マジキチクエストⅠ-1※

古来、大陸に伝わる伝説、十大淫魔。

人間の痴態を肴に、人間の体の一部や体液、排泄物などをエネルギーとする10柱の強大な悪魔。
人々は長きに渡り、彼らに虐げられ、それでも抗い続けていた。

大陸の中心、聖王国の宮廷は、魔王のアジトとなるダンジョンを見つけては選りすぐりの勇者達を送り込み、討伐をもくろんできた。成果はあった。魔王子飼いの中級悪魔などは、もう何体も討ち取っている。

しかし、十大悪魔だけは別格であった。

無謀にも彼らに戦いを挑んだ何人もの勇者は、圧倒的な力にひれ伏し、蹂躙され、そして、己の身の丈に相応しい、惨めで無様な最期を遂げてきたのであった。

 

 

「ここに、悪魔がいるんですね」
「はい、しかし、十大淫魔が3体も確認されているのです。たった3人では、あまりに無謀です。どうかおやめください」

「勇者」の称号を持つ若者、アレンは、ともに旅を続けてきた2人の仲間を連れ、大陸南部の大きな洞窟の前までやってきていた。ここで近頃、十大淫魔が3体も目撃されているというのだ。既に正規軍が派遣されキャンプを張っているが、相手は魔王である。うかつに踏み込むことはできず、当面通行止めにして民間人を近づけないよう計らうのみであった。彼らもこうして、軍によって足止めをくらっている。

とはいえ淫魔は冒険者、いや人類にとって最凶の敵、それが3体もとなると、とても見過ごしてはおけない。アレンの中の正義感が、彼を突き動かしていた。

「貴方たちが動かないなら、僕らが様子だけでも見てくる、と言っているんです。軍としても、このまま黙っているわけにはいかないんでしょう?」
「しかしですね……」
「つべこべ言わず、そこを通せよ。腰ぬけの軍人に代わって、俺らが退治してやろうってんだ」
「なんだと!」

自信たっぷりに進み出たのは、アレンの幼馴染で、大陸でも1、2を争う腕前の戦士、キルファである。背は高く、銀の鎧を身にまとい筋骨は逞しいが、顔は驚くほどに爽やかで、男らしさの中にも美しさを感じさせる、精悍で整った顔立ちをしている。キルファは愛用の剣を軍の警備隊長に突き付け、凄みを利かして怒鳴った。

「魔王がいる限り、このあたりの町の連中は安心して眠れねえって話だろ。それに、俺の剣技が魔王相手にどれほど通じるか、試してみたいしな」
「キルファ、落ち着けよ。この人に怒鳴っても、仕方ない」

勇者アレンは、親友と同じく熱い気質を持ちながら、理性と優しさも備えている。細身の体に軽装ではあるが、見る人が見れば立派な筋肉をつけているのは遠目にもわかる。栗色の清潔な髪の下には、大きな目が凛凛と強い意志を感じさせている。キルファを制すと、アレンは警備隊長の方に向き直り、はきはきと言った。

「僕は、国王から勇者の称号を賜っています。魔王を退治する権利も、義務もあるはずです」
「それは承知です。しかし、淫魔が3体ですよ。たった3人で勝てるわけがない」

「馬鹿だね、キミは」
今度はもう一人の仲間、賢者のリアンが進み出た。2人よりも若干歳下で、まだ少年と言える体つきをしている。だが、その若さで賢者の称号を得ているだけあって、その知識と魔術は大陸一とも言われている。おまけに、並みの女より美しい顔立ちをしており、後ろで束ねた長い銀髪も相まって、男女を問わず思わず息を呑んでしまうほどの崇高さを漂わせている。今や、大陸中の女の憧れの的と言っても過言ではない。ただし、性格はあまり良くはなかった。

「キミたち凡人と、天才である私を一緒にしてもらっては困る。この2人も、まあ、それなりに使えるしね」
「このクソガキ!こんな所に来てまでそんな口を」
「やめなよ2人とも。話がややこしくなるから。ええと、どうですか隊長さん。とりあえず僕らが先遣隊として潜入します。倒せればそれでよし、そうでなくても、内部の情報や相手の実力を探れれば、それに越したことはないでしょう」
「ううむ……」

