わがままな王子様※

むかしむかし、とある国に、わがままな王子様がいました。
欲しいものは何でも与えられて育ったために、どんな願いでも望めば叶うと思っていたのです。
実際その通りでした。成長するに従って横暴になる王子様に、国民や大臣はもちろん、父親の国王様ですら頭が上がらなくなっていったのです。さらに困ったことに、王子様にはまったく悪意がありません。周りから見て悪逆極まるような行為でも、王子様はごく当たり前のことだと思っているのです。そういう風に、彼は育ってしまいました。

「ねぇ父上。僕、あそこに行ってみたい」

ある日、王様の諸国巡察の旅に同行していた王子様は、馬車から半身を乗り出して、遠くにそびえる大木を指しました。辺境の村に神話の時代から伝わる、御神木でした。さすがに王様は苦い顔をしました。

「行って、どうするんだい?」
「燃やすんだ。盛大に。綺麗だろうと思って」

王様は溜息をつきました。言い出したら聞かない王子様のことです。機嫌を損ねたら、憂さ晴らしに戦争でも始めるかもしれません。それに充分なだけの軍隊と兵器は、何年か前の誕生日プレゼントで与えてしまったのです。村一つの犠牲で済むのならと、王様は神木のある村へ馬車を進ませました

案の定、村人の妨害に遭いました。辺境の村なので、王子様の恐ろしさを理解していないのです。

「王子だかなんだか知らねぇがな、あの木は俺たち部族の誇りなんだ」
「俺たち兄弟がいる限り、この村で勝手なことはさせないぜ」
「帰れ」

村をまとめていたのは、体格のいい三兄弟でした。若く精悍で、他の村人と同様動物の毛皮を肩や腰に巻き、薄褐色の肌に燃えるような赤い瞳をしています。若衆を従えて騎馬で迎え討ってきた彼らを見て、王子様は目を輝かせました。

「わぁ、なんかカッコイイね。王都にはあんな色したニンゲンいないよ」
「異民族だからね。あまり喧嘩するのもよくないし、もう帰らないかい」
「ううん、ちょうどいいや。旅のおみやげに全部連れて帰るよ」

王子様が首から下げていた笛を吹くと、どこからともなく数千の大軍が集まって来ました。顔も見えないほど鎧兜で身を固め、鋼鉄の馬具を付けた鉄騎に跨っています。彼らは王子様の私兵の一部なので、王様にすら命令権はありません。諦めた王様は溜息をついて村外へ避難していきました。

「ふん、狩猟民族をなめるなよ。都育ちの雑兵がどれだけ群がろうが、鍛え抜いた俺たちに勝てるわけがねぇ」
「こんなちっぽけな村を襲うのにその仰々しさとは、国軍も底が知れるな」
「恥を知れ」

三兄弟は少しも怖じることなく槍を振り上げ、百にも満たない若衆を伴い、大軍の中へと果敢に飛び出して行きました。

 

 

一時間もしないうちに、神木は夕空に煌煌と燃え上っていました。

「わぁ、凄い凄い。綺麗に燃えたね。あと三日は消えないんじゃないかな」

はしゃぐ王子様の後ろでは、三兄弟の連れていた村人たちが縛り上げられて荷車に詰め込まれていました。なんだかんだ言って、最新鋭の武装を揃えた大軍に、田舎の村人風情が勝てるはずもなかったのです。所詮は井の中の蛙。最強を誇ってきた彼らは、本物の軍隊にあっさり手玉に取られ、全員無傷のまま馬から引きずり下ろされてあっけなく捕まってしまったのです。手も足も出なかった恐怖に、強気だった兄弟もすっかり縮み上がってしまいました。

