死亡遊戯 - 2/3

固めルート

「そだねー、競走とかってあんま柄じゃないし、根比べでいいよ」
「ちっ、なんだよ、つまんねー奴らだな。わかったよ、いいぜ、それで」

時間を稼ぐなら、こちらを選ぶべきだろう。王賁も、そう考えて根比べを選んだに違いない。

「よかろう、根比べだな」

敵将が愉快そうに口元を歪め背後に合図を送ると、呪術師と思われる男たちが数人、敵の囲みの中から現れた。そして三人の耳元に屈みこむと、何事か呪を唱え始める。

(まずい……)

気づいた時には、蒙恬は身体の奥にほのかな熱のようなものを感じていた。痛みはないが、身体が火照って心臓の鼓動が早くなる。

「俺達に、何をした」

王賁が、静かに敵将を睨み上げた。その様子から呪術の成功を確信した敵将は、さも嬉しそうに質問に答える。

「精を放つと石になるまじないをかけてやったのよ」
「馬鹿馬鹿しい。人間が石になどなるわけがないだろう」

王賁が吐き捨てるようにいうと、敵将は王賁の部下から、まだ少年と思しき若い兵を選び、三人の前に引き出してきた。縛られたまま引きずり出された兵は怯えきり、涙を浮かべて王賁を見つめている。

「お、王賁様、た、助けてください」
「おい、俺の部下に何をするつもりだ」

王賁がさすがに色を変えて食って掛かかるが、敵将は目もくれずに呪術師に命じた。

「やれ」
「お、王賁さ……」

芋虫のように這いつくばり、王賁にすがろうとした少年の身体が、みるみるうちに硬質化し、灰色に変わっていく。愕然とする三人の目の前で、少年はかすかな呻きを残して、動かなくなってしまった。あっという間に、人であったはずの少年兵は、物言わぬ石像と化したのだ。

「う、嘘でしょ」
「人が……石に!」

蒙恬も信も、驚きを隠さず、身体をじたばたと動かして、自分が石になっていないことを確かめる。
怯えきった目で石像となった少年と向かい合い、王賁はしばらく呆然としていた。が、すぐに目に怒りの火を灯し、敵将を睨み上げる。

「貴様、許さんぞ」
「ふん、ならば見事生き残り、仇をとってみよ。先程も言ったが、お前たちにかけたのは、精を出すと石になる、条件付きの呪だ。余興は簡単、これから貴様らの首を締めていく。簡単には死なん。じわじわ締めてやるからな。その間に射精したものから石になっていく。最後に残った一人だけ、呪を解いて解放してやろう」

敵将の言葉が終わらないうちに、信が豪快に吹き出し、縛られた手の代わりに足を叩いて笑い出した。

「首を締められて射精するってのか? バッカじゃねーの?」
「くだらない。品のない下衆どもめ」

王賁は怒りの篭った目で敵将を睨み続けている。だが、敵将は気味の悪い目つきで三人を見下ろしているだけだ。蒙恬は、敵将のその態度と、自分の身体の火照りが気になっていた。

「気をつけたほうがいいよ。あいつきっと、他にもなにか呪をかけさせたんじゃない?」

蒙恬が信たちに忠告すると、敵将が感心したように頷いた。

「ほう、さすが、噂通り勘がよいな。お前は確か総大将の孫だろう。情報を全て吐くなら、お前だけ見逃してやってもいいぞ」
「あははー、残念だけど、それはできないなー。そんなことしたら、秦に戻れないしね」
「ふん。どのみち戻れんがな。よし、説明は十分だろう。だが、これが邪魔だな」

敵将は大剣を抜くと、王賁の前に佇む石像めがけて勢い良く振り払い、それを粉々に粉砕した。

「貴様ァ!!!!」

少年の残骸の上に身を乗り出して叫ぶ王賁には目もくれず、敵将は冷淡に命じた。

「はじめよ。余興の開始だ」

「うっ」

合図とともに敵兵が杭の後ろの棒を回し、首の縄をゆっくりと締めていく。

「離しやがれ!!んがあああ!!」

隣では、信が縄に食いつき、噛み千切ろうとしているが、相当丈夫な素材で出来ているようで、効果がありそうには思えない。

じわじわと増す首の痛みと呼吸の苦しさに顔をしかめながら、蒙恬は違和感に気づいた。股間が熱いのだ。異変に気づいたのは蒙恬だけではなかったようだ。

「お、お前! 俺達に何しやがった!」

信が縄から口を離し、敵将に吠え掛かる。その股間は、着衣越しにもわかるほど、はっきりと盛り上がっている。
おおかた暗示でもかけられたのだろう。苦しみにすら、興奮するように。
蒙恬の顔が青ざめたのを見て、敵将が愉快そうに笑った。

