『帝国の落日・プロローグ』の続編です。
「どこだ………ここは」
目が覚めると、真っ白な空間だった。家具も何もない、全面白塗りの密室。ただ、天窓から差し込む光が壁や床に反射して、妙に眩しい。そして、そんな純白の空間の真ん中、天井に近い高い位置にポツンと、黒いフックが吊るされている。
ズキンと頭が痛んだ。押さえようとして初めて、自分が全裸で縛られていることに気づく。部屋には、誰の姿も見当たらない。
「オレは………確か………」
彼はぼんやりと、自分の足取りを思い出してみた。
一軍を率いて、レジスタンスの最前線である要塞に、丸腰で乗り込んだ。部下たちを門前に残し、敵の城将と一対一で会談。冷たい目をした、いけすかない男だった。そして突然、外が騒がしくなると、彼はわけのわからないまま城将に組み伏せられ……
「くっ、レジスタンスの奴ら!はめやがったな!!」
彼………帝国軍騎士団大隊長、ヴァルフラム・ギースは、爆発しそうな怒りを怒声として吐き出した。
「ちくしょう!!出てきやがれ!この卑怯者どもが!!」
「卑怯者はそっちでしょー」
不意に間延びした声が響き、ヴァルフラムは入り口付近を睨み付けた。そこには、ボサボサの髪に赤い鉢巻を巻いた、自分より4、5歳は下だろう、全身タイツを着た少年が立っていた。大きな黒目がパッチリと開いたほかは目立った特徴もない、それでいて漫画から抜け出てきたような独特の雰囲気がある。
「誰だテメぇ!さっきの大将を呼んで来い!お前じゃ話になんねぇ!」
「隊長はねー。キミみたいな小者に用はないんだってさー。本部のリーダーに報告に行っちゃったよー」
「小者だと……!?」
ヴァルフラムの顔がみるみる赤くなる。そしてほとんど牙といってもいいような八重歯を剥き出して、噛みつかんばかりに吠えたてた。
「貴様ァ!この俺は、名門ギース家12代当主、“金の狼”ヴァルフラム・ギースだぞ!貴様のような薄汚い愚民が、会話をすることも許されない身だ!撤回しろ!」
「あはははは、フルチンで何言ってるんだよー」
少年はクスクスと笑いだした。ヴァルフラムの真っ赤な顔に、さらに違った赤みが差す。自慢の鎧も下着さえ取り払われて拘束された今、威勢よく怒鳴りつけたところでペニスも金の陰毛も、尻の穴さえ丸出しなのだ。
「黙れ!丸腰の使者を急襲して監禁たぁな、これが貴様らのやり方か!」
「あれー?騙し討ちはそっちじゃないのー?キミの部下の一人が、門に火を放とうとしたんだよ。まー、その場で斬って捨てたけどねー」
「バカなっ!オレが中にいるのに、そんなこと」
「なんでもいーよ。とにかくそれが事実なんだから、これでめでたく交渉決れーつ。よかったね。お兄さんも、和平なんてまっぴらなんでしょー?」
かがみこんでニコニコと語りかけてくる少年に、ある人物の顔が重なった。ヴァルフラムは、そこでようやく事態を理解した。
「ちくしょおおおおおお!!!Rの野郎!!オレをハメやがったなぁあああ!!」
「あははははは。可哀想なおにーさん。味方に捨てられちゃったんだねー。でも、安心してね」
身じろぎしながら叫び続けるヴァルフラムの頭上に影が差す。見上げると、少年の黒い影が、その口元が、気味悪く歪んでいた。
「俺が遊んであげるよ。飽きて捨てるまで、だけど」
大陸から十数キロ離れた沖合に浮かぶ小島。そこがレジスタンスの本拠だった。島の洞窟内に作られた要塞の一室で、レジスタンスのリーダー・ギャレッドは、一人の男と面会していた。帝都のそばの要塞を任せている、コールという冷たい目の男だ。
「ふーん。なるほどな。じゃ、Rはわざとその騎士様を殺させて、報復名目で戦闘を続ける気だと、そういうことか」
