スカラビアモブ寮生は激怒した。必ず、かの蒙昧無能の寮長と、副寮長を除かなければならぬと決意した。
オレのユニーク魔法は動物を操ること。まずはこの魔法を使って無能な寮長に自分の立場を分からせてやることにした。
副寮長が食事の支度をしているのをいいことに今日も自分だけ偉そうに象に乗り、寮生を巻き込んで砂漠を行進させようとする寮長。オレたちは象に魔法をかけて暴走させ、寮長を引きずり落としてやると、そのまま踏み潰してやるよう命令して――
普通であれば象に踏まれればひとたまりもないところだが、流石に殺すつもりはない。寮長の体に圧縮・軟体化の魔法をかけ、体が潰れても生きていられるようにしてやった。こういうことのためにオレたちは魔法を習っているのだ。
象の足で全身を踏まれ、間抜けな声を上げながら、全身が絨毯みたいに薄くペラペラになって地面に張り付いている寮長の無様な姿があまりにも滑稽で爆笑する寮生達。今まで象の上からオレたちを見下ろす立場だったのが、今では文字通り最底辺から見下される立場に逆転したわけだ。
これだけでも良いザマだがまだ終わらない。
オレはさらに形状変化の魔法を使ってペラペラになった寮長の体を横に引き伸ばし、織物のように四角く形成してやった。間抜け面が引き伸ばされて一層ブサイクな顔になった寮長を見てますます笑いが止まらない寮生達。これでも一応、こんな醜態を晒していることに対する羞恥心や怒りはあるようで、顔のあたりが赤く染まっていた。あと潰された時のショックで股間のあたりを濡らしていた。まったく恥晒しの寮長である。これには他の寮生たちも失笑を通り越して呆れていた。
さて、この悪趣味な布をどう使ってやろうか。
肌触りは本物の織物のようにさらさらとしていて正直悪くない。敷物として使えないことはないが、まあこいつに絨毯は勿体ない。せいぜい玄関マットとして、砂漠の行進で汚れた靴の汚れを落とす役がお似合いだ。見せしめにもなるしな。ボロ雑巾みたいに使い古される頃には少しは自分の行いを反省することだろう。
早速寮長をスカラビア寮の入り口に設置し、顔のあたりに乗って靴底の汚れを拭き取るようにグリグリと踏みつけてやると、「んごぇっ」「オ゛ッ」などと汚いうめき声をあげた。
うめく以外にはほとんど意思の疎通もできない状態とはいえ、しっかり意識と感覚は残っているようだ。
本来、魔法の才能に長けた魂の素質を持つ者が多く集まるスカラビアの寮生にとっては、このように高度な状態変化の魔法をかけたまま人間を生かしておくことなど造作も無いことなのだ。裏口入学すら噂されているような無能寮長とは違って。
寮長がスカラビア寮の玄関マットになってしばらく経ったある日、妙な違和感を覚えた。
玄関マットは寮生の足跡と砂埃にまみれて薄汚くなっていたが、踏まれる度にこころなしか喜んでいるようにみえるのだ。
物に魂が宿ることがあると言うが、魔法で物や動物に変えられた人間は精神までその物や動物の魂に侵食され、その姿に相応しい精神に最適化されていくと、変化魔法の授業で聞いたことがある。例えば道具であれば使ってもらえることに喜びを、食べ物なら食べてもらえることに喜びを感じるようになり、動物であればその本能に侵食されていく。心と体の定着率が上がるほど元の姿に戻すことが難しくなり、最悪の場合身も心も完全に物や動物に変わってしまうから気をつけなければならない、という話だった。一種の自己暗示のようなものだろうか。この玄関マットも元々精神に作用する魔法の影響を受けやすい体質のようだから、早くも精神が玄関マットに最適化され、踏まれることに喜びを感じはじめているというところか。喜ばれてはこいつへの仕置にならないのだが……。でもこうして最底辺から見下される喜びを覚えた以上、二度とオレたちを上から見下ろすような立場に立とうだなんて気持ちは起こらないだろう。それ以前に人間をやめてしまわなければいいのだが。
さて、この惨状を見た副寮長から咎められたことは言うまでもなかったが、副寮長とて寮長に恨みを持っていたことは例の事件の後ではもはや周知の事実である。
内心では寮長のこの状態を面白がっていることは間違いなく、適当に言いくるめておだててやると「まあ……アジーム家にさえバレなければいいが、肉体と精神の両方にしっかり強化魔法をかけて壊れないようにするんだぞ、元に戻すときは忘却魔法もな」と思った以上にあっさり理解を示してくれた。マジで嫌われてるんだなあいつ。
次は自分がこのような目に遭うかもしれないと言うのに良い気なものだ。
副寮長は寮生に躊躇いもなくユニーク魔法をかけて洗脳し、危険な目に遭わせておいて反省するそぶりも見せないとんでもない男で、無能のコネ寮長よりは間違いなく高い実力を持っているが、まあ洗脳対策さえすればどうとでもなるだろう。副寮長もプレスして今度は便所マットなどにしてやるのもいいが、あるいは……。
そういえばこの前、Mr.Sのミステリーショップで面白そうな魔法道具を買ったな。よし、今度はアレを使って……。
副寮長編は未定ですが下記のいずれかを票数優先で書くかもしれません
完全に無機物化してしまった差分