「呼吸の苦しさに悶えながら、下半身は快楽で猛り狂う。せいぜい耐えぬいて見せよ」
「て、てめぇ!!」
「この下衆どもが!」

信と王賁が怒鳴りつけると、魏兵の輪に笑いが広がった。だが屈辱を感じている暇はない。じわじわと絞まる縄が気道を圧迫し、いよいよ空気を取り込めなくなってきた。

「がはっ、うぐぐ……」

蒙恬の口から嗚咽が漏れる。締まりゆく縄で杭に固定されながら、肩を揺すり、足をにじらせ逃れようとするが、首が絞まるごとにますます脱出が困難になっていく。蒙恬は無意識に口を限界まで開き、舌を伸ばして空気を求めていた。酸欠で頭が重く、視界が霞んでくる。知らず、白目を剥いているらしく、敵兵に指を差して笑われる。

「や、やだ、な、なんとかしないと……ぐげっ……」

伸びきった舌から涎が溢れ、ぼたぼたと衣服に染みを作っていく。だが、正面で蒼白な顔を並べる部下達の視線に気づくと、おずおずと舌をひっこめ、ひきつった笑みを浮かべた。

「だ、大丈夫だよ……。うっ、がはっ、さっさすがに苦しいけど、し、心配しないで」

意識が遠のいていくのと裏腹に、股間は熱を増し、硬さを増した中心が着物を押し上げていく。蒙恬は苦悶と同時に、場違いな興奮とも戦っていた。

蒙恬の隣では、信が同じように苦悶に満ちた顔で、獣のような呻きを喉の隙間から漏らしていた。血走った目をぎょろりと剥き、鼻の穴を大きく広げて空気を求めている。それでも殺気はますます満ちており、ときおり咆哮をあげながら激しく頭や足を振り乱す。
その奥では、王賁が金魚のように口をパクパクさせながら、懸命に空気を取り込もうとしていた。

「ぐええっ、がはっ」

泰然と目を閉じて座していたはずの王賁だったが、今や目を見開き、小刻みに体を震わせている。顔は真っ赤に腫れ上がり、汗や鼻水を光らせ、時折耐えかねたように片足を前方へ投げ出す。それによってバランスを崩し、首を吊られる格好になって、さらにもがく。敵兵がそんな様子に笑い転げると、王賁は苦悶に顔を歪めながらも、眦を吊り上げて睨みつけた。

「き、きさまらぁ……っ」

王賁の凄みをきかせたはずの言葉は掠れた呻きとなって虚しく消えていった。

敵兵や部下たちの目の前で必死に苦悶や快楽と戦っていた三人だったが、一定のリズムでじわじわと締められる首の縄によって、確実に生命力を奪われていった。真っ赤になっていた蒙恬の顔が、次第に青ざめ、目から光が消えていく。涙に涎に鼻水と、顔中から汁を垂らし、無意識に肩の震えが増す一方、自らの意志での抵抗はほとんどできなくなっている。

(も、もうだめ……じぬ、じんじゃう、たず、たすげでぇ……っ)

ジョロジョロと、蒙恬の下半身から異音が響き、股間の周りを黒く染めながら、黄色い液体が漏れ出てきた。立ち上る湯気と臭気に、敵兵から喝采があがる。
それが連鎖するかのように、信と王賁も失禁し、三人の足元に、隠しようもなく尿の池が広がっていく。その滑稽な姿に、魏兵は剣や盾を打ち鳴らして囃し立てる。

「おい、坊っちゃん、俺を殺すんじゃなかったのか。部下の仇を討つんだろ? 小便まで垂らして、情けないな」
「だ、だまれっ……。ぐ、ぐああっ」

青ざめた顔で敵を睨みつけようとする王賁だが、限界を超えつつある息苦しさにその目がぐるりと上を向き、泡を吹き出して痙攣する。その様子に、いよいよ爆笑が広がっていった。

「げえっ、うえっ、がっ、げひっ」

鼻ちょうちんを膨らませながら、蒙恬は生を繋ぎ止めようと必死で呼吸に励む。だが、死の淵をさまようその状態で、尿で染みのできた股間はますます硬さを増していた。それに伴い、得も言われぬ快感が、しびれた脳を刺激する。
すがるように隣の信に目をやるが、信も状況は同じらしい。