アレンの説得が功を奏し、3人は洞窟潜入の許可を得た。

「ここで目撃情報があったのは、人間の糞尿を力にする通称スカトロ魔王、鼻水を栄養とするという鼻水魔王、そしてよくわからないけど、男性器を弄ぶという、男根魔王」
「聞けばきくほどふざけた連中だ。なぁにが鼻水魔王だ、アホらしい」
「不本意だけど、それには同感だね。幼稚すぎて寒気がする」
「でも魔王だ。なによりこんなところに3体も、ってのは明らかにおかしい」
「ま、罠だろうね。確実に。それでも勝つ自信はあるんでしょう?お二人とも」
「ち、生意気なガキだぜ」
「はは、頼りにしてるよ、リアン」

暗い道をしばらく進むと、だだっ広い空間が開けた。そしてその奥に見える、2つの人影。

「誰だ!」

アレンが叫ぶと同時に、3人ともが武器を構え、間合いを取る。

「誰だ、はないでしょう。我々を討伐しにきたんじゃないんですか?それにしても、たった3人とは、我々魔王も舐められたものですね」

答えた男は、遠目には人間にしか見えない。青色の髪に、やせた美青年の姿をしているが、顔の右半分を黒ずんだ痣が覆っている。

「フン、やってらんねぇな。攻め込んできた人間どもを一網打尽、じゃなかったのか?」
「僕の読みも外れることはありますよ」

青髪の魔王に語りかけたのは、褐色の肌に真っ赤な髪を持った背の高い男。こちらも人間にしか見えないが、口元に大きな牙が光っている。

「もうお出ましとはな!魔王ども!」

キルファが剣を握る手に力を込め、叫ぶ。

「ま、この王国一の大賢者、リアンの敵ではなさそうだね。特にあっちの黒い奴、見るからに低能だ」
「ほざいたな、クソガキが」

褐色の悪魔がものすごい形相でにらむが、リアンは平然としている。

「僕は光の勇者、アレンだ!世を騒がす魔王!覚悟しろ」
「やれやれ、あんな雑魚が3人だけでは、なんの意味もありませんね。早々に終わらせてしまいましょう」

青髪の悪魔が溜息を吐いた、その瞬間。

「消え去れ、魔王ども!」

叫ぶやいなや、キルファが飛び出し、猛然と魔王の方へ駈け出していた。

「待て、出過ぎだ!キルファ!」
「本当、身の程知らずな人間には、吐き気がしますよ」

青髪の男がパチンと指を鳴らすと同時に、辺りは閃光に包まれ…
気が付いた時には…

 

 

 

気が付いた時、キルファは一人きりだった。

「くっ、ここは?」

つい今しがたまでいた広間ではなく、より薄暗く、小さな部屋。心なしか、随分と冷えている。ふと両側に目をやると…

「な、なんだこりゃ?」

ずらりと、部屋の壁際に氷の彫像が並んでいる。目を凝らすと、それは全て、若い男の姿をしている。キルファはあまり頭の回転のいい方ではないが、それでもすぐに理解できた。これは、魔王に敗れた敗者たちの末路だと。
よく見ると、男たちは皆全裸で、ペニスをしごき上げたり、M字に開脚したり、はたまた、向かい合った2人の男が対面座位で結合したまま顔の間で互いの鼻から伸びた鼻水が絡み合って幾何学模様を描いている、そんな奇妙な姿で氷結している。

「悪趣味な…。てことは、この部屋の主は…」
「悪趣味なのは重々承知ですよ」

後ろから響いた声にキルファが身を翻し、剣を向けると、そこには先ほどの青髪の男が立っていた。

「お前が鼻水魔王か。だっせぇな、そんな名前、ちっとも怖くねぇぜ」
「僕も好きであなた方のような劣悪種の、よりにもよって鼻水など啜りたくもないのですがね、そういう風に造られたのだから仕方がない。それから一応、僕にはスニーズって名前もあります。これから死ぬ人にどう呼ばれるかなんて、どうでもいいことですが」
「死ぬのはてめぇだ鼻水野郎!」

キルファは黒い短髪の下、りりしい眉の間に深く皺をよせ、鋭い目で相手をにらんだ。まだ20になったばかりでありながら大陸でも名の知れた剣士である自分が、魔王相手にどこまでやれるか。一対一でそれが試せるのならば、それほど嬉しいことはない。

「いくぜ!」

次の瞬間には、魔王に飛びかかっていたのだが…

「なっ」

気が付いた時には、キルファの持っていた剣は真っ二つに折られ、のど元に氷の刃を突き付けられていた。

「散々大口たたいておいて、10秒ともたずに勝負がついてしまいましたね。恥ずかしい人だ」
「ふ、ふざけろ!まだこれからだ!」

憐れむようなスニーズの言葉に、キルファは顔を憤怒に赤く染め、突き出された刃を恐れることもなく足技を仕掛ける。渾身の蹴りは見事に魔王の脇腹に命中したが、魔王は涼しい顔のまま、全くダメージを受けた様子がない。