「間違いないだろう。今の皇帝はいい子ぶったガキで、何が何でも和解を探ろうとしてたみたいだしな」
コールは、ギャレッドに目を合わせることもなく、黙々とコーヒーを飲み、淡々と語る。だが、その言葉の端々に、帝国への憎しみが如実に表れている。ギャレッドは、この男を気に入っていた。腕もたち、頭も切れるが、何より帝国への憎しみが強い。なんでも、5年前に滅ぼされた王国の出身で、身内を無残に殺されたらしい。
「で、どうする気だよ。Rの策に乗るのか?」
「俺は、そのつもりだ。ゼラスと皇帝、そしてRには、俺がこの手で復讐してやる。和解なんて、あってたまるか」
「それで、一応俺の許可をもらいに来たってとこか」
「リーダーはあんただ。俺に決定権はないからな」
ふーん、と、ギャレッドはアゴに手をあてて考えこんだ。ごろつき集団のレジスタンスを束ねるだけあって、腕っぷしの強い兄貴肌の男ではあるが、気品も備えている。彼は、帝国に滅ぼされた小国の一つの、王子だった。
「いいさ。今回はお前の好きにしろよ。でもな、あまり無茶はするなよ」
「なんのことだ?」
「復讐なんて、ろくなもんじゃないってことさ。圧政が解かれるなら、俺は和解って形もありだと思う」
コールが無言で立ち上がると、ギャレッドは独り言のように続けた。
「俺の親父は、文武両道を掲げる国の王で、剣豪王って呼ばれてた。だが、6年前、たった13歳のゼラスに負けて、無様に死んだ。国民の前で裸踊りを見せたら領土は安堵する、なんてRに騙されて、踊りながら殺されたよ。で、結局国は滅ぼされた」
「何が言いたいんだよ」
「結局、負けたやつが悪いってことさ。親父は、弱者で、愚か者だった。弱者が滅び、強者が残る。それだけのこと。帝国を憎むのは、ある意味では筋違いなのかもしれないってね」
「そんなことで、リーダーが務まるか」
吐き捨てるように言って、コールは部屋を出た。だが、ギャレッドの言いたいことは、言われなくてもわかっていた。
海を見ながら、コールは伸びをした。対岸に小さく要塞が見える。
「さて、帰ったころには、あの騎士様はどうなってることか。フン。サルどころじゃないかもな。キンスターの奴、容赦ねえし」
「あはははは、いー恰好だねー。騎士さまー」
「ぐっ……下ろしやがれ!このクソガキがぁ!!」
ヴァルフラムは、体中にロープを巻かれ、両手と両足をそれぞれひとまとめに括られた上で、天井のフックに吊り下げられていた。全身にロープをめぐらされているとはいえ空中でエビぞりのような体制になっており、それだけで手足がひどく傷む。おまけにロープが体中に食い込み、ひきしまった筋肉を締め付ける。そんな状態でも、ヴァルフラムは脂汗を流しながら、食いつかんばかりに少年を睨んでいた。
少年、キンスターは、少年ながらコールの副官を務めている。レジスタンスの多くが帝国への復讐や圧政からの解放を目指して参加していたが、キンスターだけは違った。彼は、ただ男を壊したい、それだけのために入隊した。普段はボーっとしていることが多く、やる気のなさそうな少年だが、拷問や調教にかけては右に出るものはいない。
「うーん。吊ったはいーけど、どーしよっかなー。なーんか、こんなので一人で遊んでもつまんないしー」
「テメェ!ぶっ殺す!!ぜってぇ、食い殺してやるっ!!!」
「こわいなー。貴族のくせに、野蛮なんだからー」
キンスターが手持無沙汰にヴァルフラムをつついて揺らしていると、背後からパタパタと足音が響いてきた。
「あーっ!!キン兄、新しいおもちゃ入ってんじゃん!呼んでくれりゃいいのに」
「おー。いいとこに来たねー。みんなで遊ぼうよ」
「えっ、いいの?やったねディーン君!」