「あっ、がっ、げほっ、ぐほっ、ち、ちくしょ、こんなっ……ぐへあっ、んはあぁっ、ひいいっ!」

足をがくがくと震わせ、なんとか活路を見出そうとする信。苦しげな嗚咽の中に、淫らな喘ぎが混ざっている。苦悶に打ち震え、蒼白になった顔にもわずかに紅が差しており、濡れた股間が山型に膨らんでいる。呪術の影響で、こんな状況でも激しい快楽の波に襲われているのだ。
その時、信が突然短い悲鳴をあげた。
つい先程まで激しく震えていた信の足が、全く動いていない。そして、むき出しになっている彼の足が、下から徐々に灰色に変色していく。まるで、目の前で石に成り果てた、あの少年のように。その様子に、蒙恬は思わず息を飲んだ。

「し、信っ」
「ひっ、なっ、なんでっ! 俺はまだ、射精なんかしてねーぞ!!」
「ふん。射精はしてなくとも、精が漏れ始めておるのだろう。限界は近そうだな」
「そ、そんなっ! いやだ、こんなっ、ぐはっ、うがあっ」

いわゆる「先走り」というものだろう、精が漏れ始めたことにより、信の体はゆっくりと石へと変じていく。同時に、首の圧迫も限界に近づいている。青黒く変色した信の首元からは、縄ですれたのか血が流れていた。もうほとんど呼吸もできないだろう。

それは王賁も、そして蒙恬も同じだった。
窒息の苦しみと恐怖から逃れようと必死に体をよじっていた蒙恬だったが、下半身から押し寄せる快感にうち震え、ついに信同様、先走りの汁が亀頭から溢れ、小便で濡れた着衣に更なる染みをつくっていく。まずい、と思った頃には遅かった。
右足から感覚が消えていき、やがて動かすことができなくなる。着衣の下の足がどうなっているのかは、信を見れば明らかだった。

「いやだっ!! 嫌だあぁーっ!!」

締められる首から漏れる蒙恬の絶叫に、信や王賁も驚き顔を向ける。いろんな液体で汚れ、石に変わりつつある自分の姿を見つめられることで、蒙恬の股間はさらに熱を増していく。だが、それに伴い、彼の左足も、そして胸や顔の一部も、徐々に冷たい物へと変わっていく。

「ひいっ! いやだっ、いやだあっ!! 助けてぇ!! ぐええっ!」
「ぼっちゃまああ!」

死と石化への恐怖に押し潰された蒙恬には、もう余裕の笑みを浮かべることなどできない。部下たちからも悲痛な叫びが上がり、魏兵はいよいよ余興の終焉とばかりに囃し立てる。

王賁は射精したら石になることをはっきり自覚しているからか、必死で歯を食いしばり耐えている。それでも白目を剥き、快楽と苦悶に緩む顔は、ひどく滑稽だった。
鎧でわかりにくいが、彼の体もまた徐々に石に蝕まれているのだろう。やがて、後ろで高く束ねた王賁の長い髪が灰色に変わっていく。

蒙恬にも恥ずかしい表情を隠す余裕はない。快楽と苦悶に醜く歪んでしまった醜い顔を、無我夢中で左右に振り乱す。

(ああっ、ぐるじい、い、石になっちゃう、ぐるじい、でもっ、射精したい、石になるっ、なりたくないっ)

限界を悟った王賁が、勢い良く蒙恬と信の方に顔を向け、怒鳴りつけるように叫んだ。

「お、お、おまえらっ、さきに、さきに射精しろおっ! は、はやく石になれえっ」
「王賁! でめえっ、ひいっ、おっ、おまえごぞっ、はやぐっ、ぶちまけて石になりやがれえっ、がはっ!?」

王賁も、罵声で応じる信にも、もはや焦りや恐れを隠せないでいる。助かりたい一心で、醜い罵り合いを始めたのだ。蒙恬も、死ぬか、石になるか、どちらかしかないことを確信し、平静を失っていった。

「や、やだっ、助けて! ひっ、ぐええっ、おっ、俺やだよ、石になんか、石になんかなりたくないっ! ぐげえーっ!」

もう飽きたとばかりに、敵兵が一気に棒を回転させ、残りの縄を巻き取った。
三人は自由の効かない身体を必死によじり、白目を剥いてかすれた悲鳴をあげる。
その衝撃で、ついに信の股間がはじけた。そこだけ石になっていなかった股間の膨らみから、粘ついた液体が染みだしてくる。