「うそ…だろ?この俺の蹴りが…通じてない…?」
「はあ、これだから身の程知らずは。あなたのようなゴミに用はないので、もう殺してしまってもいいのですが…。まあ、せっかくいらしたんだ。せいぜい見せしめにでもなってもらいましょうか」
「見せしめ…だと…?うぐっ」

キルファが怯んだ一瞬のすきに、彼の両手首、両足首が突如現れた氷の塊によって固定され、大の字に立ったまま動けなくされてしまう。魔王はくいと顎で部屋の中央に浮いている球体を示し、

「あれは、メモリアルオーブ…記憶の水晶とも言いますが。ここで起こる出来事を、映像として克明に記録することができるんです。これにあなたの情けない死にざまを映して、国の方々に送りつけてやろうと、まあそういうことです」

「はん、馬鹿にしやがって。誰がお前の思い通りになるか!戦士として、これ以上無様は晒せねぇ。殺すならとっとと殺しやがれ」

さすがに凄腕の戦士なだけはあって、キルファはもう、自分に勝ち目がないことは気が付いていた。だが、恐怖はない。勝負に負けて命を落とすことは、とうに覚悟の上である。あるのは戦士としての誇りと、それに、わずかばかりの心残り。

(すまないアレン。どうやら俺はここまでのようだ)

目をつむったまま、寂しそうにふっと笑みを浮かべて首を振ると、正面から魔王を睨み上げ、「とっとと殺れ」と吠え立てる。

(………気に食わないな)

魔王スニーズにとって、人間はエネルギー源でしかない。そんな下等生物が意思を持ち、誇りをもって自分に対抗しようとしているのが癪に触って仕方ない。もともと冷たい目つきをいよいよ寒々と光らせ、

「まあせいぜい立派な最期を遂げて下さいよ。若き戦士様。」

つかつかとキルファに歩みよると、彼の鼻先に人差し指を突き出す。いくばくもなく、その指先がぽうっと、明るく輝きだした。

「んだよ気持ちワリィ!汚い手で俺に触るな!」

キルファがそう吐き捨てながら、眼前にあった魔王の顔に唾を吐きかける。でこをびちゃりと汚されたスニーズは眉に険しい皺をよせ、しかし何も言わずに、光った指をキルファの右の鼻孔に突っ込んだ。

「んごっ!?」

予想もしていなかった敵の行動に、気高い戦士も情けない声をあげてしまう。魔王は無表情のままキルファの鼻孔をまさぐると、何事か呪文を唱える。指がますます激しく光り、指の入っていないキルファの左側の鼻孔から、ライトのように光があふれてくる程だった。それが終わるとすぐに、魔王はゆっくりと指を引き抜く。

「てめぇ…何しやがった」

ドスをきかせたキルファの声に、震えが混ざっている。スニーズはそれには答えず、

「…やれやれ、汚い鼻くそがこびりついてしまいましたよ。鼻くそは弟の領分なので僕は全く興味がないのですが」

そういって、指についた黄緑色の物体を、その持ち主に見せつける。キルファは怒りと羞恥に顔を赤くして、

「いい加減にしろ!さっきから何きめぇこと…っ…はっ…フアァックシュンっ!!」

声を荒げて怒鳴りつけていたが、突然、豪快にくしゃみをかまして台無しにしてしまう。

「ちくしょ、なんだ?鼻がムズムズ…ブアアックショォアンっ!!」

二度目のくしゃみとともに、キルファの鼻から、大量の鼻水が吹き出し、べとりと口元に張り付いた。

「うわぁ。あなた、酷い顔ですよ…?そんな、鼻の下をテカテカ光らせて」
「ズズ、ズビ、ち、ちくしょ、テメェの仕業か鼻水野郎!ぶ、ぶえっくし!」

ビローンと、長い鼻水が勢いよく飛んでいく。

「どっちが鼻水野郎ですか。そんな顔をしておいて。しかしまあ、不本意ですがコレが僕の主食ですからね。味見させてもらいますよ」
「んんーっ!?」

魔王はキルファの前で顔を傾けると、彼の鼻にしゃぶりつき、鼻水の溜まった穴の中を舌でかき回す。

「おべええぇあぁあ~っ!?おげ、おべええっ!?」

鼻孔内を舌で侵されるという未知の感覚に、キルファは白目を剥き、舌を突き出して悶え狂う。スニーズは一通り右の穴を嘗め回すと、今度はむしゃぶりつくように鼻を唇で覆い、勢いよく鼻水をすすり上げていく。