「ば、馬鹿なことしてすんませんでしたぁ」
「もう御神木も燃えたんで、い、命だけはお助けをっ」
「死にたくないぃっ」

涙を流して土下座する三兄弟。一番若い弟に至っては、失禁までしています。そんな彼らを冷めた目で見下ろして、王子様は呆れたように言いました。

「なぁんだ、つまんないの。弱い上に汚いし、こんなのいらないや」
「そ、そこを何とか! せ、せめて俺たち三人だけでも見逃してくだせぇ」
「い、いや、何だったら俺だけでもいいので」
「あ、兄者っ」

醜い兄弟喧嘩まで始めた三人を見て、王子様もさすがに哀れに思えてきました。

「わかったよ、殺したりはしない。珍種なのは確かだし、都の人々の見世物くらいには使えるかもね」

王子様にしては寛大な決断により、二百人ほどの村人は女子供も皆、捕獲されて王都へ連行されていきました。
御神木は王子様の見立て通り、村ごと三日三晩燃え続け、根元から焼け崩れて灰になりました。

 

 

 

 

ひと月も経たないうちに、王都に新しく動物園ができました。ニンゲンのような形をした褐色の珍獣たちに、子どもたちは大喜びです。王子様も部下を引き連れて見物に行きました。
門をくぐると、正面にサル山が見えました。人工の山や遊具のあちこちに、褐色の肌をしたニンゲンたちの姿がありました。元ニンゲン、というべきかもしれません。一糸まとわず衆目に晒され、ウホウホ、キーキーと大げさに鳴きながらサル山を駆けまわる彼らは、もはや立派な猿でした。
連れてきた村人達をこの施設に入れた時、王子様はこう告げたのです。

「せっかく動物園に来たのに、動物がずっと寝てたり、ただ座ってるだけだとつまらないよね。面白くない動物は処分しちゃうから、みんな頑張って子供たちを楽しませてあげてね」

王子様はいつもの気まぐれで言っただけなので、実はもうそんな事は覚えていません。けれど村人達はその言葉を聞いて震え上がり、自ら人間としての尊厳や誇りを投げ捨ててしまったのです。
ですからお山の猿たちも、ただ駆け回っているだけではありません。仲間を蹴落として客からよく見える位置に陣取り、頭の上に両手を突き刺してガニマタで踊って見せたり、胸を激しく叩きながらウホウホ喚いたりと、それはもう必死です。まだ幼い子ザルたちも、今まで狩猟で鍛えた脚力を活かしてタイヤに足だけでぶら下がり、揺れながら放尿したり、あるいは、仲間同士で尻を叩き合い、真っ赤に腫れ上がった尻を天高く突き出して振ってみせたりと、客を喜ばせる努力を惜しみません。
上から見下ろす人間の子供たちが哄笑とともにバナナを投げ与えてやると、猿たちは相競ってそれを奪い、口をめいっぱい尖らせて、いやらしくそれを舐めしゃぶります。その顔は人間様を喜ばせ、褒美を貰えた喜びに満ちています。身も心も猿になり果てた彼らは、それは幸せそうに暮らしていました。

 

順路に沿って進むと、鳥を入れたケージが見えて来ました。用意された羽飾りを付けた不格好な飛べない鳥達が醜く走り回る中に、一際目を引く派手な鳥がいました。褐色の肌を埋め尽くさんばかりに緑や青の羽飾りを施した、それはどうやらクジャクのようです。
尻にも長い尾を突っ込み、口には長い玩具のクチバシを取り付けています。にも関わらず、股間からもアヒルの頭が飛び出しています。白いフリフリの下着に首の長いアヒルがくっ付いた、時代を何年も先取りした斬新な衣装でした。上半身は無数の羽に覆われているとはいえ素っ裸なので、余計に下半身の異質さが際立ちます。
頭にも鉢巻きで羽飾りを巡らしており、全体的にゴテゴテしすぎて分からなかったのですが、近づいてよくよく見ると、このクジャクには見覚えがありました。王子が優しく声をかけます。

