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璃月北部、無妄の丘に、三体の異形の影が飛び回る。それらを追い、薄暗い丘を機敏に駆け抜ける少年の影。少年は大地を蹴り、高く跳び上がりざま槍を振るって二体を薙ぎ払い、残る一体に狙いを定めて空中から槍を振り下ろす。
「消えろ」
少年が着地すると同時に、異形の影は悲鳴のような音を立てて霧散した。汚れを払うように槍を振る少年の表情は、恐ろしい形相をした面で隠れていた。静かに面を外すと、色白の美しい肌が月光を受けて仄かに輝く。
眉目秀麗という言葉が相応しい少年だが、その実、二千年以上の時を生きてきた仙人である。
降魔大聖・魈。璃月を守護する仙人・夜叉であり、民の暮らしを守るため、日夜妖魔を払い続けている。
「……まだいるな」
振り返った先には、丸々とした影が蠢いていた。肥え太った人間の男がそのまま怪異と化したような異様な姿。影の濃淡のせいか、顔にあたる部分には目や口がついているようにも見える。その虚ろな目が魈を捉えると、口元が吊り上がるように影が動き、
「ギヒッ……。ウツク……シイ……」
風が木々を揺らす音に混じって、人間の声のような音が吐き出された。明らかに他の妖魔とは様子が異なる。魈はやや眉を顰めたが、動揺した様子はない。
「妖魔の分際で。汚らわしい。散れ」
突風の如く駆け槍を一閃、異形の影は瞬く間に霧散した。
呆気ない決着……ではあったが、形を失って広がった影……穢れの濃さが尋常ではない。
「……ッ!」
魔神の残滓である穢れは「業障」となって魈の体を侵す。長い時の中で汚れを払い続けてきた魈の体は業障に蝕まれ、常人であれば決して耐えられないような苦痛を背負い続けている。それでも魈はそれを夜叉の責務として受け入れ、泰然として妖魔退治の任に当たってきた。
しかし、今回の穢れは異質であった。濃く厚く、魈を取り込むように影が凝縮される。
「ぐ、ぐうう……ッ!おのれ……、このような、薄汚い穢れ、ごとき、に……ッ!」
槍の柄を地に突いて蹲る。魈の顔には玉の汗が浮かび、息は荒く、目は虚ろになっていく。そして虚ろな目に、夜叉には似つかわしくない妖しい光が灯る。
「お゛ッ、おおお゛ッ……!や、やめろ……ッ!我……は……」
槍が倒れ、魈は両手を地について激しくえずく。口元から涎が一筋伝い、地面へ伸びて土を黒く汚す。そして汚れはもう一箇所。彼の着衣の股間部分がもっこりと大きく膨らみ、その先端に黒ずんだ染みを作っていたのだ。
「ん、ぎ、ぎいぃ……ッ!馬鹿な……。我には、欲など……!お゛ほッ!?♡ んおお゛ォッ……!!♡♡」
顔を紅潮させ、舌を突き出す魈。長らく抑えていた性欲が膨れ上がり、暴発するような異様な感覚。喉が、身体が渇いている。溶けていく思考の中で、なんとか冷静に事態を把握しようと務める。
先刻の穢れ、ただの魔神の残滓ではない。何者かの強い思念ーーー怨念、無念、そして強い欲、これらに塗れた死者の霊魂が魔神の残滓と結びつき、強力な穢れとなって溜まっていたのだ。
股間の熱さが物語るこの邪念の正体は、異常なまでの性欲。そしてその欲望の矛先は……。
「お、おい。大丈夫か、兄ちゃん」
突然、魈の頭上から声が降ってきた。魈は懸命に理性を保ち、地面に爪を立ててゆっくりと顔を上げる。目の前に少年の顔があった。意志の強さを感じさせる眉を、心配そうに曲げている。あどけなさと凛々しさの共存する少年の姿に、魈は……激しく欲情してしまっていた。