「あっ…ああっ! がはっ、そ、そんな…! いやら、いやらっ、いやらあぁーっ!」

がくがくと射精の快感に震えていた股間が、顔が、みるみるうちに硬質化し、灰色に染まっていく。断末魔を残し、信の体は、完全に石へと成り果ててしまった。

「し、しん……」

薄れゆく意識の中で、蒙恬は変わり果てた信の姿に愕然とした。そこにあるのはもはや、うるさいほどに快活な勇気ある若者、信などではない。ぴくりとも動かず、生の息吹を微塵も感じさせない、ただの石人形である。
射精の瞬間に固まったせいか、その顔は快感にだらしなく歪み、卑猥な笑みを貼り付けていた。いやだという最期の言葉に似合わない、間の抜けた笑顔の石像に、信は成り果ててしまったのだ。

「はははは。醜い像ができたなあ。それにしても、ずいぶんと大人しくなったもんだ」
魏軍から拍手喝采が、信の部下達から絶叫があがる。

(ひいっ、ひっ、ひっ、いやだ、こんなっ)

窒息死の間際で、蒙恬は石化への恐怖に震え上がる。王賁も同じらしく、彼の股間から再びちょろちょろと音を立てて尿が溢れていき、湯気をあげる。

「あ、ああっ、だめだっ、ああっ、しょうべ、しょうべんでっ、ひいっ、とまれっ」

放尿の快感と窒息の苦悶にわずかに動かせる頬骨を震わせ、王賁の表情が歪んでいく。

「んはっ、あっ、あっ、んあああっ、とまって――」

王賁の絶叫が途絶えた。
それまで震えに伴いガチャガチャとなっていた鎧の音もピタリとやみ、王賁は身動きひとつとれなくなっていた。彼は放尿の快感で、射精してしまったのだ。
必死で射精を抑えようとして歯を食いしばり、快感に白目を剥いたその無様な表情のまま、王賁もまた、一体の冷たい石像に成り果て、己の尿の上に佇んでいた。全身が灰色に染まり、生気が完全に抜けている。

(お、王賁まで……。でも、これで俺は……)

仲間の最期を嘆きながらも、蒙恬の心に安堵が広がる。もう快感に狂うか、窒息で死ぬか、どちらに転んでもおかしくない狭間にいたのだ。涙に歪んだ目を上げ、すがるように見やる蒙恬に、敵将は冷たく言い放った。

「さあ、最後はお前だぞ」
「え?」
「自分だけ助かろうなど、武人として許しがたい奴だ。罰として、お前も仲良く石になれ」
「そ、そん……な……」

敵将の命を受けた呪術師が詠唱を始める。快感が股間に押し寄せ、四肢の感覚が消えていく。絶望とともに、蒙恬の股間が膨れ上がった。

「あ……ああーっ、ぎもぢ、ぎもぢいっ!?」
死を目の前にして、これまで経験したことのない強烈な快感がもたらされる。蒙恬の口元が大きく歪み、眉が垂れ下がった。

「ひいいぃ、もうだめっ、いしに、石になっちゃう、なっちゃうよおっ!? ま、まら、しゃせ、しゃせいしてないのにいい!」

精を吐き出す直前で、彼の肉棒は石棒へと変わり、顔をはじめ残っていた肉体全ても、無機質な石へと変わっていった。

(ああ゛っ、やだっ、石に、でもっ、ぎもぢいっ! あっ、出る、射精したい! 石になってもいいから、射精したいっ!!!)

蒙恬は、人生最後の射精の快楽を期待しながら、石へと変わってしまった。もはやそこにあるものは、戦場に佇む三体目の石像だった。
石塊と化した蒙恬は、いつもの余裕な笑みなどではなく、快感に歪んだだらしない表情を張り付かせている。もはや体温もなく、声も発せず、二度と自らの意志で動くことはない。
だが、意識だけは残っていた。

(ひいいーっ! イかせて! 射精させてえ! 人間に戻してえ!)