「キミ、もしかしてあの時のお漏らしお兄さん?」
「コ、コケーッコココッ! コケーッ!」

どうやらこの滑稽な鳥は、村で王子様に刃向ったあの三兄弟の末っ子だったようです。王子様に気付いたクジャクは大きな羽を付けた両手をバサバサ振ると、窮屈そうに土下座の体勢をとりました。顔を下げるとクチバシが地面に突き刺さります。

「あははは、なにそれ。その鳴き声、合ってるの?」
「コケーッ! コ、コケッコッコーッ!」
「何言ってるかさっぱりだけど、よく喋るようになったね。感心感心」
「コケェコココ! コケエェッ!」

クジャクはよたよたと立ち上がり、股間のアヒルをぶんぶん振って謝意を示しました。唾液が溜まったのか、クチバシの先からつぅっと、涎の筋が垂れてきています。

「確かに、他の鳥に比べたら目立つしお客も多いけど、うーん。猿と比べたらイマイチ面白くないねぇ」
「ギョッ、ギョケェーッ!?」

王子の言葉に、クジャクは目を剥いて飛び上がりました。何かを伝えたいのか、身振りで必死に訴えかけています。人間の言葉を使うなどという発想は浮かびもしないようです。

「こいつは、一日三回、ショーをやるんですよ。ちょうど、もうすぐ始まりますので、見てやってください」

見かねた飼育係が通訳してあげると、クジャクはほっとしたような顔を見せました。まるで人間のようなその反応が面白かったので、王子様は言われるまま、ショーが始まるまで待ってあげることにしました。
数分のうちに、続々とギャラリーが集まって来ました。

「では皆さん、今日もこの醜いクジャクの、産卵ダンスショーを御笑覧ください」

飼育係が宣言すると、クジャクは一際高い声で鳴き、跳びあがりました。片足で着地すると、両手を頭上高くで合わせて、一本足のままクルクルと回転し始めました。長く突き出したクチバシ、尻尾、そして股間のアヒルが風を切り、体中に着けた羽がバサバサと羽音を立てます。

「なぁにあれ。クジャクじゃなくて、アホウドリじゃん」
「アホウドリのアホ踊りじゃん」

数十回も回った後、クジャクはフラフラと地面に倒れ込み、クチバシを地面に突き刺しました。股間のアヒルは体と地面に挟まれて捻じ曲がっています。そのままクチバシに重心をかけて、クジャクは尻を高く掲げました。アヒルパンツの後ろには、丸く大きな穴が空けてあります。そこから飛び出した尻尾が大きく左右に揺れ、クジャクの鼻息が荒くなっていきます。必死に尻に力を込めているようです。

「コ、コケエェーーーーッ!!」

甲高い絶叫とともに、クジャクの尻から長い尾が飛び出しました。そしてその後ろから、白くて丸いものが勢いよく放たれ、壁にぶつかって砕けます。見ると、殻つきのゆで卵でした。歓声があがりますが、クジャクは尚も酷い形相で力み続けています。

「コケェッ! コケァッ!」

ポンポンと小気味良い音を立て、二個三個と、クジャクの尻から卵が発射されました。5個を出し切ると、パックリ開いた尻の穴からブウッと大きな屁をもらし、クジャクは力尽きたようにゴロリと仰向けに倒れてしまいました。

「ゴ、ゴゲェエエァア……」

その顔は酷いもので、白目を剥いて涙や鼻水を垂れ流し、クチバシの根元からダラリと舌がはみ出していました。ふと、王子様はクジャクの股間に目をやりました。股から生えた長いアヒルの首がカクンカクンと小刻みに動いているのです。それがピタリと静止した瞬間、アヒルの口から黄色い水が噴き出しました。臭い立つ悪臭に、小便だとわかります。アヒルの首は空洞で、ペニスからそのまま繋がっていたようです。クジャクの小便は高くアーチを作って降り注ぎ、ケージ内に水溜りを作っていきました。初冬なので、もやもやと湯気が立ち込めていきます。嘲笑と共に拍手が沸き起こりました。クジャクは焦点の合わない目で微笑み返し、力なく羽つきの手を振りました。