「!!だ、駄目だっ!来るな……ッ!」
最後の理性を振り絞り、少年を突き飛ばす。勢いよく弾き飛ばされた少年は、ごろごろと地面を転がっていく。並みの少年であれば気を失うか、恐れをなして逃げ帰っていたところだろう。
「い、いってぇなあっ!」
だが、この少年は並みではなかった。璃月でも屈指の鏢師、要するに凄腕の用心棒だったのだ。嘉明(ガミン)というこの少年は腕が立ち体力気力もあり、そして悪いことに熱血漢だった。跳ねるように起き上がると、迷いもせずに魈の方へ駆け戻ってくる。
この行動が、彼と魈を惨めな破滅への道へと導くことになる。
「何するんだよ、いきなり!……って、具合悪そうじゃないか。すごい汗だぞ」
うずくまる魈の傍へ屈み、その顔を覗き込もうとする嘉明。だが、次の瞬間。
「……へっ?」
何が起こったのか飲み込めず、間の抜けた声を出す。少し遅れて、風が尻を撫でる感覚でようやく事態を悟った。パンツごとズボンがずり下ろされ、下半身が丸出しになっているのだ。
「うわっ、うわわぁっ!」
慌てて後ずさろうとして、ずり下がったズボンに足を取られてよろめき、背後にあった木に背中がぶつかる。身動きが取れなくなったその隙をついて、魈が嘉明の股間のイチモツを握りしめた。
「うひいっ!?」
「ザー……メン……種汁……うっ、ううっ……」
魈は抑揚のない声で呟き、嘉明のペニスに顔を寄せる。その目は虚ろで、全身から邪気が迸っている。
ピンク色の亀頭をまじまじと見つめる魈。その鼻息が当たって、嘉明はくすぐったそうに身をよじる。
「……ひっ!なっ、なにしてんだよ!見ればわかるだろ、男だぞ俺は!」
逃れようとするが、自分のズボンが足枷となっている上、魈と木に体を挟まれて身動きがとれない。何より、魈から発せられる禍々しい邪気に当てられ、全身に力が入らないのだ。
「さ、触るなよ、そんなとこ!汚いだろ!」
顔を真っ赤にして怒鳴る嘉明。口ではそう言いながらも、緩やかな手淫によって性器はやんわりと勃ち上がってしまっている。

「あ、あぁっ!やっ、やめろおっ!!ぉお゛っ!」
嘉明の体がびくりと跳ねる。股間に未知の感覚が走ったのだ。目を白黒させて情けない悲鳴を上げた後、視線を股間に戻すと、魈が端正な顔を崩して自分の性器にむしゃぶりついていた。
「ぢゅぞっ♡ じゅるるるるっ♡ ずぼぼおおォッ♡」
「ひいぃっ!?ちっ、ちんこ!食べるなぁっ!ほお゛ぉ……ッ!?」
活力溢れる若い嘉明は日ごろ忙しさの合間を縫って自慰に明け暮れていたが、それ以上の性経験はない。精悍な男に思い切りペニスを吸い上げられるという予想だにしなかった展開に脳が追い付かず、ただただ恐怖と快感に飲み込まれていく。
生暖かい唾液が亀頭を包み、手コキに合わせて先端を強くしゃぶられると、あっという間に嘉明の肉棒は魈の口の中でガチガチに固まってそそり立っていた。
「な、なにするんだよぉ……っ!ちんこを舐めるなんて、変態か、オマエ!放せよ……んひゃああ゛ッッ!!?♡」
「ぢゅるるるるうう~~っッ!!♡♡♡ れろぉおォ……ッ♡」

魈は嘉明の竿を扱き、先端を激しく吸い上げる。さらに蛸のように伸ばした唇の内側で、歯と舌を使って器用に舐め上げるのだから、童貞の嘉明はひとたまりもない。白眼を剥いて垂れた舌から涎の糸を伸ばし、甲高い喘ぎ声を上げて快感に身を委ねるしかなかった。金玉がパンパンに膨れ上がり、製造された子種が凄まじい勢いで吸引される。
絶頂はすぐに訪れた。
「あ゛ッ……!♡ へええ゛ぇ~~ッ!!♡♡」
ビュルルッ!ドピュッ!