射精の直前で石に成り下がったため、その中途半端な快感が、いつまでも続いているのだ。だが、石の声など誰にも聞こえるはずもない。傍目にはただの石像である。

「そんな、ぼっちゃまあぁ!!」

こうして、三人は、物言わぬ三体の石像へと成り果てた。
冷徹で尊大、若くして威厳を備えていた王賁は、食いしばった歯の端から涎を垂らし、きりっとした眉の下で白目を剥くという、なんともアンバランスな表情で。
信は大口を開けて舌を突き出し、ハの字に歪んだ眉に上を向いた目玉と、もはや快楽に負けたことがありありとわかるほど間抜けな形相で。
そして蒙恬は、射精を待望し、懇願する、媚びたアヘ顔で。
それぞれ、物言わぬ石の塊と化していた。

隊長の変わり果てた姿に悲嘆にくれるしかない秦軍の兵士たちに、敵将が邪な笑みを浮かべて、慰めるように言った。

「こいつらを救う方法が、一つだけある。精液でも、小便でもいい。お前たち生きた人間の体液を千人分飲ませれば、助けてやれるかもしれんぞ? ああ、そこの桃色野郎……といっても、今はわからんな。一番左の間抜け面は、最後まで耐えぬいたからな、400人分まけてやろう」

敵将は高笑いを残すと、愕然とする秦兵たちの縄を解くように指示して、悠然と去っていった。
もちろん、秦兵達にもそのような言葉は信じられないが、目の前にいる隊長たちは、目も当てられない姿のまま、戦場に晒されているのだ。放っておける訳がなかった。
兵達は意を決して、己の隊長だった石像の前に列を作った。

(いやだ、こんな姿を見るんじゃねえ! で、でも、助けてくれ、早くううっ、おっ、おっ、まだいってる、おおおっ)

石像と化した信は、大口を開けて舌を垂らしたまま、石ころと化した眼の奥から部下達の列を見つめていた。射精中に石化したため、その快楽がひたすら続いており、未だに信を善がらせ、苦しめていた。

「ひどい姿になっちまって。今、助けてやるからな」

信たちは膝立ちで固まっているため、部下が前に立つと、ちょうど腰の位置が顔の前に来る。部下は己の一物を取り出すと、それを信の口の前に突き出し、そのまま放尿した。
信の口は、もはや石像にぽっかり空いた空洞でしかない。尿は何の抵抗もなく体内、いや石像の内部に入り、パシャパシャと硬質な音を響かせて溜まっていく。石像というより、これではもはや小便壷だった。

(ま、まじかよ、俺、小便飲まされてる!? い、いや、人間にもどるためなら、もっと、もっと飲ませてくれ! は、はやく、俺を人間に戻してくれえ!!)

口から外れた小便や精液が、容赦なく信の体を汚していく。小便が像の表面を流れ、その上に乗った白濁した濃い精液が、滑るように落とされていく。

一方、隣で歯を食いしばったまま石に変じた王賁の前では、彼の部下達が額を付きあわせていた。口が開いていないため、飲ませることができないのである。彼らは像を囲み、ぺたぺたと撫で回して方策を練っている。

(ひいいいっ、み、見るな! そんなにじっくり見ないでくれ!!)

単に情けない顔を見られているだけではない。信同様、射精中に固体化してしまい、未だに射精の快楽を味わっている王賁にとっては、射精している姿を至近距離で観察されているようなものだ。

「あ、ここに穴があるぞ!」

部下の一人が、呼びかけ、仲間を集める。彼の人差し指は、王賁の鼻の穴にズッポリと入っていた。これももはや、ただの穴である。
入るならなんでもいいと、部下が二人、それぞれ王賁の鼻の穴の穴をひとつずつ肉棒で塞ぎ、二人同時に尿を注ぎ込んだ。やはり、硬質な音を立てて、尿は体内へと溜まっていく。

(鼻の穴から尿を飲まされるなどっ! こんなことがっ)

一刻も早く主を助けようと、真面目な部下達は王賁の側面に回り、耳の穴からも精液を注ぎ込んだ。
こうしてそれぞれの石像の中には次々と尿や精液が注がれていったが、目標の千人分にはまだまだ及ばない。三体の石像はベトベトに汚れて鈍く光り、悪臭を放っている。
日が暮れて、それぞれの部下300人が放尿を終えた頃には、信や蒙恬の口にはなみなみと尿が満たされ、溢れんばかりになっていた。像の内部に部下達の体液がたっぷりと詰まっているのだ。

(たりないっ!! はやく、もっと俺に、小便をひっかけて! いきだい、いきだいよおっ!!)

未だに射精の瞬間を待ちわびている蒙恬は、石と化した体を光らせ、わずかに残った思考でそれだけを懇願していた。もはや人の体に戻ることよりも、射精することのほうが大事なのだ。
そんなことは知らず、全てを出しきり疲れきった兵士たちは像の前に倒れこみ、主の哀れな姿に涙を流す。だが、蒙恬の部下達には望みがあった。300人の部下がそれぞれ尿と精液を一回ずつ放てば、600人分になる。そして最後の一人が蒙恬に精液をふりかけたとき。

(やった、これで助かる、射精できるぅ!!)