「あーあ。またオシッコ漏らしちゃって。本当に汚い奴だね」
「コ、コケ、コケェ」

ショーが終わると、王子様はケージの中に入って、倒れたままのクジャクの顔を踏みにじりました。尿溜まりの上を歩いてきたので、クジャクの顔は汚水と泥でさらに醜く汚れていきました。

「あ、もったいないからコレ、食べさせてあげるよ」
「コ、コケッ!? ゴフゴフッ」

王子様は手袋をはめてそばに落ちていた生臭いゆで卵をつかみ、適当に潰してクジャクのクチバシの先端から流し込みました。

「おお、王子様手ずから餌を与えてくださるなんて、なんと恐れ多い」
「国の物は、僕の物だからね。たまには世話してあげないと」
「ゴフゴフ、グギャ……」

喉に詰まったのか、クジャクはまたも白目を剥いて痙攣しはじめました。

「まったく、手間がかかるなぁ」

呆れた王子様は自らの性器を取り出し、クチバシの中に突き入れると、ゆっくりと黄金水を流し込んでやりました。おかげでクジャクは激しく咳き込みながらもなんとか卵を飲み込めたようです。

「ふふ、じゃあ、またね。キミのお兄さん達の様子も見に行かないと」

すっきりとした表情で言うと、王子様は性器をしまって悠々とケージを出て行きました。

「ゴキョ……ホゲェ、ゲホッ」

残されたクジャクは白目を剥いたまま力なく敬礼を返しました。えずく度に鼻の穴から尿と卵の黄身まじりの鼻水を垂れ流していましたが、王子様に芸を見てもらえて大満足のようです。

 

 

次に王子様が向かったのは、豚の入った檻でした。フックをかけて鼻を広げた十数匹の黒豚が、泥まみれの汚い身体を客に見せつけ、ブーブーとやかましく鳴いていました。王子様より幼い子豚から、髭の生えた壮年の豚までいますが、どれもそれほど太ってはいないのであまり豚らしくありません。がっかりした王子様の目に、異様な肉の塊が飛び込んできました。
大きく膨らんだ腹。その背に手足を回し、ロープで一纏めに縛り上げられた、ボンレスハムのような黒豚。それが天井から吊るされているのです。正面から見ると、丸い塊から小さな包茎ペニスだけが飛び出しているという奇妙な光景でした。後ろに回って顔を覗き込み、王子様は「あっ」と声を上げました。

「誰かと思ったら、兄弟を見捨てようとした、あのお兄さんじゃない」
「ブ、ブヒッ! ブヒブヒーッ」

鼻フックですっかりブタ面になっていましたが、それはあの三兄弟の次男でした。

「どうしたの、このお腹? 前に会った時は、こんなに太ってなかったよ。むしろ、一番痩せてたような」
「そんなに太ってはいないのです。こいつ、毎日毎日脱走しようとしてたんで、見せしめのためにも罰が必要だと思いまして」

王子様の疑問に、飼育係は淡々と答えました。

「口と尻の穴から、腹が膨れ上がるまで大量の水を流し込みました。水だけじゃ足りないと思ったので、肥料も結構な量食わせましたが。まるまるしてきたところで尻に栓をして、体を縛り上げて晒しているのです」
「ふぅん、自分だけ逃げようなんて、相変わらず醜い奴だね。豚にはぴったりだ」
「ブヒッ!? ブヒイイイイィィッ!!」

飼育係から受け取ったムチで打つと、豚は醜い悲鳴を上げて体を大きく揺らしました。揺れる度にロープが食い込み、さらに苦しめているようです。

「ブヒイイイィ! も、もうやめ、助けてくだひゃいぃ!」
「あれ? この豚、何で人間の言葉喋ってるの? 弟の方がずっと賢いね」
「ひっ……ブゥブゥ!ブヒイイイィ!」

