ、火であぶったり、水をかけたりと思いつくまま手を尽くしてみたが元に戻す手管は見つからなかった。持ち帰ろうにもあまりに重く、せめてもの情けに破壊しようにも硬すぎた。結局、山姥切たち共々、薬研はその時代に取り残されることになった。

(いち兄!兄弟!長谷部!巴形!いかないでくれ!俺を置いてかないでくれよおぉっ!おほっ、おほおおおお゛ぉーーッ!?)

滑稽な姿を晒しながら、薬研は心の内で泣いていた。鉄と化しても死んだわけではない。もともと刀に宿る魂が変じた存在、肉体は鉄屑と化しても、心は健在である。とはいえ、射精時の絶頂と死の恐怖を味わい続けたまま身じろぎひとつできないのだから、これ以上残酷な仕打ちはない。命乞いの果てに掴んだものは、終わりのない恥辱と苦悶だった。

そして薬研藤四郎と山姥切国広、長義は、やがて朽ち果てるその時まで、永い永い時間を、その情けない最期を晒したまま、死に続け、生き続けるのであった。