ディーンとクトロ、帝国の侵略で孤児となり、レジスタンスで育った少年たちだった。まだ10歳前後でしかないが、キンスターの教育のせいか、既に帝国人を玩具としかみることができない。
「今日はどうやって壊そうかなー」
「もー、この前みたいに一瞬で壊しちゃだめだよ」
「このっ!クソガキがぁっ!!このオレを玩具みてぇに!タダじゃ済まさねぇぞ!!」
「ひっ」
気弱そうな少年にまで嘗められているのが我慢できなかったヴァルフラムが、部屋を揺るがすほどの大音声で叫ぶ。遊び道具に怒鳴られたクトロ少年は、涙目になって尻込んだ。これが、哀れな騎士の末路を決定づけた。
「こいつっ!よくもクトロを泣かせやがったな!許さねえ!」
「ふべしっ!!」
ディーンが無抵抗のヴァルフラムを、サンドバッグよろしく殴りつける。
「おー。おもしろそー。俺もやるー。……ハァッ!!」
「いでっ!ふぐぉおっ!?」
子供とはいえ、本気で殴れば当然痛い。おまけに武道の達人でもあるキンスターが悪乗りし、さらに殴られるたびに体が揺れてロープが食い込む。
「ひぃがあぁ!!やっ、やめろぉお~!」
「おいクトロ、お前もやれよ」
「うん。ダメなブタさんはしっかり躾てあげないとね。でも僕、殴るのは苦手だから…」
クトロは持ってきたおもちゃ箱から人形やボールを取り出してヴァルフラムに近づき…
「まずはブタさんらしくしてあげるよ」
ブスッ
「んごォッ!?」
哀れな騎士の鼻孔や口に、それらを次から次へと突っ込んだ。
「すごいすごい。どんどん入る。どんどん拡がる」
「おっ、いいな。俺もやるっ!ホーレ、ネギ食えよ」
ズボッ
「ふぎぃっ!?」
ディーンがヴァルフラムの空いていた右の鼻孔に、どこから持ってきたのか長ネギを突っ込むと、クトロとキンスターは腹を抱えて笑った。
「あはははははは。おもしろいねー。俺も。俺もやるよー。……ホラ、食えよ」
ボスッ
「あぎゃああっ!?」
面白がったキンスターはヴァルフラムの尻の穴にオモチャの刀を突っ込み、さらに尿道にもペンを突き刺した。
「ヒギイィィ~!?フゲエェェェッ!?」」
ヴァルフラムの鼻と頬は見るも無残に膨れ上がり、顔を真っ赤にして、白目を剥いて泣いている。顔中、いや体中の穴という穴に隙間なくモノを突っ込まれた彼は、世にも滑稽で無様なオブジェと成り果てていた。
ウエーブのかかった鮮やかな金髪からは「バカ」と書いた旗が飛び出す。右の鼻孔からは長ネギが垂れ下がり、左の穴からは人形が飛び出し、それらを伝って鼻水が垂れ流れ、床まで糸を引く。大きく膨らんだ口からは、涎まみれのボールがはみ出ている。
「きったねー。ベトベトじゃん。もう使えねーよあれ全部」
「まーまー。今日はこのオモチャで遊べるからいいじゃーん。よっと」
キンスターが手近にあったサッカーボールを蹴飛ばす。
「ゴフゥッ!!」
腹部に命中すると、衝撃でヴァルフラムの鼻から人形がスポーンと飛んで行った。
「アハハハハハハハハハハハハ!!!!」
面白くてたまらない3人。もはや正気の沙汰ではないヴァルフラム。鼻水にまみれて光る人形を指して、ディーンがバカにした調子で言う。
「きったねー。一生触れねーよコレ。他になんか突っ込むか」
「まーまー。全部の穴塞いだらすぐ死んじゃうでしょー。アソコは空けとこーよ」
キンスターがヴァルフラムの左の鼻孔を指して楽しそうに言う。
「さすがキン兄だね。よかったねブタさん、ちょっとだけ長生きできて」
どんな罵声もヴァルフラムには届かない。穴という穴を塞がれた今、ネギの入っていない左の鼻孔が唯一の通気口。彼はその穴を必死に膨らませ、フゴフゴフガフガ息を吸い込もうとする。当然うまくいくはずもなく、間抜けな騎士は真っ青になって白目を剥き、涎鼻水を垂れ流す。