改めて顔を観察してみると、それはもう酷いものでした。腹を上に宙づりにされているので、顔は逆さを向いています。大きく突き出した舌から涎が、無様に広げられた鼻の穴からは鼻水が垂れ流れ、それが額を逆に伝って、下向きに逆立った髪の毛へと染み込んでいるのです。ちょうど王子様の目線の高さに豚の顔があるのですが、目を合わせようとすると鼻の穴を除く格好になります。もともと鼻筋が高かっただけに、逆三角形に広がった穴は深く大きく見えました。しかも鼻の頭には鼻水が溜まってヌメヌメと光っているし、穴の中では恐らく一度も手入れをしていないだろう鼻毛が何重にも重なって見えるのです。鼻の影から覗く涙に潤んだ目は卑屈で、恐怖に満ちていました。

「うわぁ、これは本当に醜いね。まぁ、豚は醜いものだしね。かわいいミニブタなら他に何匹かいるみたいだし」

王子様の声音にはクジャクを見ていた時の弾んだ響きは全くなく、酷く冷たく乾いていました。その響きに打たれたように、黒豚の体が小刻みに震えました。同時に、頭に血が上って青ざめていた豚の顔が、ほのかに赤みを帯びました。その反応に、飼育係が気づいたようです。

「王子様、さすがですね。私などがいくら躾けてもただ怯えるばかりでしたが、王子様に見下されて、こいつは無意識に喜んでいるようですよ」
「え? そうなの」

豚はブンブンと頭を振りますが、王子様がムチで打って見せると、悲鳴を上げながらも小ぶりなペニスを激しく震わせました。

「これが、喜んでいる証拠なんですよ」
「へぇ、変なの。苛められて嬉しいなんて、救いようがないね」

王子様がニッコリ微笑みかけてやると、豚の瞳がとろりと潤んだように見えました。さすがに生まれた時から無意識に暴虐の限りを尽くしてきただけあって、王子様には他者を屈服させる能力が備わっていたのです。

「ほら、豚ならもっと鳴いてみせてよ、みじめにさ」
「ブヒッ! ブヒイイッ! ブヒイイイイッッ!」

肉を打つビシバシという音に合わせて、豚が全身を震わせて泣き叫びます。

「ちがうでしょ、ニンゲンが豚の真似してるわけじゃないんだからさ。もっと自然に、豚らしく鳴いてみなよ」
「ブヒッ! ンゴッ! ……ゴッ! ブゴッ! ンブゥッ!」
「そうそう、マシになってきたね。ご褒美にもっと強く叩いてあげるよ。えいっ、えいっ」
「ゴッ、ブゴオオオオオッ! ブフゥッ!!」

ムチで打たれ続けた豚の体はいよいよ痛々しく見えてきましたが、その顔はというと生き生きと輝いてきています。目を大きく見開いて赤い瞳をギラギラ光らせ、大きく開いた口の端は明らかに吊り上っています。鳴き声も口からでなく、主に鼻から出しているようで、フックで広げられた以上に自ら鼻孔を広げています。

「これは凄い。私が半月で出来なかったことを数分で。さすがは王子様です」

飼育係が跪いて頭を下げました。心から感服したのです。王子様はただわがままなだけではなく、人を引き付ける力もちゃんと持っているのです。

「えへへ、褒められちゃったね。じゃあ豚君、もっといいご褒美をあげるよ」
「ゴッ! フゴッ!」

期待に満ちた目を向ける豚の腹を笑顔で一度さすると、王子様は拳を強く握りしめて垂直に引きました。これから何が起こるのかと豚が気付いた時には、王子様の拳は勢いよく丸い腹へ突き出されていました。