「んご、んごぉおおっ!!すう、鼻水吸うにゃあっ!!?」

ジュビジュビと品のない音を立てながら、魔王はゆっくりと口を離していく。すると、キルファの鼻からぐんぐんと鼻水のアーチが伸びていき、5メートルも伸ばしてから、魔王は一気にそれを啜り上げた。

「ほぎゃああああっ~~~~~~!!!」

ずるずると勢いよく、キルファの鼻水の橋は魔王の口へと吸いこまれていった。魔王がそれを咀嚼している間、キルファは大の字に立ったままがっくりと顔を垂らし、目や口をパクパクさせていた。その鼻から新しい鼻水が垂れ流れ、鎧をペかぺかと光らせていく。

「…まぁ、予想はしてましたが、無駄にしょっぱい上に口の中にごわごわまとわりつく、低質なエナジーですね。これだから馬鹿は嫌なんです。僕の好みはもっと知的な方の鼻水なのですが」
「ズズズ…ズピー…き、気が済んだかよ。変態」

息も絶え絶えながら顔を上げ、渾身の力で魔王を睨むキルファ。必死に啜り上げるその鼻からは、鼻水が出たり入ったりと、間抜けな上下運動を繰り返している。

「まだ憎まれ口を叩けるんですか。忌々しい。そうそう、先ほどの光ですがね、僕が止めるまでひたすら鼻水が出るようにしたんですよ。我ながらチンケな力ですがね。死にたくなければ、僕の命令に」
「ずず…うっせーよ変態魔王。ジュルジュル…お、俺は、こんな辱めにはまけねぇぶあっくしょん!…ぜ…ズピーッ」
「ちっ」

あくまで強気な態度を崩さない若き戦士に、魔王は彼らしくもない舌打ちをする。そして、わかりました、と一人で得心すると、

「なら、条件を変えましょう。僕の命令に従わなければ、貴方の仲間を同じように殺します。従ってくれれば、あの2人は見逃しましょう」

こんな言葉が信用できるはずはない。それくらいはキルファにもわかった。だが…

(アレン、お前だけは、こんな目に遭わせるわけにいかない…お前だけは…)

彼の脳裏に、親友の優しい笑顔がこびりつく。長い年月を共にし、生死を共有した勇者に、友情以上の感情が芽生えてしまっていた。そこを、つけこまれた。
結局、わらにもすがる思いで、彼は魔王の要求を呑むことにした。

「ほら、もっと全体に、裏側にも塗らないと駄目ですよ」

ぬちゃぬちゃと、気持ちの悪い音が部屋中にこだまする。
キルファは魔王によって下半身の着衣を溶かされ、素肌を丸出しにしていた。そうして露わになった立派な巨根に、自らの鼻水をローションのように塗りたくっているのである。

「はあっ、はあっ、ズズッ、ちぐじょう…こんなっ」

いくら悪態をついても、端から見ればただの、いや、真正の変態である。≪ローション≫が足りなくなると、鼻をかんで自らの掌にソレを補給し、またしても塗りたくる。ペニスがドロドロになると、キルファはそれを両手で握り込み、シコシコとオナニーを始める。粘つきすぎて手が滑り、ペニスをとりおとすたび、巨根がブルンと反り返って彼の腹を打ち付ける。グチョグチョ、ぺチぺチと卑猥な音が響く中、魔王は冷めた目でそれを眺めていた。

「ひぃっ、ひいいっ、もう、何が何だか分からねえよおっ!!おひいっ、ひいいっ!」

鼻から伸びる鼻水は、ペニスまで一直線につながっている。おまけに手や腰の辺りも鼻水にまみており、独特の臭いを放っている。倒錯的なオナニーを続けるうちに、とうとうキルファは、気がふれてしまったようだった。鼻水まみれの顔に、武骨な笑みすら浮かんでしまっている。

「もはや完全に汚物ですね。汚らわしい。そろそろ処分しますか」

魔王は、無様な自慰行為にふける戦士へ静かに近づくと、氷の板を作り出して、その顔の前にかざした。

「御覧なさい。今の貴方の姿を」

キルファが変態オナニーを続けたまま、言われるがままに顔を上げると、そこには、世にも醜い動物が映っていた。鍛え上げた逞しい脚部を鼻水で光らせ、陰毛は乾いた鼻水で真っ白に固まり、テカテカ光る顔から野太い鼻水が糸を引いている。それが続く先で、ゴシゴシとしごかれているペニス…。