「マジきったねー。おいクトロ、俺らもサッカーしようぜ。えいっ」
ガスッ「フゲェッ」
「うん、わかった。えーい」
ポーン「ギョガッ」
クトロの蹴ったサッカーボールは見事顔面に命中、くわかけのボールが勢いよく吐き出され、ヴァルフラムの涎を床一面に塗り広げながら転がっていく。なおも異物が詰め込まれたヴァルフラムの口は無様に膨らみ、唇も舌も突き出している。そして、数発目のシュートが腹に命中したとき
ブッ ブピィ~~ スッポーン
ヴァルフラムの尻から特大の屁が飛び出し、突き立っていた模造刀が垂直に吹っ飛んだ。
「うわぁーっ!汚ったねぇ!屁ぇこきやがったぞコイツ!」
(ああ……天下の名門、ギース家の当主が…!こんな顔で…オナラを…)
ヴァルフラムは、苦悶に顔を歪めながら、さらに羞恥に顔を引きつらせる。
「へーコキブター♪ヘーコキブター♪」
「くっさーい、鼻が曲がりそうだよ」
(うう……子供に馬鹿にされて、こんなアホ面で……)
「おーい、勃ってるよー」
「!!」
キンスターの言葉に、ヴァルフラムは愕然とした。そう、こんな状態で、哀れな大隊長はペニスを勃ち上がらせていたのだ。
(そんな……馬鹿なっ………)
「たつ……て、何が?」
「んー?あー、知らないか。こんなことされて勃起する変態なんていなかったものねー。ホラ、このおにーちゃんのおチンチン、見てみなよー」
「うわっ、なんだコレ、チンポでかくなってる」
「なんか汁が出てきてるよ。おしっこかな?」
ヴァルフラムのペニスをしげしげと観察する少年たち。その様子に、大隊長はさらに興奮した。
(こいつら……射精……知らねぇのか…… したい…… 射精、見せたい……)
以前から、同じ貴族に限ってではあるが、子供は好きだった。面倒見のいい世話好きなのだと思っていた。しかし違った。彼は、子供に苛められたいという願望をもった、異常性癖者だったのだ。
(違うっ!ああっ!父上!母上!オレは………オレはっ!!)
必死で理性を取り戻そうとするヴァルフラムだったが、そこへ……
ブスッ
「うぎゃああああ~~~!?」
尻に激痛。キンスターが、空いた肛門に浣腸液を注入しだしたのだ。
「ヒィィ!!ヒィィィ~!!」
右に左に大きく揺れる無様な騎士。涎鼻水が周囲に飛び散る。
「ぎゃあ!かかった!このボケっ!!」
ベシッ 「フゲェッ」
「よーし。注入完了ー。ペットボトルで蓋をしてー、と。ねー、騎士のおにーさん。この2人、まだウブでさー。性教育をしよーと思うんだよー。オナニーしたいなら、いつでもやっちゃってねー」
言いながら、キンスターがヴァルフラムの手の拘束を解き、ロープを脇の下に通し直す。
(ふっ……ふざけんな、誰がっ……)
「オナニー?って、なんだ?」
「わー、見たーい。見せてよブタさーん」
(か、かわいい………オレは、変態………ち、チンポが………熱く………)
ギース家の当主で、容姿端麗。剣技にも優れ、人望もある、前途洋洋な貴族の若頭。しかし………結局、そんなヴァルフラムは、変態に成り下がった。
宙吊りにされたまま、口に異物を詰め込んで舌をはみ出させ、鼻からネギを生やしたまま、彼は、ペンの刺さったペニスを自ら扱き出してしまったのだ。
「うわー。何やってんのコイツ」
「グチュグチュいってるよ。なんか気持ち悪い」
少年2人は、中腰になってヴァルフラムのオナニーを至近距離で観察している。
それを見て、ヴァルフラムの手つきがますます速くなる。
そして………
「ギャア゛オ゛オオオオォォォォ~~~ン゛ン゛!!!!!」
ケダモノ同然の雄たけびを上げ、気高い騎士は精液を噴き出した。ペニスに刺さっていたペンが吹き飛び、汚い汁がビュルビュルと大量に迸る。
「うわっ!何か出た!!」