「ンンゴォオオーーーッ!? ブギャアアアアアーーーーーッッッ!!」

絶叫とともに豚の尻から栓が飛び出し、茶色い液体が物凄い勢いで吹き上がっていきました。飼育係がとっさに王子様を檻の外へ連れ出します。

「ブギャアアアアッ! ブギョッ、ブゴオォッ!」

豚は激しく体を揺らしながら、ひたすら糞汁をまき散らします。目は完全に白目を剥き、口と鼻を裂けんばかりに広げていました。あまり激しく動くので、豚を吊ったロープがぐるぐると回転し始め、糞汁は360°、檻の中全体へ降りかかります。逃げ惑う他の豚達も、漏れなく糞まみれになってしまいました。

「あらら。やりすぎちゃった。掃除が大変だ」
「ご心配なく、調教に比べたら大した仕事ではないので」

そんな事を話しているうちに、豚の脱糞と回転はゆっくり収まっていきました。数分間まき散らされ続けた糞で檻の中はどこもかしこも真っ茶色、およそ一つの個体から出たとは思えないほど凄まじい量でした。当然臭いも酷いもので、巻き添えを食った豚達の中には気絶しているものもいます。

「うええ、臭すぎるよ。耐えきれないから僕はもういくね」
「ブ、ブゴッ……、ギョヘヘヘ」

手を振って駈け出して行く王子様に、豚は声にならない声で答えました。腹はすっかり元の大きさにしぼみ、緩くなった縄から零れ落ちて自らの糞汁の海へと沈んでいきます。完全に正気を失ったおぞましい顔は、振り切れた笑顔のようにも見えました。
ぐったりとした体の中心で、小さなペニスだけが元気よく天井を指していました。

 

 

 

さて、それから珍獣たちの生態を順番に見て回った王子様が最後にたどりついたのは、ふれあい広場と呼ばれるコーナーでした。どこの動物園にもありがちな、大人しい動物たちと戯れる場所です。
ヒツジやウサギに成り果てた子供が放し飼いされている和やかな草場を歩いていくと、夕焼けをバックに一際大きな影が蠢いているのが見えました。周囲には人間の子供たちが何人も集まっています。
近づいてみると、それは褐色の肌に所々白いペイントを施し、鼻に大きな鼻輪をぶら下げた、大柄なウシでした。

「やあ、お兄さん。見ないと思ったら、こんなとこにいたんだね」
「モオーッ、ブモオオーーッ!」

村人達のリーダーを務め、王子様相手に不遜にも喧嘩を売った、あの三兄弟の長兄です。兄弟の中でも特に体が大きかったので、ウシになるにはピッタリでした。もちろん全裸で、四つん這いになって草を食んでいましたが、王子様が声をかけると手足を折りたたんで腹ばいになりました。

「その分だと、キミは自分の立場がよくわかったようだね」
「ンモォーーッ」

逞しい筋肉をしならせながらも、ウシはすっかり縮こまっていました。王子様が許可を与えると、再び四つん這いに身を起こします。
王子様がウシのそばから離れると、遠慮していた子供たちが再びウシと戯れ始めました。二人が背中に乗って頭や尻を叩き、他の子はお約束通り尻に刺さった尻尾型のハリガタを抜き差ししたり、鼻輪を思い切り引っ張って鼻毛を抜いたりして遊びます。そんなことをされても、ウシは優しい目を向けてノシノシゆっくり歩くだけです。歩くたびに、股から下がった大きなペニスがブラブラ揺れています。
気性が荒く、豪快だったあの男だとはまるで思えません。もうすっかり、ここでの暮らしに慣れてしまったようです。王子様は満足そうにその光景を見守り、飼育係に言いました。

「人気者みたいだね」
「狩猟民族とはいえ、山菜や野草も結構食べていたようで、食事も本物の牛に与えるもので問題ありません。便利なものです」

遠くで音楽が流れ始めました。閉園が近いようです。

「おっと、いけない。せっかく王子様がいらしたんだ。アレを見てもらわないと」
「こいつも、なにか芸をやるの?」
「芸ってほどでもないですが。ウシですからね、乳搾りですよ」