蒙恬の像の股間から、じわりと生臭い液体が漏れ出てきた。独特の臭いを放つ白濁液、それは紛れも無く精液だった。同時に、蒙恬の像が表情も体勢も変えないまま、カタカタと小刻みに揺れ動く。近くにいた兵士たちが驚いて後ずさる。

(ああっ、射精してるよおっ!)

快楽に振り切れた表情に似つかわしい、とろけきった快感に打ち震える蒙恬。だが、いつまでもたっても石像の射精は終わらない。石から漏れだす水はほんの少量だが、蒙恬は永久に続く快感に打ち震え、数刻おきにかすかに揺れ動く。

(ひいっ! とまらない! 気がおかしくなる! もうイキたくない! だれか、だれか止めてえぇぇ! 人間に戻してえーっ!)

石像の目元に水滴が湧き出し、溢れ落ちた。冷たい石の表面を滑り落ち、ぽとりと地に落ち、泥を滲ませる。

(なんでっ……。人間に戻れるっていったのに……。こんなに小便と精液あびたのに……んあっ、ひいっ、止まらない、射精止まらないッ!)

一向に人間に戻る気配のない蒙恬を見て、敵将に妄言を吹きこまれたことに悟った秦兵達は、精液まみれになって悪臭をあげる三人の像を呆然と眺めていた。
烏の鳴き声と風の音以外は、ほとんど物音もしない。液体にまみれた三人の像は、夕日に照らされ、静かに鈍い光を放っていた。

翌朝。
隊長を残して呆然と帰還した三隊の部下達は、何も語ろうとしなかった。
三人が処刑されたと考えた秦軍は死体の回収を指示。秦軍本隊の士卒が丘の上に登ると、そこにあったのは、人の形をした三体の石像であった。それも、快楽に歪んだ間抜けな表情を張り付かせ、汚物にまみれて悪臭を漂わせる、ひどく醜い像である。
おまけに三体の足元には尿の海が広がり、二体の像の開いた口には、なみなみと小便がたまっている。

「なんだこの像」
「おええっ、ひどい臭いだ」
「ん? ひどい表情だが、この像、あいつらに似てないか」
「言われてみれば……。よくできてるが、ひどい顔だな」

快楽に歪んだ醜い顔をしているが、それらは確かに、消えた三人の三百人隊長に瓜二つである。だが姿形こそ似てはいても、そこにあるのは石でできた人形に過ぎない。言葉も発せず、おかしな方向を向いた瞳にも光はない。朝日に照らされ、表面にかけられた汚物が光っているだけだ。

「悪趣味な。誰がこんなものを」
「しかし、いいザマだ。あいつらには散々煮え湯を飲まされたからな」

秦兵の一人が、日頃の鬱憤を晴らさんとばかりに、信に似た石像を蹴りつけた。蹴られても、石像は文句のひとつも言わない。

「そうだ。ガキどもが、さんざん調子にのりやがって。誰が作ったが知らないが、こりゃいいや」

抵抗しないのをいいことに、秦兵達は思い思いに像を蹴りつけ、酷い者は剣で斬りつけたり、矢を射たりして笑っている。王賁の頭に矢が突き刺さり、ひびが入る。その石像の目から一筋の雫がこぼれたことに、兵士達は気づかなかった。

「しかしこの汚物は、あいつらの部下がかけたのか? 部下にまで嫌われてるとはなぁ」
「どうせこんな石、憂さ晴らしか便器にしかならないんだ。俺達も使ってやろうぜ」

石像への八つ当たりに飽きた兵士達は、三体の像に小便を引っ掛けると、興味を失ってその場を離れていった。

「しかし、本物のあいつらはどこにいったんだ?」
「敵に捕まって処刑されたんだろ」

兵士達の声と足音が聞こえなくなると、静寂が戻った丘には、ただ三体の像だけが残されていた。尿にまみれ、冷たい石の体から湯気を立ち上らせている。
かたっと、ほんのわずかに、蒙恬の像が動いた。

(みんな……。行かないで。もう、射精したくない……。だれか助けて……)

幸せそうにとろけた顔を張り付かせながら、像は人知れず泣いていた。
秦と魏の戦が続く中、三体は戦場の真ん中で、いつまでも佇み続けていた。