「これがオナニーだよー。と言っても、こんな恰好でやるのはこの人くらいだけどねー」
「ウッホオオオォォォ~~!!!」
よほど溜まっていたのか、ヴァルフラムの射精は長い。そして、それが終わらないうちに……
ブッ ブブーーーッッ! ポーン
「ほげっ」
ヴァルフラムの尻から、屁とともにペットボトルが吹き飛び、天井に跳ね返ってヴァルフラム本人の頭に命中する。
「わっ、またオナラだよ。臭いなー」
「あはははは。始まったねー」
「オギャアアアアアア゛ッ!!ぐヘェェッ!!んボバベェェエェェェ~!!!」
無様な絶叫とともに、ヴァルフラムの尻からマグマのように糞汁が噴火し、便塊も激しく吹き上がっては降り注ぐ。
「うわああああー!!?」
「ぎゃー!?やべぇ!かかるっ!!」
部屋中に糞便の雨が降り注ぎ、少年二人はあわてて部屋の角へ走り、キンスターは悠々と傘を差して難を逃れたが、当のヴァルフラムは、鼻からネギをぶらさげたまま、白目を剥いて吊られていた。
「アヘ……アへへへへ……んへへへ……」
自らの糞便を身にまとって……。」
翌日。
自室のバルコニーの欄干につかまりながら、皇帝ハーヴェルは泣き崩れていた。
「ああああああ…… ごめんっ、ごめんよヴァルフラム…… ううっ…」
シェミルには、掛ける言葉も見つからなかった。風通しのよいバルコニーから下を見下ろすと、レジスタンスの要塞が嫌でも目に付く。距離はある。だが、障害物がなく、騒音もない。間にあるのは、静かで、穏やかな平原なのである。だからこそ、要塞の上の汚物が、嫌でも目に付いた。
「みなひゃまああああ!!聞いてくらひゃぃいいいいぃ!!!オレはぁ、バカでマヌケな、帝国のオチンポ貴族でひゅううう!!アヒっ、レジスタンスのみなひゃまに逆らったらぁ、こーんなバカに、なっひゃいまひたぁあぁぁ~!!!オレのオナニー!みてくだひゃいいいいいっ!!!!んほおおおおおおおっっおっおっイクウウウウ~~!!!」
遠目にもわかった。ソレは、確かにあのヴァルフラムであった。だが、右の鼻孔と尻からネギを生やし、ペニスをしごきながら飛び跳ねる姿に、颯爽としていた貴族の面影はない。
要塞の周りには、彼の部下をはじめ、貴族や国民たちが集まり、下から石を投げている。だが、その石が当たるたびに、ヴァルフラムは嬉しそうに叫んでは精をまき散らすのだ。
「R!貴様、どういうつもりだ!!」
「なんだよ、藪から棒に。僕は知らないよ。文句があるなら、レジスタンスの人たちに言ってよね」
ゼラスは、Rの執務室に押しかけ糾弾しようとしていたが、Rは面倒臭そうにそっぽを向いて、ケーキを頬ぼっている。
「とぼけるな!お前は知っていたんだな!あの要塞の主があの王国のナイトの弟で、副官が狂人じみた危険人物だということを!その上、裏で何か工作を」
「らしくないよ、将軍。そんなにいきり立たないでよ。それに、あそこの主はナイトの弟じゃない、サルの弟だよ」
何がおかしいのか、Rは無邪気に声を上げて笑い始めた。
「あーおかしっ。ま、こーいうわけで、和解は失敗しました。国民の中には、あのバカ貴族に失望して向こうに寝返るものも後を絶たない。大ピンチだよ!早いとこ手をうたなきゃ!敵のアジトをつぶさなきゃー……ってね。ハイ、これが僕の書いたシナリオです。続きもあるんだけどね。これで満足?」
ゼラスはケーキの乗った机を蹴飛ばすと、何も言わずに執務室を出て行った。
「ゼラスくんも面倒だよねー。ま、頭のいい人だから、次の作戦にはちゃんと指示に従ってくれるんだけどね。これも毎度のこと、か」
フォークに刺さったケーキを口に放ると、Rは窓辺に立って、見世物と成り果てた貴族の青年を、嘲笑うように見つめた。