飼育係に伴われて、王子様は再びウシの側へ歩いて来ました。飼育係は赤い手袋をはめ、空の瓶がいくつも入ったケースを抱えています。それを見た途端、ウシの目つきが豹変しました。茫洋としていた赤い瞳はギラギラと不気味に輝きだし、荒くなった鼻息で鼻輪が勝手に動いて音を立てます。すぐに舌を垂らして涎までこぼし始めました。

「ホントにお前は、乳搾りがすきだなぁ」

飼育係は笑いながらウシのそばに膝立ちになり、オスにしては妙に突き出たウシの乳首をゆっくりと摘まみました。

「牛乳って、オスでも出せるの?」

王子様も興味津々といった様子で、飼育係の隣にかがみこみました。

「こいつは特別ですよ。これの弟が卵を産むところ、ご覧になりましたか? あれと同じで、こいつの乳首にもあらかじめ
牛乳を染み込ませてあるのですよ。注射器でね。はじめは試行錯誤でしたが、国一番の博士が協力してくださったのでなんとか形になりつつあります」

そう言うと、飼育係は瓶をあてがいながら、ウシの乳を思い切り握りつぶして捻りました。

「ンモオオオオオォォォーーッ!? ブモオオオオォォォォッ!!」

ウシの雄叫びに合わせて、乳からはプシュッと白い液体が飛び出しました。そこからは勢いはありませんが、それこそ染み出すようにじわじわと、牛乳が零れ落ちてきます。

「へえ、面白いね。これ、飲めるの?」
「健康的には問題ないですが、飲めますか?」

苦笑されて、王子様も考え直しました。ウシとはいえ、この個体は雄、それも普通のウシではないのです。顔もウシのそれではなく、整った男らしい顔なのです。もっとも、今は寄り目になって半分白目を剥き、伸ばした舌や興奮で膨らんだ鼻の穴から粘ついた液体を滴らせて糸を引いており、並みのウシなどよりよほど歪んだ形をしているのですが。

「じゃあ、僕たちが飲んでもいいですか」

隣にいた少年たちが手を上げたので、王子様は快く許可を与えました。

飼育係が離れると、二人の子供がウシの下に潜り込み、乳首をひとずつ咥えました。

「歯でねじりながら、勢いよく吸ってみな」

飼育係に言われた通りに、子どもたちは雄牛から乳を吸い始めました。

「モオオオオオッホオオオオオ゛~~ッッ!!?」

ウシがますます顔を歪めて、激しく体を振りました。しかし子供たちは乳首に噛みついたまま離れません。たまりかねたウシがついに二本足で立ちあがっても、子どもたちは乳首にぶら下がる形で持ち上がり、脚を宙に浮かせていました。それを見て、王子様は無邪気に笑い転げました。

「コラ、糞ウシ! お客様になんてことしてやがる」
「ブモオオオッ!」

飼育係がスコップで尻を叩くと、ウシは転げるように倒れ込みました。その寸前に、子どもたちは器用に飛び下がります。

「確かに牛乳だったけど、なんかしょっぱかったです」
「ああ、そりゃあ多分アイツの汗だな」
「うええ、汚い」
「それも改良しとくから、また来てくれよ」

子供たちが帰ると、飼育係はウシを蹴飛ばしてもう一度四つん這いに戻します。

「じゃあ、今度はこっちを絞りますね」

飼育係が握ったのは、ウシの股間から生えている巨根でした。

「ええ、オシッコ絞るの?」
「実はオスはこっちからミルクを出すものなんですよ。臭くて飲めませんけど、後でチーズにしてコイツの餌にします」

ウシはまたしても涎を垂らして鼻の下を伸ばしています。握られたペニスは、先ほどまでの倍以上に膨らみ、飼育係の両手に余るほどになっていました。思えば、巨根とはいえ大きすぎます。大きなウシの巨根なら確かにこれくらいはあるかもしれませんが、元々はニンゲンだったはずなのです。