「あは、へ、変態ら、俺、変態らああっ」

嬉しそうな声を上げ、白目を剥いて一層激しく巨根を擦り上げるキルファ。

「あらら、もう駄目ですね。意外とあっさり壊れちゃいましたか。じゃあ、鼻水戦士くん、その糸で、あや取りしてもらいましょうか」

「ズビッ、あ、あへへっ、まかしぇろ、ブピ、俺こう見えて、手先は器用なんだぜ」

プライドどころか理性まで失ってしまったキルファは、ひくつく巨根から両手を離すと、絡み付いた鼻水を巧みに引き伸ばし、半ば無理矢理ながら様々な形を作っていく。

「ほ、ほら、ハシゴ―!!」

ぬちゃあっと引き伸ばされた鼻水に、鼻水魔王すら吐き気を催す。

「どうにもサマになりませんね。ああ、もう面倒だ。最期のお願いです。あなたの思いつく、最低に無様なポーズをお願いします」

「お、おっけー。この俺に任せとけよ、アレン!」

何か幻覚を見ているのだろうか。間に糸を張ったVサインで返事をすると、キルファは両手を両の鼻孔によせ、それぞれ親指と人差し指で鼻水をつまみ上げた。そしてそれを大の字に引き伸ばしながら、大きく弧を描いて頭の上へ持ち上げ、頭のてっぺんに両手を突き立てる。その瞬間、なぜか触ってもないペニスがブルンと震え、精液が翻った。そして…

「んほぉおっ!チンポぎもぢぃ!はっ、鼻水ビローンっ!!!」

それが、無敗の戦士、キルファの、最後の言葉になった。

 

 

 

 

「キルファのやつ、いったいどこ行っちゃんたんだろう」

暗い洞窟を、アレンはリアンと2人、松明をともして進んでいた。広間でのまばゆい閃光のあと、気が付くと魔王2人と、そしてキルファの姿が見えなくなっていたのだ。

「相手は魔王だからね。下手するともう、やられちゃってるかも」
「リアン、滅多なことは言うもんじゃない」

頭の後ろで手を組み、呆れたように言い放つリアンを、アレンは静かにたしなめる。

(ふん、私がいなけりゃ、これまで出会った使い魔レベルにもやられてただろうに)

最年少ながら、その天才的な魔術で最も多くの敵を葬ってきたリアンは、アレンの言葉に頬を膨らませる。

「あれ、なんだろあの部屋。行ってみよう、リアン」
「あ、うかつに開けると危険だってば」

やがて光のもれた一角を見つけ、2人はそこへ足を踏み入れる。そしてその瞬間、目に飛び込んできたものは…

「う、うわっ、ああっ…!?」
「こ、これは…」

世にも醜い、氷の彫像。

人の形をしているが、大きく足をガニマタに開き、両手を頭に突き立て、頭の両側に大きな鼻水のアーチを作っている。上半身は鎧をまとっているが、股間には雄々しいペニスがそそり立ち、精液を吹き出している。

そんな状態で氷結させられ、情けない笑みを浮かべる見事なアへ顔。その顔を、2人は知っていた。

「きっ、キルファアアアアアアアアアアアアッッ!!」

あまりのショックに、アレンは絶叫するなり腰を折り、その場に座り込んでしまう。

「ああ、遅かったですね。この通り、彼は間抜けな本性を晒して人間をやめてしまいました。しかし、我ながら本当に趣味が悪いコレクションだ。そもそも悪いのは、モデルがあまりに無様だからですよ。特にコレは、目に毒だ。こんなもの飾ってはおけません」

キルファの氷像の隣に佇んでいた鼻水魔王は、静かにそう言い放つと、

「僕の前から消え去りなさい」

そういって、氷像の上に手を置いたかと思うと、キルファは、いや、キルファの形をした間抜けな像はぐにゃりと輪郭を失い、あっという間に溶けてなくなってしまった。

「ああ、き、キルファ、キルファっ!」

親友のあまりな最期に、アレンは涙さえ流せず、ただ頭を振ってわめき続ける。リアンはというと、初めて直面した仲間の死に、すっかり顔色を失っている。
隙だらけな2人に、しかし、スニーズは攻撃を加えようとはしない。

「彼との約束ですからね。あなたたちまで殺しはしませんよ」

そういって魔王は指をパチンと鳴らす。再び閃光があたりを包み込み、後には魔王だけが残されていた。

「僕は、ね」

冷たく笑うと魔王は使い魔を召喚して言いつける。

「そこの汚い水溜り、きれいに掃除しといてくださいね。もうあんなモノは、思い出したくもありません」