嘉明の悲鳴が上がると同時に、大量の精液が魈の口中を満たす。溢れたザーメンが口の端や鼻の穴から吹き出すが、魈はペニスに吸い付いたまま一心不乱で吸引を続けた。ドロドロとした若い種汁を喉に流し込むと、「ジュゾゾゾオ~~ッ!!♡♡♡」と品のない音を立ててペニスを吸い上げ、最後の一滴まで若い精液を吸い上げていく。嘉明の涎が髪をベトベトに濡らすが、気にも留めない。
「しゅご……ぉ♡ きもち……いい……っ♡ あがっ……あひゃああ゛っ……♡♡♡」
嘉明は白眼を剥いて立ったまま気を失った。それでも魈は萎えた性器から口を放そうとしない。
「お゛ひっ……ほへええぇ……っ??♡♡♡」
やがてあまりの快楽に嘉明が失禁し始めた。尿には興味がないようで、魈は吐き出すように男根から口を放す。嘉明は「ほひィッ♡」と間抜けな断末魔を上げて地面に転がった。白眼を剥いて小便を垂れ流す嘉明を後目に、魈はゆっくりと立ち上がった。
「まだだ……まだ、足りぬ。ザーメン……飲まねば……」
口元を拭ってふらつく足で歩き始める。その目は情欲を湛えて怪しく光っていた。
魈が払った大きな影は、異常なまでの性欲を持て余したまま世を去った少年愛者の怨霊だった。それが魔神の残滓と融合して魈にとり憑いたため、孤高の仙人だった彼は、若い精を求め少年を襲う淫蕩な妖魔へと堕ちてしまったのだ。
「ぐ……ううっ……!」
頭を抑えて呻き声を上げる。体の疼きと渇きを抑えるため、本能のように精液を求めてしまう魈だが、その内面では必死に理性が瘴気を抑え込もうと足掻いていた。
「わ、我、は……ッ」
「なっ、何者だ!彼から離れろ!」
そこへまたしても思わぬ邪魔が入る。上ずったような大声を投げかけたのは、またしても嘉明と同年代の少年であった。
方士の少年・重雲は、妖魔退治を生業とする一族の生まれで、日夜妖魔を探しながら修行に励んでいる。この日も怪異の噂が絶えない無妄の丘を見回っていたところ、少年の叫び声のようなものが聞こえてきた。
声のした方へと走っていくと、薄暗がりの中に人影が二つ見える。一人がもう一人の足元に屈みこんでいて、立っている方が奇声を漏らしているようだった。
(誰だ?こんな時間に何をしているんだ?)
木々の間から様子を伺う。立っている方の少年にはなんとなく見覚えがあった。評判の鏢師で、獣舞隊を主宰している嘉明だ。こんなところで何を……と、目を凝らして観察しているうちに、雲の合間から月明りが差し込んでその影を照らした。
月光に照り返ったのは、嘉明の尻。なんと下半身は裸で、生尻が野外に晒されているのだ。おまけに顔は紅潮し、目を白黒させて金魚のように口を動かし、だらだらと涎まで垂らしている。
(な、なんだ、なんで尻を出し……)
次の瞬間、重雲は小さく「あっ」と叫んでのけぞった。
よくよく見ると、もう一人の男が嘉明の股間のモノを握り、先端を咥えこんでいるのだ。
横顔で表情はよくわからないが、端正な顔立ちの少年が不格好に唇を伸ばして、じゅるじゅると嘉明の男根を吸い上げている。
(うわっ、うわ、うわーーっ!!!)
重雲は顔を真っ赤にして腰を抜かした。幸い二人とも重雲には気づいていないようだが、予想外の光景に出くわしたショックで逃げ出すこともできない。
性知識の乏しい重雲には彼らが何をやっているのか理解はできなかったが、とりあえず「エッチなこと」だということだけはわかる。
まずいところに来てしまった。情事の邪魔をしてしまったかもしれない。などと思いつつ目が離せないでいると、やがて嘉明がひときわ卑猥な喘ぎ声を上げて、少年の口の中に精液をぶちまけた。

(あわわ……。すごいものを見てしまった)
ドキドキする心臓を抑えて立ち上がろうとした重雲であったが、二人の様子が明らかにおかしいことに気づいて留まった。
嘉明はもう射精しているというのに、少年の口は性器を放そうとしない。それどころか、じゅぞぞぞっ♡ と品のないを音を立てて、より激しく、まるで子種を最後の一滴まで吸い尽くさんとするように飲み干していく。
ついに嘉明は何事か奇声を上げて白眼を剥き、失禁までしてしまう。少年がようやくペニスを解放すると、嘉明は小便を撒き散らして地面へ倒れこんだ。「はひっ♡ はひぃ♡」と呻きながら、大の字に寝そべって地面に尿の湖を広げていく。
(こ、これはただ事ではないぞ)
明らかに戯れの性行為などではない。一方的な精気の搾取だ。そして何より、少年から漂う濃く禍々しい邪悪な気配が事の真相を物語っている。
(……妖魔の仕業か!)
思い至った重雲は、武器を構えて少年の前に飛び出していた。