「こっちにもいろいろ投薬したので、一回で瓶二十本分は出るんですよ」

言いながら、飼育係は両手で目一杯巨根をしごき始めました。

「ブモオオオオオオオオオッ!!!」

ウシが再び雄叫びを上げました。飛び上がりそうになる体を必死で抑えているようで、前足が土の中にめり込んでいきます。ペニスからは、蛇口でも開けたかのように凄まじい勢いで白い液体が流れていました。みるみるうちに瓶を満たしてしまい、飼育係は手際よく瓶を取り替えます。ペニスからはとどまることなく液体が流れ続けていきます。もうペニスを擦ってやる必要もないようで、飼育係は定期的に尻尾を抜き差しして、満杯になった瓶を取り替えているだけでした。

「モオオオオ゛オ゛ッ!モオオッ出ないれひゅうう」
「何を人間様みたいな口利いてるんだ」
「ブモオオオオオオッ」

半分を過ぎたあたりで、ウシは仰向けにひっくり返ってしまいました。それでも長い射精は終わりません。吹き出す精液の落下する位置に瓶が置かれ、ミルクはどんどん溜まっていきます。

「オオオオオオベベベベンボボボボオッゲゲゲゲゲ」

ついにウシはまともに鳴くことさえできなくなりました。顔面は完全に崩壊し、化け物としか思えないほどです。目玉は飛び出しかけ、口は裂けんばかり、突き出した舌が鼻輪に絡まって大変なことになっています。
手足も間断なく震え、赤ん坊が泣きわめいているかのようですが、体格のいい男がやると見苦しい限りです。あまりの衝撃に射精しながら糞まで垂らしてしまったようで、尻尾が茶色い塊に押し出されてきました。

「おええ。僕もういいや、こんなもの見てたら頭がおかしくなるよ」
「これは、お見苦しいところを」
「いいよ。家畜なんだから、見苦しいのは当然だし」
「ブモオオオッ、おげえええっ、ち、チンポオオオオオッオオオオオオ」

耳障りな悲鳴に送られて、王子様は夕闇に染まりかけた動物園を後にしました。

 

 

 

「ねぇ、父上」
「なんだい」

数日後、謁見の間に現れた王子様のねだるような声音に、王様は思わず身を固くしました。

「北の方に、この前のとは違う異民族がいるって聞いたんだ」
「いるね。それがどうしたんだい」
「動物園を作ろうと思って」
「それはこの間作ったばかりじゃないか」
「もう飽きたよ、あんな汚い奴ら。もっとカッコイイのが欲しい」

王様は頭を抱えました。このままでは、いずれ国中の人間が王子様の玩具になって捨てられてしまいます。

「いいよ、僕だけで狩ってくるから。じゃあね」

その日のうちに、王子様は数万の軍勢を連れて進発してしまいました。

――このままでは、いけない。
そう考えたのは、王の右腕である宰相でした。まだ若いのに有能で、この国の未来を担う人材と言われています。ですが、あの王子が後を継いでしまったら、この国に未来などありません。宰相は智謀の人だったので、すぐに計画を立てました。同じく国の未来を憂う若い将軍を仲間に誘い、王子暗殺を企てたのです。将軍は身は小柄ですが、十倍の兵力の敵を押し返した俊英で、英雄とさえ言われています。味方に付く兵も多いでしょう。

「僕と貴方で、あの悪魔のような王子を葬ってしまいましょう」
「ああ、後ろめたい部分もあるが、それが国のためだ」

悪逆の限りを尽くす王子様に、反抗するものが現れた。
ここからこの国の運命が少しずつ変わっていくのですが、それはまた、別の話。

 

おしまい?

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